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 型式認証を受けた市販のレベル3の自動運転車が日本の公道を走ることが認められた。だが同自動運転は、実質的には乗用車による、高速道路での同一車線内の低速走行に限定される格好だ。注意が必要なのは、レベル3による自動運転中でも運転者に安全運行義務が課される点。さらに、自動運転に関わる作動状態記録装置に記録すべきデータが最小限に抑えられている点だ。

 2020年4月1日、日本でついにレベル3の自動運転が解禁になった(図1)。これまでも実証実験は可能だったが、型式認証を受けた市販のレベル3の自動運転車が普通に公道を走ることが認められた。

図1 日本における自動運転・先進運転支援システムのレベル分け
図1 日本における自動運転・先進運転支援システムのレベル分け
当初は4段階のレベル分けだったが、米自動車技術会(SAE)の定義に合わせた。AEBはAutonomous Emergency Brakingの略で衝突被害軽減ブレーキ、ACCはAdaptive Cruise Controlの略で先行車追従、LKAはLane Keeping Assistの略で車線維持支援のこと。国土交通省の資料を基に日経Automotiveが作成。
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 自動運転に関する法整備で、日本は欧米より遅れていると見られていた。だが、ふたを開けてみると実質的には世界を引っ張る形での「自動運転レベル3の解禁」となった。

 レベル3の自動運転とは、自動運転システムごとに定めた使用条件(走行環境条件)下において、運転行為をシステム側に委ねることができる「特定条件下における自動運転」のこと。システム側からの引き継ぎ要求があれば、運転車は運転行為に復帰しなければならないが、自動運転中は、携帯電話の利用や車載ディスプレーの注視といった非運転行為を行うことが可能になる。

 こうしたレベル3の自動運転車が晴れて日本の公道を走れるようになったのは、自動車に関わる2つの法律と、関連する省令や告示が改正され施行されたからだ(図2)。2つの法律とは、「道路交通法」と「道路運送車両法」。省令と告示とは、道路運送車両の基準内容や条件付与手続きの詳細を定める「道路運送車両の保安基準」(省令)と「道路運送車両の保安基準の細目を定める告示」(告示)を指す。

図2 自動運転レベル3解禁のための法整備
図2 自動運転レベル3解禁のための法整備
道路交通法、道路運送車両法という2つの法律の改正と関連する省令・告示の改正によって実現した。(出所:日経Automotive)
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 今回改正された道路交通法と道路運送車両法は、2019年5月に成立した。前者の道路交通法は自動運転レベル3に関わる改正など一部を残して2019年12月に施行されたが、自動運転レベル3を含む残りの部分の改正と、道路運送車両法の改正は、2020年4月1日の施行となった。前出の省令と告示も同日施行となっている。

 今回解禁の自動運転レベル3は、表向きは乗用車に限定していない。しかし、実質的には乗用車を対象とするものとなっている。乗用車以外での適用を禁止しているわけではないが、前述の告示からさらに踏み込んで詳細の要件を定める「別添技術基準」の1つである「別添122『高速道路等における低速自動運行装置を備える自動車の技術基準』」が、対象を乗用車としているからだ。同別添技術基準では、対象を「専ら乗用の用に供する自動車であって、乗車定員10人未満のもの及び貨物の運送の用に供する自動車であって、車両総重量が3.5t以下のもの」(一部例外の規定あり)と規定している。しかも、同別添技術基準では、高速道路の同一車線内で最高速度を60km/hとする低速走行に絞って要件を定めている(図3)。

図3 高速道路での同一車線低速走行の自動運転(レベル3)のイメージ
図3 高速道路での同一車線低速走行の自動運転(レベル3)のイメージ
(1)高速道路の本線上で自動運転を開始。(2)60km/h以下で自動で車線維持・車間維持・速度調整を実施。レベル3の自動運転中はアイズオフ(スマホの利用や画面の注視)ができる。(3)本線上で自動運転を終了。国土交通省の資料を基に日経Automotiveが作成。
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 すなわち実質的には、車線変更を伴わない高速道路での同一車線内の低速走行時において、レベル3の自動運転が解禁となる。車線変更を伴うものや高速領域でのレベル3の自動運転は禁止こそされていないが、国側から詳細な要件が示されていない。このため、その技術が安全で信頼できるものであることを、自動車メーカーなど車両を提供する側が自らの方法で証明しなければならない。多大な労力や時間が必要になり、コストも掛かる。恐らく、それを試みる自動車メーカーは出てこないとみられる。

