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フィンテックに知財保護の潮流 マネースクエアHDの賠償請求の意義(IPリポート VOL.32)

記事公開日 2020/7/15 16:28 最終更新日 2020/7/15 16:28 国内 FX 注目銘柄 特許 知財 IP最前線

弁理士=新山雄一(正林国際特許商標事務所)
証券アナリスト=三浦毅司(日本知財総合研究所)

FX(外国為替証拠金取引)大手のマネースクエアを傘下にもつマネースクエアHDは7月9日、外為オンラインに対して特許権侵害に対する損害賠償請求を東京地方裁判所に提起したと発表した。2019年10月に確定した特許侵害・差し止め請求に続く法的救済の申し立てとなる。今回の賠償請求の行方は、特にフィンテック業界の知的財産を保護するうえで潮流の変化になるかもしれない。

(これまでの経緯はこちら→「FXツールの技術「タダ乗り」に厳しい姿勢(IPリポート VOL.18)」)

課題は実質的な有効性の確保

19年10月の知財高裁の判断は、ビジネス関連発明特許、とりわけフィンテック業界にとっては画期的だった。今までビジネス関連発明特許は、サービスの内容を若干、変更しただけで別の発明特許と認められることが多く、実質的な有効性の確保が課題だった。昨年の知財高裁の判断は、実質的に同じものだとみなされる発明に網をかけるものだ。

特許権者にとって、特許侵害・差止請求と並んで権利保護の両輪となるのが損害賠償請求だ。特許の侵害者に経済的なペナルティを課すことで、特許侵害に対する強力な抑止力となる。その意味で、前回の請求に続き、今回の賠償請求も結果が注目される。

特許は権利者が当該発明を独占的に実施する権利を付与する制度で、第三者が権利を侵害している場合、両者で調整がつかなければ特許権者は特許権侵害訴訟を提起する。差し止め請求と損害賠償請求は特許権者の法的救済の根幹をなすもので、特許の実効性を担保している。

■特許権侵害行為に対する法的救済

出所: 経済産業省HPを基に日本知財総合研究所作成

多くのケースで泣き寝入り

ところが実際には数多くの問題がある。差し止め判決を勝ち取っても、対象は差し止めを申請したサービスなどに限定されたのだ。例えば「A」というサービスを「Aサービス2.0」のように内容を若干、修正すれば、同様の事業を継続できる難点があった。

損害賠償請求についても、特許法102条によって立証負担が軽減されているとはいえ、特許の寄与率など算定が難しい要素が多く、結果的に裁判所が認める賠償額が少なくなるケースもあった。賠償額に弁護士費用などが十分に含まれず、賠償額の少なさと相まって、損害賠償請求に二の足を踏ませる原因となっていた。

そもそもビジネス関連発明特許の侵害訴訟では、わずかな違いでも別の発明と認められ、侵害に該当しないと判断されてきた。これらの理由からビジネス関連発明特許の権利者は、実際に特許侵害を受けたとしても、多くの場合は泣き寝入りを余儀なくされてきたのだ。

昨年の差し止め訴訟は画期的だった。知財高裁が従来のレベルを超えて特許権の範囲を柔軟に解釈したためだ。また、今回の訴訟物価額は11億9000万円で、過去の日本における特許損害賠償認定額の中では高額な部類に入る。2020年4月に施行された特許法改正における算定方法の見直しの影響があるようだ。

従来の算定方法では原告側の実施能力が上限となっていた。ライセンス料の算定でも、侵害を考慮しない平時のライセンス契約を前提としていた。こうした理由から賠償額は低く算定されがちだった。今回の法改正で算定方法が見直され、損害賠償額が多く認められる可能性が高くなった。

■損害賠償額算定に関する特許法改正(2020年4月施行)

出所:日本知財総合研究所作成

サービス内容に若干の修正を加えて事業を継続しても、最終的に高額な損害賠償請求の対象になるのなら、リスクとリターンが見合わなくなる。結果的に特許侵害の抑止につながると思われる。

健全な競争で業界が発展

なかでも影響が大きいと思われるのが新興産業であるフィンテック分野だ。特許はほとんどがビジネス関連発明特許であり、実効性の確保が課題だった。特許侵害のリターンが見合わなくなれば、企業は独創性のある技術開発に注力するだろう。

特許の実効性が高まれば先に発明した企業の優位性が高まる。後発企業は特許権者からのライセンス供与を検討することになり、統制の取れた業界発展につながるかもしれない。

一方、損害賠償額の増加で米国のように訴訟を仕掛けて和解に持ち込む、いわゆる「パテント・トロール」を生み出す恐れもある。業界全体として健全な開発競争が進むことを期待したい。(2020年7月15日)

 

日本知財総合研究所 (三浦毅司 takashi.miura@jipri.com 電話080-1335-9189)

(免責事項)本レポートは、レポート作成者が信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、レポート作成者及びその所属する組織等は、本レポートの記載内容が真実かつ正確であること、重要な事項の記載が欠けていないこと、将来予想が含まれる場合はそれが実現すること及び本レポートに記載された企業が発行する有価証券の価値を保証するものではありません。本レポートは、その使用目的を問わず、投資者の判断と責任において使用されるべきものであり、その使用結果について、レポート作成者及びその所属組織は何ら責任を負いません。また、本レポートはその作成時点における状況を前提としているものであって、その後の状況が変化することがあり、予告なく変更される場合があります。

 

 


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