全2494文字
 中国のアリババ集団は新型コロナウイルス対策でAI(人工知能)を活用したソリューションを次々と投入した。その中心人物である華先勝(ファー・シャンシェン)氏が、現在開発中の感染症ソリューションについても語った。(聞き手は外薗 祐理子=日経クロステック、インタビューは2020年4月30日にオンラインで実施した)
華先勝(ファー・シャンシェン)氏
[画像のクリックで拡大表示]
華先勝(ファー・シャンシェン)氏
1996年に北京大学で学士号、2001年に応用数学の博士号を取得。アリババ集団の研究機関であるDAMOアカデミーのAIセンター長を務め、クラウド上の大規模ビジュアルインテリジェンスに取り組むチームを率いる(写真:アリババ集団提供)

 新型コロナウイルスの感染拡大は世界中のあらゆる人に多くの難題を突きつけましたが、同時に我々に未来のどこに向かって進むべきかについてのインスピレーションを与えてくれています。鍵となる学びの1つが、ヘルスケアにテクノロジーを取り入れるべきだということです。

 「ヘルステック」は医療関係者にとっては長い間、コンピューターの中に閉じ込められた言葉にすぎませんでした。しかし新型コロナウイルス感染症が流行して以降、治療はもちろんワクチン開発にもヘルステックが中核的な役割を果たしています。

 例えば、アリババ集団は新型コロナに感染した5000人のCT(コンピューター断層撮影装置)スキャンデータを使用して学習したAI(人工知能)で、新型コロナを含む様々な肺炎の確率を予測する「CT画像解析ソリューション」を開発しました。

 新型コロナの遺伝子データのスクリーニング(ふるい分け)や変異解析、タンパク質構造解析などを実施する「ゲノム解析ソリューション」、特定地域における新型コロナの流行の規模や期間などを予測する「流行予測ソリューション」も病院や研究機関に向けて提供しています。

 こうしたヘルステックは医師などがデータに基づいて治療方針を決定するのに役立ちます。我々技術者はこうした変化を支えるために技術力を高め続けるべきだと思います。

クラウドに約3兆円を投資

 アリババクラウドインテリジェンスのジェフ・チャン社長は、2020年4月20日、以下の方針を示しました。

 「アフターコロナの世界でアリババは企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支えるクラウドベースのソリューションを提供する」

 多くの人たちと同様、我々もアフターコロナの世界ではあらゆる分野でDXが加速すると考えています。

 新型コロナで自主隔離しなければならなかった期間に、ヘルスケアのみならず仕事や日常生活に関するテクノロジーが急速に広まりました。アリババはビジネス向けにチャット機能やビデオ会議機能を提供する「DingTalk」というコミュニケーションプラットフォームを提供しています。企業だけではなく、教師もオンライン教育にDingTalkを使っています。

 オンライン注文による食料品配達も伸びている分野です。アリババの傘下にも生鮮スーパー「盒馬(フーマー)鮮生」があります。自主隔離の間、人々は日用品を外に買いに行かずにインターネットで注文しているのです。ECの需要増加は我々にサプライチェーンのさらなる改善を迫っています。

 新型コロナの流行で医療のデジタル化も進みました。アリババ傘下のアリババヘルスはスマートフォンアプリを使ったオンラインでの相談窓口を拡充しました。小児科や消化器科、皮膚科、内科、産婦人科など新型コロナ以外の病気に関する相談も多く寄せられました。

 患者からの相談に対して医師が遠隔地からオンラインで対応します。病院を訪れる患者が減り、病院では重篤な患者を診ることができるようになりました。