ゴルフはモデル末期を迎えたが(すでに本国では8代目が発表された)最後まで改良をくわえていく欧州メーカーの常として、熟成が進んでいる。
スタンダードモデルでも、ステアリング・フィールが繊細になって、かつ全体に剛性感が増し、ようするに走らせての楽しさが増している。ゴルフRもおなじだ。
いちばんいいのは、むやみやたらとトンガっていないところだろう。400Nmの最大トルクは2000rpmから発生するからダッシュは鋭い。ドライブモードで「スポーツ」を選ぶと、エンジン回転を上のほうまでひっぱるので、3000rpmから少し上の、トルクがもっとも厚い回転域での走行を十分に楽しめる。
コーナリングの安定性は高い。カーブにとびこむと、ボディは、まずフロントがぐっと沈む。安定した姿勢を作ってから、後輪が強いプッシュでボディを押しだす。そのためステアリング・ホイールを握っているドライバーに不安はない。車両に振り回される不安とは無縁だ。
ホットハッチのなかには、ボディのロールを抑え、ゴーカートのようなコーナリングを楽しませようとするモデルもある。しかしゴルフRは、弾けるようなスポーツ・コーナリングから”卒業”したとも言うべき、“オトナ向け”というかんじだ。
“刺激”より“安定性”重視!
サスペンション・システムに組み込まれたスプリングは硬めだ。が、おもしろいことに、フォルクスワーゲンのSUV「T-CROSS」と乗り比べた同乗者によれば、「ゴルフRのほうが乗り心地は快適」というものだった。
路面からボディへの入力を一発で止めるダンピングの設定がうまいのだろう。最初こそ”足”が硬いかなぁ? と、思っても、すぐに慣れる。慣れるどころか、落ち着いたボディの動きゆえ、ドライブしていくうち、クルマへの信頼感が増すのである。
タイヤサイズは225/40R18で、ふだん使うにはややオーバーサイズかもしれない。ホイールのリム径を1インチか2インチ下げて、そのぶんタイヤの扁平率をちょっとあげたら、ちょうどいいバランスになるのでは? と、思った。前後のトレッドは、1.4リッターモデルと同一だ。
インテリアでは専用のスポーツシートがよい。クッションは硬めであるものの、からだをしっかり支えてくれるし、路面の凹凸が強く伝わってくることはない。
ゴルフR(584万9000円)のライバルが増えていると先に書いたように、輸入車に目を向けると、ドイツではメルセデス・ベンツ、BMW、アウディ、そしてフランスでは、ルノーが思い浮かぶ。
メルセデスAMG「A35 4MATIC」(628万円)は、225kW(306ps)と400Nmの1991cc直列4気筒ガソリンターボ・エンジンを搭載し、活発な走りが楽しめる。BMW「M135i xDrive」(630万円)は、A35と同一の最高出力225kW(306ps)と450Nmの1998cc直列4気筒ガソリンターボで、オールマイティぶりではゴルフRに近いが、走りはより速い。
アウディは最近「SQ2」(599万円)を追加した。221kW(300ps)の最高出力と400Nmの最大トルクを持つ1984ccエンジンにクワトロシステムの組合せだ。
ラテンではルノーががんばっていて、「メガーヌ・ルノースポール・トロフィーEDC」(499万円)は、221kW(300ps)と420Nmの1798cc直列4気筒ガソリンターボ・エンジンに前輪駆動の組合せ。ラインナップには6段マニュアル変速機搭載モデルも設定されている。
ゴルフRは、それらライバルのなかにあっては、もっとも刺激度は低いかもしれない。でも操縦感覚のバランスよさが身上だろう。真のドイツ車好きは新車にとびつかないで、あえてモデルチェンジ直前の車両を狙うとか。ゴルフRの走りはそれを納得させる。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend)