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【塩野誠】GAFA v.s.国家、勝つのはどちらか
小野 展克名古屋外国語大学 教授 世界共生学科長
かつて半導体等で中心に世界を席巻した日本企業は、なぜ平成の大敗北を招き、低迷を続けているのか。これは、令和の日本を考える上で重要な問いの一つだろう。塩野氏は、グーグルやアップルなどのデジタルテクノロジー企業が次々と誕生する米国と停滞が続く日本を比較することで、その答えに迫っている。米には、世界各国から優秀な頭脳が集まる大学、そこで起業を目指す若者の野心、そして潤沢に資金を提供すVCが織り成すエコシステムがある。塩野氏は、その実像と構造を丹念に解き明かす。グーグルが誕生した1998年、東大卒の就職先上位5社はNTT、NHK、東京三菱銀行、日本興業銀行、住友銀行。優秀な若者が起業を目指す米国と、若者が既存の有名企業にしがみつく日本の対比に、敗因の一つが示されている。2005年にインターネット関連企業のライブドアがフジテレビの筆頭株主だったニッポン放送を買収し、フジテレビの経営権を奪取しようと試みた時、塩野氏は、ライブドアで買収の実務を担っていた。塩野氏は評論家ではなくビジネスに携わる実務家だけに、分析の視点が常にリアルだ。15年後の今、ネットフリックスによる動画配信などインターネットがテレビを侵食している現状を踏まえた時、ライブドアがフジテレビの経営権を取得していれば日本の何かが変わっていたのではないかと夢想してしまう。
【塩野誠】デジタル通貨と国家の攻防 #5/6
小野 展克名古屋外国語大学 教授 世界共生学科長
安全保障と経済の両面で、米国の覇権国として地位は揺らぎ始めている。自国優先主義を掲げるトランプ大統領の誕生は、その仇花とも言えるだろう。米国の覇権国家としての地位を裏付ける基軸通貨としてのドルも、フェイスブックのデジタル通貨構想であるリブラ、中国が発行を計画しているデジタル人民元という二つの脅威にさらされている。
野口悠紀雄は「リブラが脅威になるのは、政府や中央銀行が適切な経済政策を行っていないからだ」(文藝春秋オピニオン 2020年論点100「誤った経済政策を矯正するためにリブラ導入が望まれる」)と指摘する。つまり、米政府やFRB(米連邦制度準備理事会)が経済政策で失敗し、フェイスブックの方が人々から信頼されれば、米ドルより、リブラが基軸通貨としてグローバルに普及する可能性があると言える。
こうした構図の上に立って、塩野氏はさらに本質的な問いを発する。「素早く動き破壊する独裁的経営者を持つデジタルプラットフォーマーが国家そのものだったら世界はどうなるのか」。つまり中国が、デジタル化で人民元をバージョンアップした時、基軸通貨が人民元に変わるだけでなく、グローバル経済のプラットフォームが中国にハックされてしまう現実に我々は直面しているのだ。
【塩野誠】国家がプラットフォーマーに嫉妬する日#4/6
小野 展克名古屋外国語大学 教授 世界共生学科長
「国家がプラットフォームに嫉妬する日」という4章のタイトルは、なかなか示唆的だ。新型コロナだけでなく、金融危機や環境問題、テロに至るまで、世界が直面するアジェンダは、一つの国家では対応できないもので溢れている。現代において国家の役割が後退しつつある中、デジタル世界では、GAFAを筆頭にデジタルプラットフォーマーがグローバル世界への影響力を強めている。塩野氏は欧州委員会が、検索でのグーグルの独占的パワーに制裁を課したことや、デジタル課税の問題など、国家とプラットフォームの綱引きを丁寧に分析、その実像が描き出している。スコット・ギャロウェイは「the four GAFA~四騎士が創り変えた世界~」(東洋経済新報社)で、GAFAの独占的な地位が、競争環境を歪め、イノベーションの生成を阻んでいる、と警鐘を鳴らしている。あまりにも巨大になったGAFAは、産業の新陳代謝と国際秩序の双方に脅威を与えつつあると言えよう。塩野氏が指摘するように、国家を凌駕する力を持ったプラットフォーマーが、どのように公共性を担えるのかが、極めて重要な問いとなる。
