コンテンツにスキップする
Subscriber Only

米中の覇権争いにも影響-地殻変動起こした台湾と韓国の半導体パワー

  • 韓国と台湾は半導体供給で最重要の担い手-かつてのOPECのよう
  • 日米独など各国政府、台湾の指導部に半導体不足解決向けた協力要請

供給ショックほど産業界で起きている地殻変動を如実に露呈させるものはない。ゆっくりとした変化が何年も続き、市場を支配する力が蓄積されていたことがあらわになるのだ。これが実際4000億ドル(約43兆円)規模の半導体業界で起きた。一部の半導体が不足し、韓国と台湾の企業が市場を握っていることが誰の目にも明らかになった。

  第5世代(5G)移動通信や自動運転車、人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)など多くの分野で利用されるようになったマイクロプロセッサーの需要は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)前からすでに大きく高まっていた。そして世界各地でロックダウン(都市封鎖)が実施され、コンピューターディスプレーやラップトップなど在宅勤務向け製品のニーズが一気に広がった。

Share of Semiconductor Demand

2019

Data: Semiconductor Industry Association

  半導体不足で、ドイツのダイムラーや米ゼネラル・モーターズ、米フォード・モーターといった自動車メーカー各社は生産停止を余儀なくされた。アリックスパートナーズによると、2021年に自動車業界の売上高610億ドル相当が吹き飛ぶ可能性がある。

  ドイツでは半導体不足が経済成長の足かせとなり、中国とメキシコでも景気拡大に影響が及ぶ恐れがある。こうした状況は、世界の1、2位の経済大国、米国と中国に国内の製造能力を強化する計画に走らせている。

バイデン大統領、半導体不足への対応を指示-大統領令に署名
中国、半導体でも覇権確立に照準-「第3世代」先行で主導権確保図る

  韓国半導体産業協会(KSIA)のアン・ギヒョン事務局長は「石油輸出国機構(OPEC)がかつて石油でそうだったように、韓国と台湾は半導体供給で最も重要な担い手になった。OPECのように協調することはないが、そうした力を持つ」と指摘する。

  確かに半導体業界には強力な石油カルテルに相当するようなものはないが、石油におけるサウジアラビアやロシアと同様に、台湾積体電路製造(TSMC)と韓国のサムスン電子が蛇口をひねるだけで市場が動くのは事実だ。

  サムスンが19年初めに収益性改善を図るため半導体メモリーの設備投資を減らすと決めると、何年も下落していたメモリー価格が上昇に転じた。TSMCは今年1月14日、21年の新工場・機器投資を最大280億ドルとし、前年から37%増やすと発表。これを受け半導体株が世界的に買われたほか、苦境に陥っている米インテルが半導体生産を大幅に縮小するか、あるいは撤退すらできるようにTSMCが環境づくりをしているとの臆測さえ招いた。

relates to 米中の覇権争いにも影響-地殻変動起こした台湾と韓国の半導体パワー

TSMCのウエハー

出典:TSMC

  台湾と韓国は、米国などから生産を受託することで半導体製造の主導権を握るようになった。1980年代から米国の製造業は「ファブレス」への移行を開始。生産設備を持たないことで資本集約度を下げることができ、従業員ががんの原因になる化学物質を扱うことも不要になった。

  ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)と米国半導体工業会(SIA)が2020年9月に公表したリポートによれば、世界の半導体製造能力で米国が占める割合はわずか12%、台湾と韓国を合わせると43%というのが同年時点の推計だ。

Share of Global Semiconductor Manufacturing Capacity

Data: Boston Consulting Group, Semiconductor Industry Association

  中国は15%と米国を3ポイント上回るものの、中国の半導体メーカーはいずれも世界クラスとは見なされていない。

  自動車業界が半導体確保に急ぐ中で、米国や日本、ドイツなどの各国政府は台湾の指導部に解決に向け協力を要請した。中国が自国領土の一部だと主張する台湾の戦略的重要性がここでも浮き彫りになった。

  米国は数十年にわたり、中国本土からの攻撃を警戒し防衛を固める台湾政府に武器を供給。台湾を巡っては、覇権を争う世界の超大国2カ国間で、極めて危険な紛争の火種となり得る状況が続いている。

バイデン大統領側近、自動車向け半導体不足解消で台湾に協力要請
半導体巡り米中の「縄張り」争いが激化-日欧も囲い込み図る
中国共産党の極端さ軽視できず、米国の衰退確信か-中台「一触即発」

  台湾と韓国はいずれも、戦略的には米国と、経済的には中国と密接な関係を持つ。つまり台湾と韓国からの半導体供給に大きく依存する米中両国は今のところ同じような制約の中にいるのだ。

  ソウル大学のイ・ギョンモク教授(経営管理)によれば、いずれ台湾と韓国はかつてのOPECより大きな力を持つ可能性がある。「少なくとも産油国は世界各地に広がっていた」ためだ。

relates to 米中の覇権争いにも影響-地殻変動起こした台湾と韓国の半導体パワー

サムスン電子の半導体施設

Source: Samsung

原題:South Korea and Taiwan’s Chip Power Rattles the U.S. and China(抜粋)

(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)
    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE