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 米ウォルマート(Walmart)が米アマゾン(Amazon.com)に対抗して、自動化や非接触化を駆使したeコマースに注力する一方で、アマゾンは近年、高級食品スーパーの「Whole Foods Market」を買収するなど、店頭販売にも力を入れている。中でも、直営小売店「Amazon Go」が、テクノロジーを満載した同社のフラッグシップ店だ。米国で店舗数を増やしつつ、技術改善を続けている。

 アマゾンは本社がある米シアトルにAmazon Goの1号店を2018年1月に出店した。その後、米国のシカゴやニューヨーク、サンフランシスコといった主要都市に拡大し、2020年6月2日時点で約25店に達した。2020年2月末には、Amazon Goの新しいタイプの店舗「Amazon Go Grocery」をシアトルに開店した。これまでのAmazon Goが日本のコンビニエンスストアのような品ぞろえと店舗の規模だったのに対して、Amazon Go Groceryは野菜や果物、肉や魚といった生鮮食品の品ぞろえを充実させた、スーパーマーケットに近い店舗である。それに伴って店舗の広さも従来のAmazon Go に比べて、5倍以上になった。

アマゾンがシアトルに開店した生鮮食品を充実させた「Amazon Go Grocery」
アマゾンがシアトルに開店した生鮮食品を充実させた「Amazon Go Grocery」
(撮影:シリコンバレー支局)
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 Amazon Goの特徴は、精算作業がいらない、いわゆる「レジレス(レジなし)」型の店舗だということ。商品も利用者が自分で袋にしまう。いわば店員とお金のやり取りをしないコンタクトレス店舗の先駆けである。アマゾンはその仕組みの詳細を明かしていないが、以下だと推察できる。

 まず、スマートフォンに専用アプリをダウンロードし、店内にあるゲートにアプリ画面の2次元コードをかざす。これがユーザー認証になる。次に、入店した顧客を、天井にあるカメラユニットで撮影し続けて追跡。人物追跡用カメラユニットとは別に、棚に埋め込まれた小型カメラが、顧客が棚のどの場所に手を伸ばしたか認識し、顧客がかごに入れた商品を把握する。さらに一部の店舗には、棚の奥にマイクが設置されていたり、重量センサーを棚に導入したりしている。商品に触れたかどうかをマイクで集音して判別したり、商品を手に取ったかどうかを重さで検知したりしているようだ。天井のカメラユニットには距離画像センサーとおぼしきセンサーが搭載されており、顧客の動きを計測していると推測される。

従来のAmazon Goでは冷蔵棚に小型カメラが組み込まれていた。上部のライト付近
従来のAmazon Goでは冷蔵棚に小型カメラが組み込まれていた。上部のライト付近
(撮影:シリコンバレー支局)
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 こうしたセンサーと画像認識技術で、顧客が手に取った商品を識別。その情報をアプリ内にあるAmazon.comのIDとひも付ける。最後に、顧客がゲートから退店するとオンラインで自動決済される。

ゲートにアプリをかざして入店し、退店すると非接触で会計が完了する
ゲートにアプリをかざして入店し、退店すると非接触で会計が完了する
(撮影:シリコンバレー支局)
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アプリに表示されたAmazon Go Groceryのレシート
アプリに表示されたAmazon Go Groceryのレシート
(画像:アプリ画面をキャプチャ-したもの)
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 Amazon Go Groceryは、この仕組みをさらに進化させ、多くの作業を天井のカメラと画像認識技術のみで実施しているようだ。例えば、前述の棚に埋め込まれたカメラや棚の奥にあるマイクが見当たらなかった。一方で、重量センサーは存在していた。米国では、野菜や果物は量り売りされることが多い。開店当初に記者が訪問した際には、Amazon Go Grocery では野菜や果物を1個や1束ごとに値付けしていたが、今後、重量センサーのデータと紐づけた量り売りが可能になるかもしれない。

 このように、アマゾンはAmazon Goのレジレス技術を継続的に改善している。センサーをカメラに絞るというAmazon Go Groceryの仕組みは、既にAmazon Goの店舗に導入済み、あるいは他のAmazon Goの店舗に広げる可能性が高い。

(撮影:シリコンバレー支局)
Amazon Go Groceryの天井にあるカメラ。2種類ある。一方は、2次元(2D)のカメラで、もう一方は3Dカメラ(距離画像センサー)のようだ
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