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新型フェアレディZを日産が投入する重要性とは?

日産自動車(以下、日産)が発表した新型「フェアレディZ」について、大谷達也が考えた。今の日産にとって、新型フェアレディZが重要な理由とは?
日産 NISSAN 日産自動車 フェアレディZ スポーツカー Z32 S30 北米
日産 NISSAN 日産自動車 フェアレディZ スポーツカー Z32 S30 北米
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完成度の高いデザイン

「カッコイイ!!」

9月16日に公開された日産フェアレディZプロトタイプがネット上で“バズって”いる。

日産が「A to Z」と題するムービーのなかで新型Zの登場を匂わせたのが5月28日のこと。それから4カ月足らずでプロトタイプを公開し、正式発売に向けて道筋をつけたのだから、この急展開には多くのファンが驚いていることだろう。

全長は4382mm、全幅は1850mm、全高は1310mm。

そのプロトタイプであるが、今後微妙な修正が入る可能性は残されているにせよ、ほぼこのままの形で発売される見通しだ。私の第一印象を述べれば、プロポーションのまとまりは良好で、各世代のZのモチーフをうまく取り込みながら未来感も表現されていると思う。

とりわけ、一直線に下降しているように見えて角度によってはボディ後端付近で微妙な曲線を描くテールゲートのデザインが見事だし、テールライトからバンパーにかけての造形もクラシックと先進性がうまくバランスされている。また、リアフェンダーのふくよかな曲面はこれまでのZに見られなかったものだ。あとは、新型Zを強烈に印象づけるデザイン上の特徴があれば完璧かもしれないが、それは望みすぎというものかもしれない。

崖っぷちの日産

では、デザイン以外の部分はどうかというと、これがあまり詳しくは発表されていない。わかっているのは、ボディの3サイズと前後のタイヤサイズ、それにパワートレインがV型6気筒ガソリンツインターボ・エンジンと6速マニュアル・トランスミッションの組み合わせとなる、ということぐらいだ。

ちなみに、5月28日に日産が発表した“事業構造改革計画”のなかで「今後18カ月間に12の新型車を投入」することが明言されており、新型Zもこの12台の新型車に含まれているので、いまから1年程度か、それ以内に発売されるはずだ。

いずれにせよ、これから発売される12台に日産の命運がかかっているといっても過言ではない。

フルデジタルのメーターパネルを採用。

日産は今年7月28日に2020年度第1四半期決算と2020年度通期見通しを発表したが、当期純損失は2856億円。いっぽう通期では、新型コロナウィルス感染症の影響を受けて販売台数は対前年比マイナス16.3%の412万5000台になると予想している。

こうした見通しについて、日産はグローバルな自動車市場の縮小に連動したものと説明しているが、コロナ禍が始まる前の2019年度にも彼らは6712億円の赤字を出している。ここには経営基盤の強化に役立つ構造改革費用などが含まれていたが、それらを除いても赤字額は700億円近い。日産はまさに経営面で構造的な弱さを秘めているのだ。

シートにはボディ同色のステッチが入る。

その原因はモデルチェンジが遅れている製品が多く、市場での競争力が低下していることにあるように思う。日産自身もそれがわかっているからこそ、2019年度決算とあわせて“事業構造改革計画”を発表し、今後ニューモデルを続々と投入する姿勢を示したのだろう。

以来、日産はSUV初のe-POWER(シリーズ・ハイブリッド)搭載モデルである「キックス」、そしてクロスオーバーEVの「アリア」を発表。プロモーション面では木村拓哉を新しいブランドアンバサダーに迎え、「上等じゃねぇか、逆境なんて」という自虐的ともいえるキャッチフレーズで注目を集めているところだ。

これらに続いて登場するのが新型Zなのである。

GT-Rの開発にも弾みがつく?

それにしてもZは日産にとって重要なモデルだ。

前述した事業構造改革計画のなかで、日産は三菱やルノーとのアライアンスの重要性を説くいっぽうで、各ブランドが得意ジャンルに集中する方針を表明した。このなかで日産はCセグメント、Dセグメント、EV、スポーツの4ジャンルに注力する計画であるが、なんといってもイメージリーダーになるのはEVとスポーツ系だろう。

「やっぱり自動車メーカーとして楽しいクルマをお客様に提供したいとの思いはあります。私たちはEVでも運転の楽しさを追求していきますが、やはりブランド・アイコン的な存在であるZへの期待度は社内でも高いですね。新型が出ることで、社員の士気もぐっと上がると思います」

日産のある社員はこう語ったが、おそらくこれは多くの従業員に共通の思いだろう。

2007年登場の現行GT-R。

2007年登場の現行GT-R。

2007年登場の現行GT-R。

2007年登場の現行GT-R。

もうひとつ、Zが重要な意味を持っているのは、その成否がGT-Rの動向にも影響を与えかねない点にある。GT-Rといえば“日産を代表するもう1台のスポーツモデル”であるものの、現行のR35型は2007年のデビューから13年も経つのに、いまだに次期型の方針が伝わってこない。想像するに、揺れ動く経営環境にあって、その開発計画にも様々な影響が生じているのだろう。しかし、スポーツモデルのZが成功すればGT-Rの開発にも弾みがつくのは間違いないところ。

新型Zが大ヒットし、GT-Rが再び“ハイテクスポーツカー”としてその名を世界に轟かせる……。そんな日がやってくることを心待ちにしたい。

文・大谷達也