オリジナル・ミニを連想
ダイハツが今年6月に販売開始した新型「タフト」は夢をふくらませてくれるクルマだ。「もしクルマを2台持つとしたら何を買おう」と、考えているクルマ好きは少なくないと思う。かりに1台がグランドツアラーで、もう1台が街乗り用だったら、後者の候補にタフトを勧めたい。
1960年代の英国では、スコットランドにランドローバー、ロンドンにベントレーかローバー、そしてもう1台がミニ、なんていうクルマの組合せを選ぶ富裕層もいた。
オリジナル・ミニの長所は、小さくて、それでいて品質感が高かったところにある。私は、タフトに乗ってみて、そんな当時のミニを連想した。軽自動車であるものの、剛性感の高いボディに、乗り心地のよさ、それに大きなグラスルーフを全車標準装備としているなど、提供価値がはっきりしているところが、タフトの大きな魅力だ。
タフトは658cc直列3気筒ガソリン・エンジン搭載。パワートレインは自然吸気とターボの2種類に、変速機は無段変速機(CVT)、そして駆動方式は前輪駆動と4WDが用意されている。
スタイリングはよく出来ている。ガイシャに乗っているおとなの眼も惹くような、1960年代の米国製SUVを思わせる適度なゴツさと、LEGO的な玩具感覚のディテールとをうまく合体させていて、広い世代に受け入れられるであろうエクステリア・デザインが出来上がっている。
優れた乗り心地
私は今回、自然吸気の「G」とターボの「Gターボ」に試乗した。どちらも前輪駆動だ。はたして市街地で交通の流れに乗って走るなら「G」で充分。実際にこのグレードがもっとも売れているとのこと。高速も使う機会が多いなら「Gターボ」がいい。
CVTも、ターボにはダッシュ力を考え「D-CVT」が使われている。ダイハツではこのギアボックスのメリットに“静粛性”も挙げているように、じっさいに、CVT独特の甲高い音も抑えられていて、質感がより高い。
前輪駆動の軽自動車ではこれまでなかった15インチリム径という、かなり大径のタイヤ(165/65R15)が採用されているのも、力強さの演出になっている。市街地で乗っていると、けっこう目立つ。
乗り心地はよい。「(サスペンションをボディに取り付けている部分のゴム製)ブッシュと、ダンパーの設定に心を砕いた」と、ダイハツの技術者が説明したとおりである。
路面の凹凸はきれいに吸収し、乗員が不快に上下動することはない。東京の路上で走ったとき、私はこの乗り心地に感心した。
おもしろいのは4WDを選ぶユーザーが多い点。発売直後のデータでは、4WDを選んだユーザーは25%程度という。「ダイハツ車で2WDと4WDの設定がある場合、4WDを選ぶのはふつう20%程度なので多いですね」(広報担当者)とのこと。
インテリアのつくりこみに感心
インテリア・デザインも個性的だ。おもしろいことに、前席と後席がきれいに分かれている。ドアのライナー(内側のパネル)のカラーまで変えるという凝りかただ。前席ドアはブラックで、後席ドアはグレーといった具合である。
ダイハツの言葉を借りると、「バックパックスタイル」というそうだ。前席は「運転を楽しむクルー(乗員)スペース」であるいっぽう、後席は「遊びを楽しむフレキシブルスペース」としてデザインしたと説明される。
後席には身長180cmでも楽々乗れるスペースが確保されている。そこをカーゴスペースにするのも「アリです」と、メーカーはうたう。
最近のクロスオーバーは、後席にスライド機構をもたせたりするが、そうすると、シート高が高くなるなど、ある種の弊害も生まれる。タフトの後席には、フルフラット化するための折りたたみという機能しか与えていない。シンプルな分、積載性には優れる。
前席乗員のためには、大きなガラスがはめこまれた「スカイフィールトップ」を採用。少しだけ目線を上にあげれば、まるでウィンドシールドが低いオープンモデルのような開放感ある眺めが味わえる。
しかもルーフのかなり前のほうに開口部を持ってきている異例のデザインである。通常のガラスルーフは前席乗員の後頭部ぐらいに前端がくるため、前席にいるとあまり恩恵がないが、タフトの場合、異例の前席重視デザインなのだ。
というわけで、おとなの2台持ちをあれこれ悩んでいるなら、1台はこれを選んでもいいかもしれない。ふだんの街乗りや遊びに最適だ。
価格は前輪駆動で自然吸気エンジンの「X」が135万3000円から。今回いいなと思った前輪駆動の「Gターボ」だと160万6000円だ。4WDは12万6500円髙となる。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.)