三菱造船、長崎で大型フェリー進水 下関と連携し競争力アップ

命名・進水式が行われた「はまゆう」=長崎市飽の浦町
命名・進水式が行われた「はまゆう」=長崎市飽の浦町

 三菱重工業子会社の三菱造船(横浜市)が新日本海フェリー(大阪市)などから受注していた大型フェリーの命名・進水式が7日、三菱重工長崎造船所の本工場(長崎市)で行われた。「はまゆう」と名付けられた新造船は令和3年7月にデビューする。下関造船所(山口県下関市)とあわせた生産体制の再編を進める三菱造船にとって新体制下で初の進水式となった。(九州総局 中村雅和)

 「はまゆう」は幅25メートル、全長222・5メートルの大型船で、従来型の船に比べて約6%の省エネを実現しながら最大時速約52キロを誇る高速船だ。また、海上の硫黄酸化物排出規制に対応した脱硫装置を搭載した。旅客定員は268人で、12メートルトラック154台と乗用車30台を積載できる。横須賀(神奈川県横須賀市)-新門司(北九州市)間の約976キロを21時間で結ぶ高速船として就航する予定。

 船内の客室は基本的に個室で、露天風呂や展望浴場、レストランやバーベキューコーナも設ける。

 運航を担う東京九州フェリーの担当者は「物流トラックと一般旅客の割合は半々程度と予想している。内装や設備の充実は、旅客需要を開拓する側面がある」と語った。

 三菱造船にとって、今回の新造船は大きな意味を持つ。

 大型客船事業で多額の損失を計上、事実上の撤退に追い込まれた三菱重工業は平成30年1月、船舶事業を分社化して三菱造船を設立した。香焼工場(長崎市)の売却協議など合理化を進める一方、造船所ごとの建造船種の縦割り排除に動いていた。長崎造船所は全長200メートル超に対応したドックを持つ。このため、特殊船や中小型フェリーを下関造船所が、大型フェリーを長崎が受け持つ形で、2造船所の一体運用を進めていた。

 「はまゆう」はその一体運用で大型船を長崎が受け持った第1号だ。長崎側に下関の設計・建造ノウハウを投入。作業員の配置転換も行っていた。

 長崎造船所はさらにもう1隻、同型船を受注している。2号船では、日本財団の支援のもと、レーダーやカメラなどを組み合わせ、無人運航を可能とする技術やシステム開発の実証実験も行う予定だ。海の世界でも、人手不足は深刻だ。どの程度まで無人化するかは船主の判断だが、技術面での選択肢が増えるメリットは大きい。

 このような合理化や技術開発を進める背景には、造船業をめぐる世界的な競争激化がある。三菱造船をはじめ、日本の造船各社は近年、中国や韓国の造船会社による各国政府の支援を受けた攻勢に苦戦が続いていた。

 そんな中、活路が見いだせたかにみえた豪華客船事業は、建造時のトラブルが続出して撤退。新型コロナウイルスの感染拡大による需要の先細り懸念は高まる。「はまゆう」のような国内フェリー事業は今後、基本的に老朽船の代替のため爆発的な需要増にはつながらないとみられる。とはいえ、人手不足を背景に、陸上から海上へと輸送手段を切り替える「モーダルシフト」が再び脚光を集め始めるなど、追い風も吹く。

 さらに、欧州路線を中心に実績があるフェリーの高級化は、電線や配管などで高密度な艤装(ぎそう)作業を要する点で、中韓勢に比べ、日本企業に一日の長があるとされる。不毛な価格競争に巻き込まれないようにする上でも、技術の向上は欠かせない。

 三菱造船では今後、国内船の設計や施工で培った技術力を生し、高級フェリーに一定の需要がある欧州での受注を狙っていく。

 造船事業は、自動車などと同様に裾野が広い。国内外のフェリー事業を軸として、造船の街である下関や長崎の活性化に期待が高まる。

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