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麗しい統一感──レクサスLC500h試乗記

一部改良を受けたレクサス「LC500h」に齋藤浩之が試乗した。世界的にも珍しいハイブリッドのラグジュアリークーペの魅力とは?
LEXUS レクサス LC500h ソアラ トヨタ TOYOTA ハイブリッド
Sho Tamura
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見事なスタイリング

目の前にあらわれた途端、思わずハッとする。レクサスLC500hのスタイリングは、登場から3年半を経た今も、鮮度を失っていないと思う。スタイリング・スタディとしてクルマ好きの前に「LF-LC」の名で姿をあらわした時から数えれば、もう8年半も経っている。それでもなお、こうして目の前にすると、美しいスタイリングだなぁと素直に見惚れてしまう。

【主要諸元(LC500h“Sパッケージ“)】全長×全幅×全高:4770mm×1920mm×1345mm、ホイールベース2870mm、車両重量2010kg、乗車定員4名、エンジン3456ccV型6気筒DOHC(299ps/6600rpm、356Nm/5100rpm)+モーター(132kW/300Nm)、トランスミッション電気式無段変速機、駆動方式RWD、タイヤサイズ(フロント)245/40RF21(リア)275/35RF21、価格1500万円(OP含まず)。

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矯めつ眇めつしながらクルマのまわりを歩き、いろいろな角度から見ても、その印象が変わらない。X字型の大きなラジエーター・グリルにも違和感を覚えることがない。とってつけたような感じがしないのは、唯一LCだけだ。まるでケーキの箱を1枚の紙から組み上げるかのごとく独立した面の組み合わせを意識させる多くのクルマと違って、切れ目のない1枚の表皮に覆われたかのようなこうした造形を、よく自動車デザイナーは“スリー・ディメンショナル”と表現するが、そうとしか言いようがない。

この見事なスタイリングを成立させているひとつの要因は、大柄なボディ・サイズを意識させない巧妙なデザイン手法にあると思う。全長は4770mm。クーペであることを考えれば大型というべき堂々としたもの。全幅はスーパー・スポーツカー並の1920mmもある。けれども、クルマから離れて少し距離をとって眺めると、そんなに大きなクルマには見えなくなる。

ボディカラーはグラファイトガラスフレーク。

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ドアハンドルは格納タイプ。

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ホイールベースは2870mmもあるのに、21インチの大径ホイールのおかげで、そうとは悟らせないし、広い全幅一杯まで張り出したタイヤとそれを覆うフェンダーよりもボディのサイド・パネルが絞られているために、ズシリとした安定感だけでなく、引き締まった緊張感もある。茫洋としたところがない。ガラス面積を小さめにとって形作ったグリーンハウスもまた、その感を強くする。

寸法の数字だけ見ていると、大型2+2ラグジュアリー・クーペのそれなのに、2座のスーパースポーツかと錯覚させるかのような形を手にしている。遠目に見るレクサスLC500hは、ひときわスポーティなのだ。

21インチのランフラットタイヤはミシュラン「パイロット・スーパー・スポーツ」。

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トランクリッドには電動格納式のリアスポイラーが内蔵されている。

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リアスポイラーは約80km/hになると自動で展開され、約40km/h以下になると格納される。センターコンソールのスウィッチを使えば、任意で開閉出来る。

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見た目からの連想に正直に寄り添う仕立て

大きなドアを開けてなかに乗り込む時も、腰を低く落とし込んでシートに着く一連の動作は、スーパースポーツカーのそれに近い。座して見る眼前の景色や雰囲気も、ラグジュアリー・クーペのそれよりスポーツカーのそれに近い。

ウインドスクリーンは小さめで、空間もタイトに感じる。大型ラグジュアリー・クーペに期待するようなエアリーなそれとは明らかに違う。メルセデス・ベンツの「Sクラス・クーペ」とは明らかに違う種類のクルマなんだと意識することになる。やはり、ここでもスポーティだと感じるのである。

上質なレザーをたっぷり使ったインテリア。

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インフォテインメントシステムはApple CarPlayとAndroid Autoにも対応する。

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だから、というべきなのだろうか、都内の道を走らせ始めた途端、唖然とした。予期していたのとまったく違っていたのだ。乗り心地が快適なのである。

都内の路面環境は決して褒められたものではない。工事カ所も多々あるし、角こそ立っていなくても段差はあるし、小さなうねりはいたるところにある。そういう道を柔らかくいなしていく。脚を深くストロークさせてではなく、小刻みに連続して続く不整に上手くタイヤを追従させながら走り抜ける。ボディが小刻みに揺すられることもなければ、かといってフワつくこともない。姿勢は終始フラットに保たれる。

