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広告特集 企画・制作 朝日新聞社メディアビジネス局

ニッポン、グローバル人材のリアル

国家誕生の見守りから、イラクの大量破壊兵器査察まで。
ひとりの元国際公務員の仕事の話

国家誕生の見守りから、イラクの大量破壊兵器査察まで。ひとりの元国際公務員の仕事の話

1945年の設立以来、「国連(国際連合)」は、常に国際政治と共にある。

北朝鮮によるミサイル発射のたびに出される「国連安保理決議」、米国のUNESCO脱退宣言。国連総会で発信される各国首脳の演説は、主要ニュースの常連だ。

しかし、私たちには「国連」の実像が見えているだろうか?地球規模の機関である「国連」はあまりに大きすぎて、そこで働く「国際公務員」という職業の詳細というのは、なかなか分からないものだ。

今回は、国際公務員とは何か?を考えるにあたって、上智大学総合グローバル学部教授であり、元国連広報官である植木安弘先生にお話を伺った。

上智大学 総合グローバル学部教授
植木安弘 教授
1976年上智大学外国語学部卒。コロンビア大学大学院で国際関係論修士号、博士号取得。専門は国際政治、国連研究。1982年より国連事務局広報局勤務。1994-99年国連事務総長報道官室。1999-2014年国連事務局広報局、広報戦略部勤務。イラクにおける国連大量破壊兵器査察団バグダッド報道官等も務める。2014年から現職。著書に『国連広報官に学ぶ問題解決力の磨き方』(祥伝社新書、2015年)など。

国家の独立支援から大量破壊兵器査察の現場まで、広報官として立ち会った約30年間

―本日は、よろしくお願いします。植木先生は国際公務員をされていたとのことですが、どのようなお仕事をされていたのですか?(以下敬称略)

植木:私は約30年にわたって国連事務局で働き、広報局、報道官室、フィールド活動と多くの分野に携わりました。

フィールド活動とは、国連本部で働くのではなく、途上国に赴くことです。例えば私が携わった仕事の中に、南部アフリカのナミビアという国の独立支援がありました。

他にも、当時少数白人政権だった南アフリカ共和国で民主的な政権を作るために行われた1994年の選挙の監視活動に従事し、1999年インドネシアの一部だった東ティモールが独立する際の住民投票には政務官・副報道官として赴任しました。

―さまざまな国の誕生に立ち会われてきたのですね。

植木:選挙の他にも、2003年イラク戦争前の査察にも携わりました。イラク戦争が勃発する前に、国連は「イラクに大量破壊兵器があるかどうか」という調査をしたのですが、私はその時の国連査察団のバクダッド報道官でした。

―記憶に新しい戦争です。危険だったのではないですか?また、日本人というアイデンティティは、その中でどのように見られていましたか?

植木:広報というのはどこに行っても仕事があるので、危険と隣り合わせになることもあります。2003年当時は、イラク戦争が勃発する2日前までバクダッドにいました。その時私は記者団に国連の情報を提供し、説明することができる唯一の報道官だったので、世界の注目が集まりました。

日本人というアイデンティティは、さまざまな地域で中立的に見られています。私がイラクに行った時にも、日本はイラクと比較的良い関係を持っていましたし、日本人であることが少しは役に立ったと思います。中立的な立場である国連としては、国同士の政治的な関係性もあるので、アイデンティティの多様性は非常に大事なのです。

―国連にさまざまな国の人がいることは、中立的な立場を守るためだけではなく、実地の仕事でも必要なのですね。国家の独立や戦争以外のことに関わることはありましたか?

植木:災害に関わることもあります。2004年のクリスマス直後のスマトラ島沖地震の時にも、フィールド活動をしました。当時は、国連の人道調整室の現地広報官でした。

被害のひどかったスマトラ島北部にあるアチェ州の州都バンダ・アチェで、二ヶ月ほど人道支援の広報部門の支援活動をしました。人道支援では、その他に、アフリカのジンバブエやパキスタンにも広報関係で出張していたことがあります。

そういった仕事を経て、2014年から上智大学に移りました。

世界の公共益達成のために働く

―本当に激動の30年間ですね。国際公務員という職業について、あまり詳しく存じあげなかったのですが、植木先生のお話を聞いてイメージすることができました。一般的に、国際公務員とはどんな職業なのでしょう?

植木:国連には本部機構のほかに、さまざまな役割を果たすための下部機関があります。例えばユネスコであれば、教育に重点を置いて国際的な支援教育を行う。ユニセフであれば、子どもや母親の支援。国際労働機関であれば、労働者の権利を守る、といったものです。

多様な役割を持つ国際機関の中で中核になる人が、国際公務員です。さまざまな国の人が国際公務員として働いていますが、基本的に世界の公共益達成の目的のために働くことが求められています。

―国際機関で働く立場ではあるけれど、政治から離れた立場なのですね。

植木:とはいえ、国連自体は非常に政治的な組織です。誕生したきっかけが「20世紀の二度の世界大戦のような悲劇を繰り返さない」ことであるためです。
そのため、紛争や難民の問題が起きた時には政治的な対処をしますし、一般市民を保護するためにさまざまな措置をとります。

しかし、政治的な対処を行っても、世界の公共益のために働き、政治的な思惑とは離れた立場であるべき、ということは変わりません。

―あくまでも、中立的な立場で世界に貢献しているのですね。具体的にどういった活動をしているのでしょうか?

植木:さまざまな活動があるのですが、具体例として、先ほど触れたナミビアの独立時のケースをお話しします。まず、独立して国を作るために何が必要かというと、憲法です。そして憲法を定めるためには制憲議会が必要になり、議会の議員は民主選挙で選ばれなければならない。そんな時に、国連は民主選挙を監視・監督するのです。
まずは、国連が現地に赴いて誰が有権者なのかを確定するところから始まります。難民や避難民も、自分の国に戻って投票ができるように支援しなければなりません。その過程でも、人権の専門家を送って人権がきちんと守られている状態にします。そして、制憲議会が確定したら、今度は憲法の専門家を送って憲法の制定に貢献します。

―新しく国を作る時の支援も、国際公務員の仕事なのですね。

植木:また、紛争の平和的解決やさまざまな政治問題への対処のために、国連は政治派遣団を送っています。アフリカや中央アジアなどに国連事務所を置いて、紛争の予防活動や、紛争が激しい戦争に発展してしまわないようにするための政治活動も行います。

さらに、国連は政治的な活動だけではなく、開発活動も行っています。例えば、途上国の開発のために、2000年から2015年までは「ミレニアム開発目標(MDGs)」として掲げられた目標達成に向けた開発協力をしていました。

植木:2016年から2030年までは、「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に取り組んでいます。SDGsには貧困・飢餓の撲滅、幼児の死亡率を下げる、教育レベルを高めて広めるなどの17の項目があります。これらの開発目標を国連が採択し、各国がそれを実行していくというのが、現在の状況です。

国連というのは、主権国家が集まった機関ですが、各国共通の目標を設定して、それぞれに履行を任せていく役目も果たしています。

どのようなキャリアを積んで、国際公務員になるのか?

―世界を牽引していく国連を支えるのが国際公務員。どういった人が、国際公務員として就職するのでしょうか?

植木:まず、国連は高学歴の人が多いです。統計を見てみると、修士号を持っている人が多くいます。そして、専門性が必要なので、何か他の仕事でキャリアを積んでから国際公務員になる人が多いです。

―一般企業に勤めていた人でも、国際公務員になる方がいるのですか?

植木:もちろんいます。一般企業でさまざまな経験をすることが専門性に繋がるので、決して一般企業に就職したから、国際機関に勤められないということはありません。

例えば、金融関係の業務に就いていた人で、現在は国連の年金部門で資産運用をしている方もいますし、ユニセフでは子どもたちの健康に関わることが多いことから医師や病院経営をしていた方もいます。

基本的には、自分の職業で専門的知識を身につけている人であれば、国際公務員になる可能性があると思います。ただ、ある程度国際性が身についている方や、国際的な仕事をしていた方以外ですと、国際機関に入ってから苦労するところはあるかもしれません。

民間企業のビジネスパーソンに必要なグローバル化

―社会全体がグローバル化していますが、国際機関はグローバルそのものですね。国際機関に勤めていた植木先生から見て、民間企業に勤めるビジネスパーソンにもグローバル化が必要だと思いますか?

