J&J、1.7兆円規模の和解案提示-ベビーパウダーによる卵巣がん訴訟
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同社のベビーパウダーについて、調達した原料タルクに発がん性を有するアスベスト(石綿)が混入したことから、卵巣がんを発症した20名に対し、21億ドルの賠償金支払いが確定しています(ミズーリ州セントルイス控訴裁)。その後、集団訴訟が始まり、窮地に立っています。
非常に多数の訴訟を受け、その対応策としてJ&Jは、ベビーパウダー事業を補償目的子会社LTL Management LLCを設立して債務を移管したうえ、その子会社に対して破産保護申請(事実上の補償額の上限設定)を行いました。しかし2021年10月、この子会社の破産保護申請は、裁判所に棄却されています。
記事にあるように、J&Jが破産法裁判所から補償目的子会社の破産を認めてもらい、この問題の金銭解決の確定を得るには、原告の75%から支持を取り付ける必要があります(米連邦破産法11条)。先の棄却は、多数の原告の支持が得られないことが理由です。
そこで2023年4月、J&Jは、
(1) 現在および将来のすべてのタルク請求を解決するために、補償目的子会社は、最大89億ドルの現在価値を25年間にわたって支払う。
(2) 同社として、ベビーパウダーに使用されていた「タルク」に含まれていた物質とのがん発症との因果関係は、引き続き認めない。
という内容の和解案を提示しました。
また、「現時点の賠償額に本社は耐えられるが、増加した場合は本社自体が倒産する危険性がある(倒産すれば和解金は払えない)」と説明し、再度多数原告の支持を求めました。
しかし、それも進展せず、昨年の提示額に21億ドル上乗せし、110億ドル(約1兆7400億円)での一括和解案をあらためて提示しました。記事には数千人の原告とありますが、過去の報道によれば、同社への潜在的な原告の人数は、約6万人(2万6000件を超える件数)とみられるため、今回の条件の和解も簡単ではないと感じます。(セントルイス控訴裁判決の影響が重すぎます)
当時のタルクは、他社、他の化粧品などにも汎用されていたと思われます。石綿発がん説はあっても、すべての症例の因果関係が不明確なまま巨額集団訴訟で争われている点については、巨大企業の事業リスク(補償が青天井)を明示しており、持ち株会社指向が高まる転換点になりそうです。