コラム:セブンの米コンビニ買収、懸念される財務負担
Alec Macfarlane
[香港 3日 ロイター BREAKINGVIEWS] - セブン&アイ・ホールディングス<3382.T>は、大型買収を通じて財務面で相当な重荷を背負い込もうとしている。米石油精製大手マラソン・ペトロリアム傘下のコンビニ運営会社スピードウェイを210億ドルで取得するという案件は、セブン&アイが手掛けた過去最大のM&Aだ。米子会社セブン-イレブンとスピードウェイの統合がもたらすシナジー(相乗)効果によって、それなりの資本利益率を何とかひねり出すことはできる。だが前途を不安視する投資家は、「現在価値」をほぼ半分に割り引いてしまい、買収発表を受けた3日の市場ではセブン&アイの時価総額が最大20億ドル消失した。
日本国内のコンビニ市場が飽和化する事態に直面したセブン&アイの井阪隆一社長は、海外で売上高を伸ばす戦略を進めている。4年前、同社の売上高において日本国内の比率が3分の2に上った。現在はそれが56%まで下がり、33%強は北米が占める。スピードウェイのおよそ3900店が加われば、セブン-イレブンの米国内店舗は1万4000店に達し、北米事業がさらに拡大する。
その意味でスピードウェイ買収は戦略面で理にかなっている。米国の人口は増加を続けており、セブン-イレブンは特に中西部や東海岸地域で足場が強まる。とはいえ、セブン&アイは、この取引の採算を合わせるために、自ら定めた目標を達成する必要がある。同社の見立てでは、スピードウェイ買収に伴い、4億7500万-5億7500万ドル相当のシナジー効果を生み出せる。
スピードウェイの年間EBITDA(利払い・税・償却前利益)は15億ドル前後。マラソンの小売り部門全般に沿って25%の減価償却を行い、シナジー効果の上限を適用すると、セブン&アイの投下資本リターンは6%になる、というのがBreakingviewsの計算だ。米同業者の資本コストの加重平均は6-8%で、他の日本企業による大型海外買収の事案と比べてもそれほど悪い投資ではない。
しかしセブン&アイは、スピードウェイ買収によって金銭的にはかなりの重圧にさらされるのも事実で、債務額はEBITDAの3倍を超える。同業者は総じて2倍を下回っている。セブン-イレブンは向こう2年でこの比率を3倍未満に引き下げることを目指しているが、実現できるかどうかは、新型コロナウイルスのパンデミックが経済活動をあとどれだけ混乱させるか次第になる可能性がある。
コンビニ店の収入はパンデミックの期間中ずっと低迷している。米国のガソリンスタンドも、ロックダウンでガソリン販売が落ち込んだ影響から、痛手を受けてきた。こうした逆境が続くとすれば、セブン&アイがスピードウェイ買収のメリットを享受するまでの過程は、短距離走というよりも、文字通り「マラソン」になりかねない。
●背景となるニュース
*セブン&アイ・ホールディングスは2日、米石油精製大手マラソン・ペトロリアム傘下のコンビニ運営会社スピードウェイの買収に合意した。全額現金の210億ドルを支払う。
*物言う株主のエリオット・マネジメントから経営改革を迫られているマラソンは昨年、スピードウェイの分離・独立を含む抜本的なリストラ策を打ち出すと表明していた。
*スピードウェイが35州で展開する3900店が、セブン&アイの米子会社セブン-イレブンの店舗網に加わる。マラソン側が毎年約77億ガロンのガソリンを15年間供給する契約も結ばれた。
*セブン-イレブンは、統合完了後3年目に4億7500万-5億7500万ドルのシナジー(相乗)効果を見込んでいる。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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