COLUMN

「黒人のいのちは大事だ」(BLACK LIVES MATTER)対「みんないのちが大事だ」(ALL LIVES MATTER)の言い合いをきっかけに、おもったこと

いま世界的に拡大している「ブラック・ライヴズ・マター」運動について、編集部員の篠原泰之が考えた。
「黒人のいのちは大事だ」(BLACK LIVES MATTER)対「みんないのちが大事だ」(ALL LIVES MATTER)の言い合いをきっかけに、おもったこと
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2020年5月25日、米ミネソタ州・ミネアポリスに住む黒人男性、ジョージ・フロイドさんが白人警官によって殺害された。この残忍な事件がきっかけとなって、アメリカはもちろん、世界中で、黒人差別、ひいてはあらゆる種類の人種差別にたいする抗議の声が、「BLACK LIVES MATTER」(黒人のいのちは大事だ)というスローガンを合言葉に、大いに盛り上がっていることはご承知の通りだ。そして、この「BLACK LIVES MATTER」の呼びかけの高まりに呼応するかたちで、目についてきた対抗スローガンがある。「ALL LIVES MATTER」(みんなのいのちが大事だ)というもので、それは、「大事なのは(黒人のいのちだけじゃなくて)みんなのいのちだ」と主張する。なるほど、「みんなのいのち」は「大事」だ。大事でないいのちなぞないからだ。けれど、建前ではそのようにだれもが口にするけれど、じっさいには大事にされていないいのちがたくさんあることを僕たちは知っている。アメリカの黒人だけでなく。

「黒人のいのちは大事だ」対「みんなのいのちが大事だ」の本当の意味

そこで、アメリカのソーシャルニュースサイト「Reddit(レディット)」のユーザーによるある投稿を紹介したい。この投稿によって、「ALL LIVES MATTER」(みんなのいのちが大事だ)という主張の欺瞞性を、僕自身が理解できたからである。

引用元:https://www.reddit.com/r/explainlikeimfive/comments/3du1qm/eli5_why_is_it_so_controversial_when_someone_says/

「僕にもみんなと同じ分け前があるべきだ」

Say-Cheese

この話で投稿者がいいたかったのは、ただひとり分け前が配られなかった子どもが、じつはアメリカの黒人である、ということだ。となると、もっともらしいことをいった「お父さん」とは、アメリカの白人優位のシステムを人格化した存在、ということになる。「お父さん」の頭のなかの「みんな」には「黒人」が事実上入っていなかったし、いまも入っていないじゃないか、という主張が、喩え話のなかの子どもの言い分に託されている。それにたいして、白人優位のシステムの側は、「いやいや、みんな平等だよ」と、建前を持ち出して反論するのだけれど、現に、その平等なファミリーのメンバーから黒人は除外されてきたし、いまも除外されているではないか、というのがこの話のポイントである。

というわけで、”BLACK LIVES MATTER”(黒人のいのちは大事だ)にたいして、“ALL LIVES MATTER”(みんなのいのちが大事だ)と、対抗的に言い返すことはしてはならない、と僕は考える。それは差別してきたし、いまも差別する側の言い分でしかない。いま、問題になっているのは、差別される側の言い分を、みずからの言い分とすることである、と僕は思う。

文・篠原泰之 @GQ