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 トヨタ自動車が2022年度にかけて、ソフトとハードの開発を分離しやすい組織に再編することが日経クロステックの調べで分かった。ソフトの開発周期を短くし、車両改良を待たないで頻繁に機能を高められる「ソフトウエアファースト(第一)」の体制にする。さらに車載電子アーキテクチャー(基盤)を刷新し、ソフト重視の開発を後押しする。ハードの脇役だったソフトを自動車開発の主役に据え、IT企業など新興勢との競争に備える。

移動サービス会社への転換にソフト重視の考えを採り入れる。写真は2019年に発表した試作車で、健康サービスを見据えたもの(撮影:日経クロステック)
移動サービス会社への転換にソフト重視の考えを採り入れる。写真は2019年に発表した試作車で、健康サービスを見据えたもの(撮影:日経クロステック)
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 トヨタはこのほど、幹部社員を集めてソフトを重視した開発体制に移る方針を示した。ソフトとハードの開発体制を分けることで、ハードに先行してソフトを開発し、実装できる組織にする。22年度から本格化させる無線通信によるソフト更新(OTA:Over The Air)と組み合わせ、新しい機能を頻繁に投入する仕組みを実現する考えだ。

 20年3月、トヨタ社長の豊田章男氏はNTTとの提携発表の場で、「ソフトウエアファースト」の開発体制に移行することを宣言した。ソフトとデータを活用し、自動車の機能向上を実現する構想だ。「ソフトを先行して実装し、自動車の走行時にデータを収集する。AI(人工知能)をレベルアップさせて、ある段階でソフトを更新して機能を追加できるようにする」(豊田氏)。組織再編は、ソフト第一を実現する手段の1つになる。

 従来の車両開発は、ハードとソフトの一体開発が基本だった。車両の全面改良に併せて、電子制御ユニット(ECU)とソフトをセットで開発するものだった。ECUの能力に見合うムダの少ないソフトを開発しやすい一方で、進化の遅いハードにソフト開発がしばられる課題があった。

 ソフト第一の開発体制への移行で鍵を握るのが、18年に設立した自動運転ソフト子会社トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント(TRI-AD)である。「Arene(アリーン)」と呼ぶソフト基盤を開発する。同基盤は、安全で信頼性の高い車載ソフトの統合開発環境(IDE:Integrated Development Environment)と言えそうなもの。この自動車版IDEの出来栄えが、トヨタ全体の今後のソフト開発効率を左右するだろう。

TRI-ADで開発する様子(撮影:日経クロステック)
TRI-ADで開発する様子(撮影:日経クロステック)
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