シート表皮はレザーと人工皮革「アルカンターラ」のコンビタイプ。“Sパッケージ”のフロントシートは専用のスポーツタイプになる。

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リアシートはふたり掛け。バックレストは固定式。

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タイヤはミシュランのパイロット・スーパー・スポーツZPで、しかもランフラット。サイズだって、前に245/40RF21Y、後ろに275/35RF21Yだ。どう考えても柔らかな乗り心地に貢献するそれじゃない。にもかかわらず当たりがはっきりと柔らかい。サスペンションのどこかに流体でできたフィルターが挟み込んであるかのような感触だ。

当たりの柔らかさだけなら、大型高級サルーンのそれにも匹敵する。路面条件がひどく悪いと、バネ下重量が決して軽くないことを意識させる場面はあるものの、それでもバネ下がだらしなく踊ったりするような事態にはならない。総じて巧みなセッティングだと思う。

にもかかわらず、ビシッと芯の通った上下動の少ないボディの動き、操舵・保舵力ともに適度な重みを失わないステアリングの確実感と接地感、スポーツカーのそれに近いノーズの追従性の良さが、そこにある。

マークレビンソンのリファレンスサラウンドサウンドシステム(13スピーカー)は22万3300円のオプション。

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都内を普通に走らせている時に感じるクルマの動きやドライビング・フィールは、大型のスポーツカーやGTのそれなのである。こういうクルマをほかに知らない。想定外である。

LCはコンバーティブルの追加投入に合わせて、クーペにも多岐にわたる改良作業が織り込まれているが、まさか、こういう仕立てを実現してくるとは想像もしていなかった。これまでは、運動体としての仕立てが一貫してスポーツカー寄りのそれだったからである。見た目からの連想に正直に寄り添う仕立てだった。

ラゲッジルーム容量は約172リッター。ガソリンモデルより約20リッター少ない。

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時代の先端にある

これは嬉しい驚きになった。なったと言うのは、こうした乗り心地やドライビング・フィールがLC500hのハイブリッド・パワートレインと見事に調和しているのが分かったからだ。

首都高速や湾岸線も走らせて現実的な速度域や交通状況をほぼすべて試してみると、クルマ全体に統一感があるのが十分に納得できたからだ。3.5リッターV型6気筒自然吸気エンジンと2基の電動モーターを組み合わせたトヨタが呼ぶところの“マルチステージ・ハイブリッド”式パワートレインがもたらす走行感覚はひとことでいってハイテック感に満ちている。静かで滑らか。清らかと言ってもいい。そして、必要に応じてパワフル。過剰な感じはどこにもないけれど、不足を覚えることもない。

ルーフにはCFRP(炭素繊維強化プラスチック)を、ドアにはCFRPとアルミニウムを使うなど軽量化を図る。

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V型6気筒エンジンと1基の電動モーターの出力は遊星ギア機構への2つの入力として作用し、その合成出力に2基めの電動モーターが適宜加勢する。その後に4段ATとほぼおなじ遊星ギアと多板クラッチから構成される自動変速機が組み合わされ、最終出力を取り出す。自動変速は疑似的に10段ATを模した変速プログラムが組まれている。

これによって低速度域から高速度域までの幅広い領域でエンジン出力を有効活用できる上に、法定速度域内(上り坂のような高負荷条件は別)ならエンジンを休止して電動モーターのみでのEV走行も可能なシステムを実現している。高速道路でもおとなしく流れに乗っていればすぐにエンジン回転数がアイドリングまで下がり、電気的付加が許せば休止する。首都高速程度の速度域であれば、緩加速だけならエンジンの助けを借りずやってのけもする。足りなければ即座にエンジンが始動して援護し、さらに強い加速が必要となれば主役の座を奪い、多段変速制御を利して高い回転域を積極的に使いながら必要な出力を紡ぎ出していく。

搭載するパワーユニットは3456ccV型6気筒DOHC(299ps/6600rpm、356Nm/5100rpm)+モーター(132kW/300Nm)。

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メーター横のドライブモードの切り替えスウィッチ。

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こういう高負荷状況では6600rpmまで使えるV6ユニットがクォォォーンと軽やかな歌声を存分に聞かせてくれるから、相応に高揚感もある。複雑な制御によってエンジンと電動モーターと変速機を巧妙に働かせて、こうした一連の流れを極めてスムーズに繋いでいく。どんな条件下でもパワートレインからの振動はほとんど感じない。滑らか至極。もし、連続的な加減速を必要とする元気な走り方が必要になったら、ドライブ・モードを切り替え、さらにシフトレバーをマニュアル変速ゲートに入れ、パドルシフターを操って、V6エンジンを中高速回転域に拘束すればいいだけのことだ。