植木:今、CSR(Corporate Social Responsibility)、企業の社会的責任が重要視されるようになっています。多くの企業にCSR部門ができて、企業としても社会貢献しないといけなくなりました。

CSRは、以前は脇役として行う事業だったのが、今では主役になってきていると思います。環境を守り、人権を尊重し、生産性を高めるようなことをしていかないと、逆に競争に負けてしまうという時代です。

この流れで、SDGsに対する企業の関心も高まっており、国際的な開発目標を事業のメイン、コアに据えている企業が増えてきています。民間企業で働く人たちも海外との繋がりは深まってきていますので、国際社会を相手に仕事ができる人がますます求められていると思います。

―目先の利益を追うだけではなく、持続可能な社会を作るために貢献できる企業にならなければいけない時代になりましたね。

植木:海外に送られた時に、自分の力で現地の人たちとうまくやっていける国際性は必要でしょう。「その人に何が出来るのか」といったコンピテンシーが、何よりも重要な要素として問われるようになってきています。

―企業のSDGsへの貢献と、人材のコンピテンシー、どちらも日本を成長させるために欠かせないことだと思います。本日は、ありがとうございました。

国際公務員を目指すための手がかり

植木先生が在職する上智大学では、国際公務員の養成に力を入れている。国際協力の分野での活躍を目指す次世代の人材育成を目的に、「上智大学国際協力人材育成センター」が設立され、植木先生が所長を務めている。同センターでは、国際機関や国際協力分野に進みたい学生に対し、さまざまな支援を行っている。

そのうちの代表的な例が、上智大学の公開学習センターと提携して開講している、春と秋の年2回の「国際公務員養成セミナー」と「国際公務員養成英語コース」の2講座だ。これらは上智大学の学生だけでなく、他大学の学生や一般社会人も受講可能な、社会に開かれた講座である。

「国際公務員養成セミナー」は、国際公務員として働く上で必要な国連・国際機関の基礎知識や人事制度、履歴書の書き方、コンピテンシー面接、YPPやJPO試験対策などを学ぶことができる、極めて実践的な内容となっている。講師も、植木先生のほかに、国連や国際機関の人事官経験者が担当している。国際公務員になるための試験対策を、国際公務員の養成や採用のプロから直接学ぶことができる貴重な機会である。

また、「国際公務員養成英語コース」は、国際公務員として働くために必要な英語の知識やライティング・スキル、公式文書の読解力などを学ぶことができる。国際公務員のポジションは世界中の人との競争であり、英語を母語としない日本人にとって、英語力のスキルアップができるこのコースで学ぶ意義は大きい。

さらに、8月には、「実務型国連集中研修:国際公務員をめざして」という研修が行われている。これは、ニューヨークの国連本部内で行われる短期の集中講座である。講師も現職あるいは元職の国連職員が務め、5日間にわたって実践的な演習科目が組まれている。普段は簡単に入ることのできない国連本部の中で、国連の雰囲気を肌で感じながらの学びは、この集中講座でしか体験できないし、上智大学だからこそ提供できる講座だ。

いずれの講座も、受講するには書類審査が必要であり受講費用もかかる。特に8月の集中講座は、受講料だけでなく、ニューヨークへの渡航費と現地宿泊費等も自己負担となるので、観光気分で参加するわけにはいかない。

しかし、自分がこれまで社会の中で培ってきた専門性を、世界のために活かしたいと考えているなら、上智大学のこれらの公開講座は、国際機関進出への第一歩となるだろう。

SHRIC国際協力人材育成センター

<詳細はこちら

※2017年度の講座はすでに終了しているが、次年度も開講の予定である。興味のある方は上智大学国際協力人材育成センターのウェブサイトにアクセスしてほしい。上記講座の他に、国際協力に関するさまざまなセミナーやイベントも行われている。

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