 国土交通省自動車局技術政策課国際業務室長の猪股博之氏によれば、これらの省令・告示・別添技術基準は、国際連合欧州経済委員会(UNECE)の下に設けられた「自動車基準調和世界フォーラム(WP29)」における議論を踏まえて策定したものだ注1)。WP29には日本や欧州の他、米国や中国なども参画している。

注1)WP29は、「国連の車両等の型式認定相互承認協定(1958年協定、相互承認協定)」(主な批准国:日本、欧州、オーストラリア、南アフリカ)と「国連の車両等の世界技術規則協定(1998年協定、グローバル協定)」(同:米国、日本、欧州)の対象となる自動車の国際基準を制定・改正する作業部会。具体的には、相互承認協定に基づく自動車の構造及び装置に関する規則「UN規則」と、グローバル協定による自動車の安全、環境、燃費及び盗難防止に関わる世界技術規則「UN GTR規則」と呼ばれる自動車の国際基準を制定・改正している。

 要するに、自動運転レベル3に関しては、世界的にも高速道路での同一車線内の低速走行に限定してのスタートとなる可能性が高い。実際、WP29傘下で自動運転に関する国際基準の議論を進めている専門分科会「GRVA(自動運転専門分科会)」は2020年3月、「自動車線維持システムに関する車両の認可に関わる調和規定(Uniform provisions concerning the approval of vehicles with regard to Automated Lane Keeping Systems)」という新たなUN規則の提案書を完成させた(図4)。新型コロナウイルスの影響で先行きは不透明だが、WP29では例年通りなら6月と11月に会議が開催される。そこで審議され了承に至れば、国際基準化されることになる。国交省によれば、その内容は2020年3月の提案書の段階では保安基準の省令や告示、別添技術基準と基本的に同じ。すなわち、高速道路での同一車線内の低速走行を対象としたものとなっている。

図4 「自動車線維持システムに関する車両の認可に関わる調和規定」の提案書の表紙
図4 「自動車線維持システムに関する車両の認可に関わる調和規定」の提案書の表紙
WP29傘下で自動運転に関する国際基準の議論を進めている専門分科会(GRVA)が2020年3月に完成させた(http://www.unece.org/fileadmin/DAM/trans/doc/2020/wp29grva/GRVA-06-02r4e.pdf)(出所:国際連合欧州経済委員会)
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 ただ、WP29に参加しているものの、米国は州ごとに法制化を進めている。中国は世界の潮流を見極めつつも独自の判断で法制化を進める構えだ注2)

注2)中国・重慶長安汽車(Changan Automobile)によると、同社と中国自動車技術研究センター(China Automotive Technology and Research Center、CATARC)が自動車の自動運転レベル分け(Automobile Automatic Driving Classification)に関する国家標準の策定を主導。同標準が中国・国家自動車標準化技術委員会(National Technical Committee of Auto Standardization、NTCAS)の審査を通過し、2020年内に正式に公布される見込みだ。

 一方、自宅や特定の駐車場などで運転者が降車しての自動駐車も、自動運転レベル3以上の初期のアプリケーションとして期待されている。実際、米テスラ(Tesla)は、同社の先進運転支援システム(ADAS)「オートパイロット」の機能を強化し、公道以外に限定した同機能「スマート サモン」(サモンは「呼び出す」の意)を搭載済み。ドイツ・コンチネンタル(Continental)やフランス・ヴァレオ(Valeo)でも、自家用車を対象とした自動運転レベル3以上については、高速道路での同一車線内の低速走行と、自動駐車から適用が始まるとみている。