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アビガン、有効性示されず 臨床研究で、藤田医大が発表
濱谷 陸太Brigham and Women's Hospital 予防医療の研究者
「効いた人もいるのでは?」という疑問について、補足します。
これは現在の所、いかなる臨床研究でも示すことはできません。
「〇〇が☓☓に効く」というのは因果関係で(相関関係でないですね)、因果関係を示すには基本的にランダム化試験が必要です。
でもランダム化試験というのは、対象とした母集団での因果関係を調べるものです。例えばアメリカ人を対象にしたランダム化試験で「死亡率が10%減った!」と結論されても、日本人では全く効かない可能性が(当然)あります。
「効いた人もいるのではないか?」という疑問は、個人での因果関係を意味しています。Aさんはアビガンを投与されて治ったが、それはアビガンを内服したから治ったんじゃないか。これを示すには、Aさんがアビガンを飲まない状況でどうなったか知る必要があり、それはタイムマシンがなければ無理です。
よって、この疑問に対する答えは、「いたかも知れないしいないかもしれない。どうやってもわからない」となります。
治療法がない疾患の場合、まずは大きな集団で(平均的に)効く薬をみつけ、標準治療として確立することが目標です。レミデシビルが効くことが示されていますが、あくまで平均的に効くという意味です。平均的に効く治療=標準治療です。ある人にとっては投与しないほうが良かった可能性も当然ありますが、それを示すことはできません。
Peer reviewってシステム破綻してない? - Riklog
濱谷 陸太Brigham and Women's Hospital 予防医療の研究者
論文載せるにはpeer reviewといって、複数の専門家が研究の質をチェックすることになっています。
もはや当たり前のシステムになっており、peer reviewが無い雑誌=科学的意義なし、という風潮です。
しかし以前から、peer reviewのシステムは理想形からはほど遠い、と言われてきました。
そして最近、COVID-19の不正論文や質の低い論文が有名医学誌にたくさん掲載されている事が問題になっています。
この記事では、JAMAという有名医学誌に掲載されたcommentaryを参考に、peer reviewについて考えてみました。
ステロイド薬でコロナ重篤患者の致死率3分の1低下、英治験
濱谷 陸太Brigham and Women's Hospital 予防医療の研究者
これは期待し過ぎるのは禁物です。
全ての感染症は重症化すると敗血症という病態になります。サイトカインストームというのは、敗血症の病態の一部を捉えた言い方です。当然、原因となる菌なりウイルスを殺す薬を投与した上で、炎症を抑えるステロイドにて治療効果が良くなるだろうとかなり前から言われてきました。結果、数十のランダム化比較試験が行われ、コンセンサスとしては効果なし、ということになっています。よって、数ある感染症の中でコロナだけに効くとは考えづらい訳です。
大規模ランダム化比較試験で効くという結果になったとしても、完璧な研究はなく、その解釈が重要です。しかもまだpreprintの段階。正式に論文発表されたら読んでみようと思います。
ちなみに炎症性サイトカインにも色々あり、たくさん薬が検討されています。ステロイドは漠然と炎症を抑えますが、よりターゲットを絞った抗炎症薬が期待されています。
【小林弘幸】腸内環境を整えて、免疫力アップ
濱谷 陸太Brigham and Women's Hospital 予防医療の研究者
食物繊維や発酵食品が健康に良いことは証明されており、その効果の一つの説明として腸内環境の改善が考えられています。
これは主に基礎研究の結果を基とした仮設で、実は実際の人において「どう腸内環境が改善するのか(どう改善すると健康に良いのか)」「何が腸内環境を改善させるキーになるのか」はまだはっきりしていません。
そもそも何万もの種類の腸内細菌がいるのだから、どういう分布が良い分布なのかということを定義することが難しかったのです(AIの進歩でできるようになってきました)。
最近注目されているのはleaky gutと呼ばれる概念です。簡単には、腸内環境が悪いと、腸内の様々な悪いものが体内に入り込んで悪さをする、というもの。今まで何の根拠もない"健康食品"がleaky gutの改善を謳うものが散見されていましたが、ヒトでの研究は今まさにホットで、これからエビデンスが出てきます。
よって現状では、商業レベルで謳われるleaky gutなり '腸内細菌を整える' はヒトでの科学的根拠に基づいていないことがほとんどです。
