Text by Violaine de Montclos
昔の人々が聞いていた音を再現する「音響考古学」という学問がある。古地図や文献などの資料をたよりに、当時の音環境を分析し、再現する学問だ。
その第一人者のミレーヌ・パルドアンは、2011年から18世紀パリの生活音の再現に取り組んできた。現在は2019年に火災に見舞われたノートルダム大聖堂の再建にもかかわる彼女の活動を、仏誌「ル・ポワン」が取材した。
その第一人者のミレーヌ・パルドアンは、2011年から18世紀パリの生活音の再現に取り組んできた。現在は2019年に火災に見舞われたノートルダム大聖堂の再建にもかかわる彼女の活動を、仏誌「ル・ポワン」が取材した。
ノートルダム大聖堂の再建に生かされる技術
ノートルダム大聖堂に夜の帳がゆっくりと下りる。建物に入ると、今では天井の先に巨大な空が見えることに驚く。
崩壊した天井のアーチからは、様々な耳慣れない音が聞こえてくる。工事用の足場には不安な風の音、呼びかけあう夜間労働者の叫び声、空に開かれた大聖堂を今夜の寝床とする鳥の叫び……。
地上では、白い防護服を着て、まるで亡霊のように忍び込んだ専門家の一団が、最新の録音機材で音響のチェックを進めている。夜遅くまで、彼らはサイレンを鳴らし、空砲を撃ってゴム風船を破裂させ、音響の様子を受信している。
音は壁から壁へと反響し、天井部がしっかりと残っている部分で大きくなる。火災によって開いた穴から漏れ出すものの、それでもやはり建物内に響いている。
大聖堂は建築の至宝であると同時に、音の宝石箱でもある。つまり、声や歌を聞かせ、オルガンの伴奏を響かせるために作られた場所なのだ。
ところが、そのユニークな宝石箱は火事によって奪われてしまった。
「量感、材質、建築、そしてまた周囲の街という織物、それら全てが非常に特別な音環境を作り出していました。大聖堂それぞれが独自の音環境を持っています。5年後には、ノートルダムのオルガン奏者や歌手だけでなく訪問者にも、ここで慣れ親しまれてきた音環境をもう一度体感してもらいたいです」
こう言うのは、音響考古学者ミレーヌ・パルドアンだ。対鉛防護服の中で消えてしまいそうなぐらい小柄な女性である。彼女はフランス国立学術研究センター(CNRS)の音響学者ブライアン・カッツと共に、この専門家グループを率いている。
大聖堂は建築の至宝であると同時に、音の宝石箱でもある。つまり、声や歌を聞かせ、オルガンの伴奏を響かせるために作られた場所なのだ。
ところが、そのユニークな宝石箱は火事によって奪われてしまった。
「量感、材質、建築、そしてまた周囲の街という織物、それら全てが非常に特別な音環境を作り出していました。大聖堂それぞれが独自の音環境を持っています。5年後には、ノートルダムのオルガン奏者や歌手だけでなく訪問者にも、ここで慣れ親しまれてきた音環境をもう一度体感してもらいたいです」
こう言うのは、音響考古学者ミレーヌ・パルドアンだ。対鉛防護服の中で消えてしまいそうなぐらい小柄な女性である。彼女はフランス国立学術研究センター(CNRS)の音響学者ブライアン・カッツと共に、この専門家グループを率いている。
「この調査だけでなく、2013年におこなわれた調査も用いて、ブライアンが音響モデルを構築し、私がこのヴァーチャルなモデルに音を入れます。このやり方によって、私たちは設計管理者や発注者、修復に携わる職人たちにベストなアドバイスをしていきます」
過去の音を取り戻すこと、それこそが、この一風変わった小柄な女性が考えついた仕事である。現在60歳。彼女の経歴はありきたりなものではなかった。
「高校卒業資格を持たずに博士号を取得したのは、私だけのはずです」と微笑みながら言う。
“音の織物”を再現する
過去の音を取り戻すこと、それこそが、この一風変わった小柄な女性が考えついた仕事である。現在60歳。彼女の経歴はありきたりなものではなかった。
「高校卒業資格を持たずに博士号を取得したのは、私だけのはずです」と微笑みながら言う。
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