唐揚げが空前のブームだ。2019年の市場規模は853億円で前年比141%と大幅に伸び、コロナ禍のテイクアウト需要で2020年も対前年比123.1%に拡大すると見込まれる。専門店の乱立する唐揚げ市場に何が起きているのか。経済ジャーナリストの高井尚之氏が迫った——。
自宅でテイクアウトした唐揚げ弁当を食べるビジネスマン
写真=iStock.com/SetsukoN
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「外食」よりも、持ち帰りの「中食」が人気に

コロナ禍で、国内の「食生活」も大きく変わった。

通勤する社会人が減ってリモートワーク中心となり、「外食」よりも、調理された食品を買って持ち帰る「中食なかしょく」が人気。配達してもらうデリバリーの需要も増えた。これまで地元の商店事情に疎かった人も、新たな店を開拓したのではないだろうか。

外出自粛期間には、自宅で簡単に作れるレトルトカレーやスパゲッティが伸びたが、調べてみると、ほかを圧倒する人気を誇るのが「鶏の唐揚げ」だった。実際、東京都内の駅前商店街などを中心に、新たな唐揚げ専門店が次々にオープンしている。

「唐揚げ」はコロナ以前から人気料理だったが、一段と存在感が高まっているのだ。その理由は何か。食生活にくわしい識者の意見を紹介しながら考えてみたい。

外食でも中食でも、総菜でもおやつでも、どこでも人気

「鶏の唐揚げは、外食・中食のどちらでも対応できるオールラウンドな食材です。しかも食事の総菜だけでなく、おやつでも利用される。味のバリエーションも豊富です」

円相フードサービス専務の稲田俊輔氏は、こう説明した上で、唐揚げの存在の変化にも触れる。稲田氏は自らも食情報の発信を行い、飲食店のプロデュースも手がける。

「10年ほど前にも唐揚げ専門店ブームがあり、地方のB級グルメが注目されて、昔から唐揚げ文化がある大分県の人気店が東京にも進出しました。一方、おやつとして利用されるのはコンビニですが、真正面からの唐揚げではなく、店内で販売される商品の実質は『ナゲット』に近かった。つまり、消費者はさまざまな唐揚げの味を楽しんできました。家庭では手間のかかる揚げ物をやらなくなった風潮も、ブームの追い風です」(同)

円相フードサービス専務の稲田俊輔氏
円相フードサービス専務の稲田俊輔氏(写真=本人提供)

「食の総合コンサルタント」としてメニュー開発のほか多彩な活動をする小倉朋子氏は、食材における「唐揚げの立ち位置」をこう説明する。

「もともと唐揚げは若い世代が大好きな食材で、部位もモモ肉や胸肉、手羽などバリエーションが豊富です。購入場所もスーパーやデパ地下、専門店、精肉店、コンビニなど幅広い。それがコロナ禍で、自宅で食事をとる回数が増え、弁当や総菜としての唐揚げの注目度がさらに増しました」

かつてのような専業主婦が激減し、最近の調査では働く女性は7割を超えている。共働き世帯や1人暮らし世帯も増え、全世帯に占める単身世帯(1人暮らし)の割合は2010年に3割を超えた。これらも「揚げ物を外で買う」風潮を後押ししている。