日本でもApple Watchの心電図機能が利用可能に?Appleが承認取得
濱谷 陸太Brigham and Women's Hospital 予防医療の研究者
私が専門としている事にかなり近いです。
<Apple watchの有用性>
今の所は、無症候性心房細動の検知にのみある程度の有用性が期待される程度です(症候性=症状あり、なら本人がわかります)。心房細動は脳梗塞の原因になるので、その前にApple watchで検知して医者にかかり、脳梗塞予防の薬を飲むことは良いことです。
ちなみに心房細動とは「脈が絶対的にバラバラ(irregularly irregular)」である状態なので、自分で脈取ればわかります(手首の動脈。そういう習慣のない人がほとんどと思いますが)。
Apple Heart Study (https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1901183)に基づいており、アメリカではFDAのclearanceを得ています。
*approval=承認、ではありません。医療機器とは言えないが、その他市販されている医療機器もどきとは一線を画する、という意味です。
<「多くの人の命を救っている」という文面について>
これは言い過ぎです。リンク先で紹介されている患者さんは安定狭心症(心筋梗塞でない)であり、一般的に命に関わりません。
ST変化という心電図所見を拾っているのですが、Apple watchの波形を医者がみればわかりますが精度の悪いスクリーニング程度にしかなりません。胸痛で受診した患者を適切に医者が対応すれば、Apple watchの出る幕はありません。今の所。
ちなみに最近新型コロナの治療薬候補であるヒドロキシクロロキンの副作用(QT延長)をApple watchで診断できないか、という研究が報告されましたが、まだまだ実用化の道のりは長そうです。ブログで論文解説しています(https://riklog.com/paper-review/apple-watch-qt-prolongation-circ/)
WHO、臨床試験で抗マラリア薬の使用再開発表
濱谷 陸太Brigham and Women's Hospital 予防医療の研究者
これの経緯は以下のとおりです:
1. ヒドロキシクロロキンが効くかもと噂され(小規模な研究で示唆され)、一部WHO主導でたくさんのランダム化試験が組まれ、始まった(効くという証明にはランダム化試験が必要)。
2. Lancetという権威ある医学雑誌に、ヒドロキシクロロキンは効かないかも、という大規模な観察研究(ランダム化試験でない)が発表された(ブログで解説してます:https://riklog.com/paper-review/hydroxychloroquine-registry-lancet/)。
3. この研究は観察研究ながら信頼性が高いと判断され、効かない薬の証明に時間と金をかけるのは合理的でないと判断、WHO主導のランダム化試験が複数中止となった。
4. Lancetの論文は、実は用いたデータが捏造されていた可能性が指摘された(論文を細かく見ると変な部分がある)。実はデータ収集に一般企業が絡んでおり、その立ち回りや利益相反を含め現在調査中。
5. これをうけWHOが臨床試験の再開を発表した。
かなり大掛かりな論文捏造事件かもということです。
治療薬に関しては、レムデシビルがかなり効きそうなので、必ずしもヒドロキシクロロキンに拘る必要はなさそうです(当然色々オプションがあった方がよいですが)。
喫煙が新型コロナの重症化進める 米研究グループ、論文で明らかに
濱谷 陸太Brigham and Women's Hospital 予防医療の研究者
残念ながら解釈が誤っています。
おそらく元論文は仲田さんが引用されているものですが、この論文で証明したことは「喫煙が肺でのACE2発現を増やす」というもので、新型コロナの重症化とは関連付けていません。
これは喫煙がコロナ重症化(というよりウイルスの侵入)のリスクを上げる事を説明する一つの仮設となる基礎実験で、それ以上の事は言えません。
「喫煙がコロナの重症化を進める」かどうかは、それを直接比較した臨床研究でのみ言えます。原田先生が引用している論文は、まさにそれです。
*基礎研究の結果を人での所見としてそのまま解釈できない、ということは非常に重要です。実はARBやACE阻害薬という降圧薬は肺のACE2発現を増やすことが知られており、コロナ患者にはこれら降圧薬を止めたほうが良いか、真剣に検証されてきました。