こうしたハイブリッド・パワートレインの洗練されたマナーが、当たりの柔らかい、けれどボディの動きには締まりがある脚の仕立てと、美しく調和する。時代の先端にある新しい乗り物を走らせている実感がある。イイ物に乗っている感がある。

“Sパッケージ“には、トルセンLSDを装備。駆動輪であるリアタイヤのトラクション性能を確保する。

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メーターはTFT液晶タイプ。

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ドライブモードごとにメーター表示が切り替わる。

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ハイブリッドならではの魅力とは

と、ふと、40年ほども前に、初代「ソアラ2800GT」に乗せてもらった時の記憶が蘇った。大学に入って間もなくできた友人に裕福な家の子がいて、お兄さんと共用とはいえ新車の「ギャランΛ(ラムダ)」をポンと買ってもらっていた。家が大学のすぐ近くにあったから、授業がないとしょっちゅうドライブへ出かけた。

その彼が、僕がクルマ好きであると知っていたからか、お父さんが買い替えたばかりのピカピカのソアラ2800GTを勝手に持ち出してきて乗せてくれた。

ステアリング・ホイールは、走行性能開発を担当するテストドライバーが走り込みを重ねて開発したという。マグネシウム素材を使ったパドルシフトは、ステアリングを握る手を持ち替えることなくシフトが可能な形状に設計されている。

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助手席にいてさえ如実にわかる走りの上質感。メーターは世に先んじたデジタル式だし、内装は艶やかな色使いだしで、新し物感も横溢。地方都市でのことだから、出たばかりのソアラは注目の的で、乗っている人間が恥ずかしくなるほどの羨望の眼差しを集めまくった。排気量が2000ccを超える3ナンバー車に乗っている人はほんの一握りである。

2000ccではなく2800ccを積んだソアラは、紛れもなく高級車でありGTだった。子供から老人まで男子たるものだれもがクルマ好きだと皆が信じて疑わなかった時代のことである。もし今、世が世なら、LC500hもああいう存在になったのだろうなと思う。キラキラピカピカの、誰もが羨望するクルマに。

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しかし、あらためて僕などが言うまでもなく、自動車狂騒曲時代はとうの昔に去り、幻想から覚めてクルマに対して冷静な人々が圧倒的多数になった今、LC500hはそういう社会的存在ではない。それでいいと思う。

欧米に比べればエンスージアスティックなクルマ好きは無残なほど少ないかもしれないけれど、これからまた始めればいいだけのこと。熱心なクルマ好きは確実にいるし、そういう人間の心をハッとさせるような、憧れを抱かせてくれるようなクルマさえあれば、そういうクルマ好きが死に絶えることは決してないはずだ。LC500hは、確実にそういうクルマの1台だと、僕は思う。

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とここで、はて? 5.0LリッターV型8気筒ガソリン自然吸気と10段ATを組み合わせたLC500はどうなのだろう? という疑問が頭をよぎった。大排気量自然吸気で7100rpmまでブンまわして477psを叩き出すV8を存分に堪能しようと思ったら、10段ATよりも、段数は少なくてもデュアルクラッチ式多段自動MTとかマニュアル・ギアボックスが欲しくなるのではあるまいか。車両重量も200kgぐらい削って欲しくなるのであるまいか。乗用車的幾何学配置のサスペンション・システムではなく、もっとシンプルでレーシィな構成の脚を欲張りたくなのではあるまいか。と、妄想が連なっていく。

LC500hは、理想的な前後重量配分とサスペンション設定の見直しが相まって、走らせて楽しい素直なハンドリング特性を実現しているし、コーナリング能力も高い。けれど、それは車両重量2tに達する2+2ラグジュアリー・クーペのそれとしては極めて優秀でも、走り最優先の500ps級スーパースポーツのそれではない。V8搭載のLC500は、LC500hと比べて、50〜60kg軽いに過ぎない。優に1.9t超えのヘビー級クーペなのだ。

LC500hに使われているV6よりずっと迫力のあるサウンドを響かせるV8をLCでしゃぶり尽くそうというのであれば、いっそコンバーティブルの方が満足度は高いのではあるまいか。と思ったりもする。つらつらと考えていくと、ますますハイブリッド・パワートレインを使う500hに魅力を感じることになる。そこには、麗しい統一感があるのだから。

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文・齋藤浩之 写真・田村翔