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アウディがつくる“これから”の高性能SUVとは? e-tron S登場

アウディのEV(電気自動車)「e-tron」シリーズに高性能版の「S」が追加された。ノーマルモデルとの違いはいかに?
AUDI アウディ etron S RS SUV EV 電気自動車 Q8 Q7
AUDI アウディ e-tron S RS SUV EV 電気自動車 Q8 Q7
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いかにも速そう! な、外観

アウディの電気自動車、e-tronとe-tron Sportbackに追加されたハイパフォーマンス仕様のe-tron Sとe-tron S Sportbackの2台には「EVの量産モデルとして世界初の技術」が盛り込まれているという。それはいったい、どんなものなのか? 両モデルの特徴を順に説明しよう。

e-tronの全長は約4.9m。サイズは「Q8」に近い。

e-tron Sportbackはe-tronのクーペ版。ルーフ後端部のデザインが異なる。

アウディの“Sモデル”といえば、通常シリーズのAモデルやQモデルよりもハイパワーなエンジンと強化されたサスペンションが与えられ、内外装にも特別なモディファイが施されたスポーティバージョンとして知られる。ちなみにアウディにはSモデルよりもさらに過激なRSモデルがラインナップされるが、e-tronに関してはSモデルがもっともスポーティな仕様に位置づけられるという。

そのキャラクターは、両モデルの外観にもあらわれている。

駆動方式は4WD。

オプションで設定されている285/35R22というファットなタイヤの装着を可能にするため、左右のホイールアーチはそれぞれ23mmも外側に張り出し、スタンダードのe-tronとは別物の力強さを生み出している。いかにも軽量そうなアルミホイールから顔をのぞかせるフロントブレーキのキャリパーは実に6ピストン。前後スポイラーもダイナミックな形状に改められているが、このうちフロント・スポイラーに組み込まれたブレーキ冷却用ダクトはコンピューターによって開閉され、通常走行時はダクトを閉じて空気抵抗を削減するいっぽう、必要に応じてダクトを開いてより強力なブレーキの冷却を実現する。

おなじくフロントセクションではマトリックスLEDヘッドライトの採用が目を引く。これはe-tron Sportbackのデビューとともに登場したものだが、左右のライトには130万ピクセルに分割された発光チップが内蔵されており、対向車や前走車を眩惑させずに前方を明るく照らすアダプティブ・ヘッドライトとして機能する。

サスペンションは、Sモデル専用のチューニングが施された自動車高調整機能付きアダプティブエアサスペンション。

さらにオプションのバーチャルエクステリアミラー(車両後方をカメラで捉え、その映像を車内のディスプレイに表示するデジタル式リアビューミラー)を装着すればエアロダイナミクスはさらに改善され、Cd値はe-tron S Sportbackで0.26、e-tron Sでも0.28を達成するという。

サスペンションはもちろんSモデル専用のチューニングが施されているほか、ステアリングの操舵角が増えるにつれてギアレシオがよりダイレクトになるプログレッシブステアリングを装備。Sモデルに相応しいスポーティな走りを実現したと主張する。

インテリア・デザインは、最新のA8やQ8に近い。

シートは“S”のロゴ入り。

リアシートはヒーター機構及び専用エアコン付き。

ギアセレクターはe-tron専用デザイン。

2モーターから3モーターへアップグレード!

ただし、e-tron初のSモデルでもっとも注目されるべきは、その駆動方式にある。

e-tron Sとe-tron S Sportbackは、いずれも標準モデルと同じように前後車軸を個別のモーターで駆動する4WDであるものの、標準モデルの2モーターに対してSモデルでは3モーターにアップグレードされている。その目的は、Sモデルに相応しい力強いパワーを手に入れると同時に、左右の駆動力を独立してコントロールすることでヨーモーメントを発生させ、よりダイナミックなハンドリングを実現することにある。なお、3基のモーターでヨーを作り出すドライブトレインのことを、アウディはエレクトリック・トルクベクタリングと呼んでいる。

勘のいい読者諸氏であれば、こう聞いてホンダ「NSX」フェラーリ「SF90ストラダーレ」に採用された3モーター・ハイブリッド・システムのことを思い浮かべただろう。NSXとSF90はフロントに2基のモーターを搭載。左右輪を個別に駆動することでヨー、つまりコーナリング時にボディが自らまわり込むような力を発生させてハンドリングを制御している。これを駆使すれば、極端な話、クルマが自らドリフト状態を作り出すことも可能になる。

ただし、e-tron Sとe-tron S Sportbackはハイブリッド車ではなく純粋なEV。つまり、駆動力はすべて電気モーターによって発生されるため、エンジン以上に素早く精密に駆動力をコントロールできることになる。

0-100km/h加速はe-tronの5.7秒に対してe-tron Sは4.5秒。

これがいったい、どんな効果を生み出すのか?

私は以前、アウディが「R8」をベースに試作したEVに試乗したことがある。これは4WDではなくRWDで、左右の後輪を2基のモーターが独立して駆動するが、パイロンスラロームを試みたところ、いとも簡単にドリフト状態を生み出して私を驚かせた。しかもスタビリティ・コントロールがモーターに対してダイレクトに作用するため、パワースライドの状態を安定して長く保てることにも圧倒された。

その印象をアウディのエンジニアに説明したところ「エンジンの反応はモーターに比べると遅いため、ここまで精密な制御はできません。モーターで駆動するからこそ、このようにスムーズで精度の高い制御が可能になるのです」との回答を得た。

0-100km/hは4.5秒!

e-tron Sとe-tron S Sportbackの最高出力と最大トルクは370kW(503ps)と973Nm。これは標準モデルの265kW(360ps)と561Nmをそれぞれ40%と73%も上まわるものだ。これを実現するため、標準モデルのパワフルな後輪用モーターを前車軸へと移設。後輪は、ふたつのモーターをひとつの筐体に収めた新開発のドライブトレインで駆動する。ちなみに0-100km/h加速はe-tronの5.7秒に対してe-tron Sは4.5秒と格段に速い。

後輪を駆動するふたつのモーターの間に機械的な結びつきは一切なく、ヨーコントロールはすべてソフトウェアによる。そのソフトウェアはアウディが自社開発したもので、これまで40年掛けて磨き上げてきたクワトロのノウハウがそっくり生かされているという。

ところで、3モーターを採用したことで車重の増加が心配されるが、これについてエレクトリック・トルクベクタリングの開発を指揮したマーク・バウアーは次のように答えた。「3モーター方式による重量増は20〜50kgとあまり大きくありません。なぜなら、私たちは軽量な非同期モーターを用いたからです。なお、出力が同じ場合、1基の永久磁石同期モーターよりも2基の非同期モーターのほうがおよそ50kgも軽くできます」。

ちなみにポルシェ「タイカン」は永久磁石同期モーターを用いているが、その特徴として高い出力を安定して発揮できることを挙げている。

e-tron Sとe-tron S Sportbackは今年の秋にまずヨーロッパ市場で発売される。ベース価格は、Audi e-tron Sが9万3800ユーロ(約1150万円)、Audi e-tron S Sportbackが9万6050ユーロ(約1175万円)である。

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文・大谷達也