【塩野誠】デジタルテクノロジーと権威主義国家#3/6
小野 展克名古屋外国語大学 教授 世界共生学科長
デジタルテクノロジーの急速な進歩等を踏まえて人類の未来を大胆に読み解いたユヴァル・ノア・ハラリは「ホモ・デウス」(河出書房新社)の中で、資本主義が共産主義に勝利したのは、共産主義がデータの集中処理が必要なのに対して、資本主義は、データ処理が分散的だからだと指摘している。資本主義は、個人や企業が利益というモチベーションで、自由に分散的に活動する仕組みで、共産主義より生産性を高めることができた。
自由な経済活動で活力を引き出す資本主義は、政治体制としては、民主主義と相性が良い。
われわれは、どこかで共産党一党独裁の権威主義的な政治体制の中国は、資本主義のダイナミズムを取り込めず、いずれ経済成長は限界を迎えると考えているのではないか。
しかし、ハラリはAIの進展で、データの一括管理が有用性を高めると、中国が採用している共産主義が社会システムとして優位になりかねないと分析する。新型コロナの感染防止という大義名分があれば、国家が監視カメラやネット上の個人データを一括管理、分析することの有用性が高まる。塩野氏も、AIの進展が権威主義の優位性を高める可能性を踏まえ、大量の個人データで政府が国民を監視する中国の「社会信用システム」の在り様、フェイスブック等のSNSを活用して米大統領選などで世論操作が進んだ内情を豊富な事例と鋭い分析力で読み解く。新型コロナの感染拡大防止に権威主義国家の監視テクノロジーが寄与したことが、自信を失う西側諸国により一層の揺らぎを与えた、との塩野氏の指摘は重い。今、挑戦を受けているのは資本主義と民主主義そのものだと言えよう。
【塩野誠】ハイブリッド戦争とサイバー攻撃#2/6
小野 展克名古屋外国語大学 教授 世界共生学科長
新型コロナウィルスの感染拡大に、我々が何かプラスの意味を見出すとしたら、デジタル化の加速ということになるだろう。やっかいな感染症のせいで、人と人との直接的な接触が制限される中で、デジタル化の針は、ますます早く動くことになる。塩野氏は、社会が高度にネットワークやコンピュータに依存しているほど、サイバー攻撃に脆弱になる、と警告する。デジタル化が、ますます加速する日本を含めた先進国は、北朝鮮のサイバー攻撃の格好の餌食になる。一方で、デジタルインフラが脆弱な北朝鮮は攻撃を受け難い。従来からの武力行使に加えて、非正規の戦闘やサイバー攻撃が行われる紛争を「ハイブリッド戦争」という。痕跡も残らず、主体を特定しにくいサイバー攻撃が、深く静かに仕掛けられるリスクに、国家や企業、社会全体がさらされている。感染症の拡大で、サイバー攻撃の破壊力が大きくなっていることに、我々は十分に備えなければならない。
【塩野誠】日本はどの未来を選ぶのか#6/6
小野 展克名古屋外国語大学 教授 世界共生学科長
デジタル化はビジネスだけでなく、国際秩序も含めた世界のありようを大きく変化させている。新型コロナによって人と人との接触が制限され、変化のスピードがますます加速する中、日本は、どうずれば生き残れるのか。この根源的な問いに、塩野氏は具体的な提言を示す。まず、アジェンダセッティングとルールメイキングで日本が世界をリードする必要性を説く。そこでポイントになるのは、米国が没落、中国のような権威主義的な国がデジタル覇権を目指す中で、日本が自由や人権、平和を尊重する価値観を世界に発信できるのか、だという。そして日本は、すでにデジタル化をリードしつつある米国や中国、イスラエルではなく、インド、東南アジア、北欧、中東欧の才能ある人々や企業の技術力に着目、連携を深めることに可能性を見出すべきだと提案する。北欧・バルトを対象としたベンチャーキャピタルの業務を担う塩野氏ならではリアルな視点に、説得力と可能性を感じる。「ゲームは終わっていない」という塩野氏の言葉を前に、日本の政治や企業、そして一人一人が未来を見出し、どう向き合うのかが問われている。
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