変わる農業委員 「農地の番人」が「地域づくり人材」に

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変わる農業委員 「農地の番人」が「地域づくり人材」に
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農林水産省が来年度に創設する農村支援人材「地域づくり人材」に、農地の売買許可など「農地の番人」と呼ばれる農業委員が加わる方向になった。市町村職員と連携し、住民が地域の将来を話し合う場でコーディネート役を務める。背景には、4年前の改革で同様の役割が強化され、農業委員が実際に地域の話し合いを運営している実績がある。同省は、こうした経験を地域づくりに生かしてもらうことを期待している。

「農地のプロ」に白羽

地域づくり人材は、愛称案「農村着火型プランナー」。耕作放棄地や空き家の増加など、人口減少時代の農山村を支援する外部人材として、同省が研修制度の創設準備を進めている。

住民が話し合う「ワークショップ活動」の運営役として、主に市町村職員が想定されているが、マンパワー不足が懸念される。同省は、補完する人材として都道府県の農林水産普及指導員や両者のOB・OGらを想定。さらに「農地のプロ」として、農業委員と、農業委員会の実動部隊として平成28年に新設された「農地利用最適化推進委員」に白羽の矢が立った。

農家の一軒一軒を

わが国有数の穀倉地帯、新潟県阿賀野市。市農業委員会の会長職務代理者で専業農家の笠原尚美さん(52)は、地域づくり人材について「市町村職員は集落の一つ一つをご存じだが、農業委員は農家の一人一人を知っている。連携を取っていきたい」と話す。

13年から農業委員を務め、20年目。毎年9月の稲刈りが終わるこの時期になると、「農地が動きだす」という。後継者のいない農家が「もう来年は作れない」「誰か耕作してくれる人を探してほしい」と笠原さんの携帯電話を鳴らす。

「農地には一筆ごとに、先祖から引き継いできた農家の思いと歴史が詰まっている。できるだけその思いを受け止め、思いごと受け手に引き継いでいきたい」

農水省の土地利用を考える有識者検討会の委員でもある笠原さんは、こうした農地の仲介や、地域で農地集積や担い手を決める同省の「人・農地プラン」づくりの話し合いを運営してきた経験から、こう語った。

「地域の課題は『農』だけでは解決できない。地域を考える話し合いには、農家や担い手だけでなく、土地を持つ非農家や地域の住民も参加する必要がある」

「国土」を守る

阿賀野川に近い集落。釣巻(つるまき)達哉さん(61)は先週末、稲刈りのためコンバインに乗り、こがね色に実った稲穂に囲まれていた。

本業は鉄工所の創業社長。傍ら、先祖から受け継いだ0・8ヘクタールの水田を母、妻と守ってきた。米どころの新潟平野でさえ、農家の息子たちが東京や新潟市へ勤めに出て帰らない。後継者のいない農家から耕作を頼まれるようになり、自然と農地が集まってきた。

集積してきた田んぼを集落で維持しようと28年、農事組合法人「こがねファーム」を立ち上げた。笠原さんの同僚委員にも来てもらい、神社わきの古い公民館で仲間と話し合った。現在、3軒で13ヘクタールの農地を守る釣巻さんは、こう思う。

「みんな『農地』と呼ぶが、もともとは『国土』だった。国土を荒らさないために、きれいにしておくために、おいしいお米を作りたい。みんなで協力し合って国土を守っていきたい」

農業委員】 教育委員会と同様に、市町村に置かれる行政組織「農業委員会」の委員。農地の売買や転用の許可など「農地の番人」の仕事に加え、平成28年の法改正で農地集積などを促す業務が必須化され、「人・農地プラン」の運営役も担う。全国農業会議所によると、30年時点で農業委員は2万3277人、推進委員は1万7840人。

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