見えてきたGo Toの恩恵格差、廃業する老舗旅館の悲哀

見えてきたGo Toの恩恵格差、廃業する老舗旅館の悲哀
見えてきたGo Toの恩恵格差、廃業する老舗旅館の悲哀
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 新型コロナウイルスの影響で苦境に立たされている宿泊施設などを支援する政府の観光支援策「Go To トラベル」の開始からまもなく3カ月。「お得感が感じられる高級宿ばかりが恩恵を受けている」と批判の声も上がる中、大津市のある旅館が今月いっぱいで廃業することになった。「Go To トラベル」に参加したものの効果は得られず、経営は危機的状況に。断腸の思いで60年余り続いた歴史に幕を下ろす。(清水更沙)

60年余りの歴史に幕

 「長年にわたって多くの人が足を運んでくれました。まさかこんな形で終わってしまうなんて…」

 廃業が決まった大津市の旅館の若女将(32)は肩を落とす。

 創業は昭和34年。高祖母の代から続き、若女将が5代目となる。祖母らから聞いた話によると、高度経済成長期は客数や売り上げも右肩上がりで、毎日にぎやかだったという。旅館の仕事に誇りを持ちながら働く家族の姿を見て育ち、自身も当たり前のように家業を継いだ。

 自慢は近江牛のすき焼きや地元食材をふんだんに使った懐石料理。「おいしい料理を手軽に楽しんでほしい」との思いから、料金は1泊2食付きで約1万3千~1万8千円に設定していた。

 「お客さんが喜んでくれると本当にうれしかった。この光景がずっと続いていくと思っていた」と思い出をかみしめる。 

 お客さんが来ない-。新型コロナの影響を実感し始めたのは3月ごろ。2月には大学生らが「追い出しコンパ」として宴会を行ったが、その後は新規の予約が入らず、キャンセルばかりが増えていった。それでも、「3、4月は何とかなる、これから頑張らないといけないなと考えていた」という。

 ところが、収束の兆しは一向に見えてこない。わらにもすがる思いで「Go To」に参加したが、状況は変わらなかった。「今後の見通しが立たない中、経営維持のために設備投資に多大な金額をかけるのは無理だ」。次第に廃業を意識するようになり、不安と悲しみで眠れない日々が続いた。

 「(Go Toは)大手や高級宿しか恩恵を受けないのだと分かった。いつでも泊まれる小規模な旅館などはこのコロナ禍で淘汰(とうた)されていく」

 多いときには1カ月で約120組の予約があったが、9月は4連休があったにもかかわらず、わずか40組にとどまった。午前5時に起き、慌ただしく過ごしていた日々が嘘のようだと振り返る。11人いた正社員やパート従業員はやむなく解雇し、若女将自身も次の職を探している。

 「いろんな人から『本当に終わらすのか』『やめてほしくない』との声があった。私の代で終わらせて本当に申し訳ない。悲しくてたまらない」

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