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「できない」でなく「できるかたち」で実施する発想を。球児の夢を壊さないための「夏の甲子園」私案

阿佐智ベースボールジャーナリスト
高校野球の聖地、甲子園球場(写真:アフロ)

 すでに報じられているが、どうやら春のセンバツに続いて「夏の甲子園」もコロナの影響で中止になりそうだ。聞くところによると、早いところでは6月下旬から始まる各都道府県代表校を決める地方大会の足並みを揃えるのが難しいことがその要因だという。要するにいまだ「収束」とは言えない状況下で、地方大会から数えると2か月に及ぶ長丁場の大会を実施するのは困難だということだ。しかし、ひと月余りの国民挙げての自粛生活の甲斐あって、収束の方向性が見えてきたこの時期に、中止を決める必要はあるのだろうか。

 一部の「高野連叩き」の論者の中には、この大会を管轄する高野連が収益に目がくらんで「甲子園」を何としても実施したがっているであるとか、高校野球だけが神聖視されるのはおかしいであるとか、それゆえインターハイの中止が決まっているにもかかわらず、夏の甲子園の中止決定が遅いなどと言う者があるが、それらは、「高校野球叩き」という結論ありきの根拠のない的外れな論にしか映らない。そもそもインターハイの主催団体は高体連であり、高野連はこれには属していない。高野連が高体連に加入していないことについては、それはそれで問題がないことはないだろうが、主催団体が違う以上、高野連が高体連の決定に追随せねばならない道理はない。様々な競技を行うインターハイが早々に中止を決めたのは、その大会規模のゆえ、準備期間を考えると早い時期にその決定をせねばならなかったからであり、高野連がそれと判断時期を同じくしなかったことをもって、「高校野球だけが特別視されている」という結論には至らないだろう。

 春の選抜に関しては、確かに中止の判断が遅かったように思う。というのは、中止決定の前にすでに、多くの地域で学校が休校となっていたからだ。学校の教育活動の一環として部活がある以上、その根幹たる学習活動が行われていない状況下で、本来的に生徒の余暇活動である部活の延長線上にある全国大会だけが行われることには明らかな矛盾がある。

 しかし、コロナが収束の気配を見せ始めている中、8月に行われる「夏の甲子園」の中止決定を今行う必要はあるまい。これは各競技に言えることだが、できるかたちで何かをしていくべきではないだろうか。

 その熱の入れようには濃淡はあるだろうが、高校生たちはもう戻ってはこない青春を競技に捧げている。彼ら彼女らが3年間汗を流してきたのは、その先に、自分を試す「ガチンコ勝負」の場があるからに相違ない。

 では、その「できるかたち」とはなにか。高校野球の場合を考えると、この夏に関しては、地方大会と全国大会、つまり「甲子園」を切り離してはどうか。どうやら地方大会の開催については、各都道府県連盟に任されるらしく、多くの都道府県で実施の方向のようである。

 では、代表校をどうやって決めるのかという意見も出るだろうが、それはすでに決まっているではないか。そう、春のセンバツ出場校だ。少なくとも彼らには、全国大会の舞台に立つ資格はある。

 そうすれば、夏の地方大会は後ろにずらせ、日程にも余裕をもたせることができるだろう。長い休校もあり、おそらくは今年の8月は多くの学校で通常の授業が行われることが予想される。そう考えると、地方大会は、7月以降の週末を中心に開催して極力選手たちが授業を欠席することがないようにする。

 そして、これと開幕を同じくして選抜出場予定校で夏の全国大会を行うのだ。大会方式や名称、主催新聞社の相違もあるが、それがネックになるなら両者主催とし、大会名を変えればいい。「球児のため」に各大会があるなら、それは不可能ではあるまい。センバツの出場校は32。5回のトーナメントで優勝校が決まる。当初予定では大会の日程は13日だったが、大会中学校で教育活動が行われていることを考えると、もう少し日程を短くする必要はあるかもしれない。また、6月中に開幕かとも言われているプロ野球も日程の変更もあり、甲子園を使いたいだろう。そう考えると、大会序盤に関しては、甲子園以外の関西圏の他球場を使い、例えば、甲子園の使用は2回戦(ベスト16)からとするなどすれば、大会日程も短縮でき、「持ち主」である阪神球団も、スケジュールのやりくりがしやすくなる。

 地方大会との兼ね合いで言えば、この全国大会で敗退したチームは、その時点で順次地方大会に参加すればいい。「甲子園」で最後まで残ったチームは、地方大会に戻った時点で、トーナメントのかなり上位から参戦することになるが、それは全国大会で最後まで残ったことによるメリットを考えればいいのではないだろうか。

 また、センバツ出場校はすべての都道府県を網羅していないではないかという批判意見もあるかもしれない。それについては、センバツから漏れた当該府県の夏の地方大会優勝校に国体出場権を与えることによって代替はできないだろうか。これによって国体の高校野球出場校は増加するだろうが、そこは前向きに考え、方策を練るべきである。

 おそらくその時期までにコロナが「完全収束」していることはないだろう。それを考えると、無観客はいたしかたがないように思う。収束具合にもよるが、ベンチ外選手くらいは社会的距離をとる、マスク着用、応援無し(つらいだろうが)などの条件つきでスタンドに入れるべきだとは思う。

 高野連が危惧する移動のリスクはもちろんゼロではないが、出発前の検査の義務付けなどの対策で極力ゼロに近づけることはできるのではなかろうか。

 そして、あらかじめガイドラインを決めておき、その基準に触れてしまったときには、残念だが大会は中止、または、当該都道府県に所在する学校は出場見送りなどの措置をとらねばならないだろう。

 現実には、高野連内で方針が決まった以上、中止の流れは変わることはないとは思われる。しかし、「令和2年生」たちが「空白の世代」とならないために、大人たちが知恵を絞って「できること」を実行することが今求められているのではなかろうか。無論これは野球だけの話ではない。

 「コロナに打ち勝つ」とは、ウイルスの蔓延、発症を防ぐことだけではない。また、今後人類はコロナと共存していかねばならない。人が人として生きていることを実感できる文化・スポーツ活動を取り戻すことこそコロナとの共存の証なのではないだろうか。

 球児たちの「夏」の行く末は20日に発表される予定である。

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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