結局、大規模臨床試験が同時に3つもNew England Journal of Medicineという雑誌に発表され、どれも「降圧薬の使用とコロナ感染は関連なし」と結論しています。
https://riklog.com/paper-review/covid-arb_acei-nejm/
この例からも、肺のACE2が増えるからと言って、コロナ感染リスクが増えるわけでないことがわかります。つまり、喫煙により新型コロナ感染リスクが増える原因は、他にも考えられるということです。ヒトでの現象は、単一の実験系や経路から説明できるほど単純でないことがほとんどです。
青葉容疑者、死亡率95%超だった…懸命に治療した医師「君も罪に向き合って」
濱谷 陸太Brigham and Women's Hospital 予防医療の研究者
私は(研修医の頃)超重症の熱傷を3ヶ月間泊まり込みで診療した経験があり、医療者側の気持ちが少し理解できる気がします。
重症熱傷はほとんどが若者〜中年の自殺(ガソリンをかぶって着火)です。その治療は、医療者側は半端なく過酷で長く、数千万の医療が必要となります。そしてもし治療に成功しても、半数がまた自殺する。自分はなんのために治療しているんだろう、と繰り返し自問しながら、ひたすら治療し続けるのです。
このケースの場合、対象が極悪非道な行為を行った患者であるとともに、治療しても死刑になるのが確実なわけです。かなり複雑な気持ちで診療にあたったと思います。はっきり言って、治療する意味ないだろ、と思った医療者はかなり多いと思います。それでも患者は患者だから助けるのが医療です。彼らは医療をやりきった事について、称えられるべきです(間違っても非難されるべきではありません)。
私には医療者としての目線しかわからず、御遺族の思いは計り知れません。
封鎖なしのスウェーデン、「集団免疫」には程遠い状況 首都の抗体率7.3%
濱谷 陸太Brigham and Women's Hospital 予防医療の研究者
抗体検査の質(感度特異度)や検査の対象となった集団(国民を反映しているか)、検査数(1118件が十分な数か)といった問題はありますが、これは疫学研究で必ずつきまとう問題で、現地の疫学者が考えてやったのでしょう。
むしろ、抗体率7%というのは妥当だと思いました。
1000万人程度の人口で死亡者が3800人。致死率が1-2%だったとして感染者は4-8%くらいです。
この数字から抗体陽性率が数十%になるわけないですね。
記事にもありますが、スウェーデンはロックダウンを行っていないだけで、集団免疫を目指しているわけでは無いと思います(無理です)。
トランプ氏、抗マラリア薬服用明かす 対コロナ効果は不明
濱谷 陸太Brigham and Women's Hospital 予防医療の研究者
これは科学への冒涜・・・とまでは言えませんが、(大統領なのに)あまりに科学リテラシーが低いと言わざるを得ません。
QT延長(からの心停止)を含む副作用あり、効果も証明されておらず、どのような観点からも予防的な人道的使用(compassionate use)のオプションとはなりえません。
CDC(米国疾病予防管理センター)がトランプ政権のせいでうまく機能できてない件を受け、Lancetという一流医学雑誌で「トランプに投票するな」と批判されたばかりでした。
"Americans must put a president in the White House come January, 2021, who will understand that public health should not be guided by partisan politics."
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)31140-5/fulltext
色々と残念です。
「抗体検査」東京の献血で0.6%陽性、結果にばらつき
濱谷 陸太Brigham and Women's Hospital 予防医療の研究者
0.6パーセントというのは測定誤差の範囲内です。即ち、その程度の罹患率(抗体保持率)を一つの検査で調べることはできません。
山田先生が指摘しているように、献血に行く人という強い選択バイアスがあります。それを差し置いても、そもそも日本のコロナ既感染者はそこまで多くないから、正確に○%と推定することはできません。そこまでの検査精度が担保されてないから。
そもそもどうやって抗体検査の感度や特異度を調べているんでしょうか。本当の答え(既感染かどうか)がわからなければ推定不能です(この点は私が知らないだけかもしれません)。
NORMAL
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