佐山インタビュー

「ハートのある投資」の原点を聞く

スカイマーク支援の佐山氏。「生ぬるい」批判に答える

2015/2/14
スカイマーク再建に向けスポンサー契約を交わした投資ファンド、インテグラル(東京・千代田区)の佐山展生代表はインタビュー後半で、「ハートのある投資」という自らの投資哲学を語る。そこには自らのサラリーマン人生のスタート初期に経験した工場勤務時代の経験が色濃く反映されているという。民事再生の開始決定は、「野球でいえば、主審がプレーボールを宣言したばかり」という心境を吐露する佐山氏。迎える難題に秘策はあるのか。
前編:スカイマーク支援の佐山氏。「私は高値で売り抜けない」

「ハートのある投資」の原点は工場での現場経験

――佐山さんは「ハートのある投資」という言葉を使うが、それはすなわち、従業員が元気になることを最重要視するという意味ですか。

佐山:「生ぬるいことを言っている場合じゃない」とコメントされたこともあるが、会社を動かすのは、人。その人が動くのはハートが通じたときなんですよ。

――それはどういう経験から来ているのか。

佐山:今までのいろんな経験がベースになっているが、まず大学卒業後に帝人に入って、愛媛の松山の工場で11年間ポリエステルの重合関連業務に従事し、特に最初の3年間は三交替勤務をしたことが原点。22歳で55人の組の長にされ、高校出たてのお兄ちゃんから、父親のような世代の人までいろんな人がいて非常にいい勉強になった。

特に昇給や昇格を決める人事考課会議は、誰かを上げれば誰かが上がらず、必要とはいえ嫌だった。そこでは毎日いろんなことがあり、三交替制で長い時間を共に現場で過ごす人たちの思いを肌で感じることができた。1年後、松山空港を挟んで反対側の比較的新しい工場に転勤になったときは最初の55人と別れるのが辛くて泣いてしまった。

今思い出しても涙腺が緩むが、私の経営に対する考え方の原点は、そんな現場体験にある。

経営に関与する人で一番大事なのは、従業員を大切に思うことだと思っている。従業員を大事にして、従業員が幸せになる会社をつくることが大切。生っちょろいと言われるかもしれないが、やはりハートだと思う。「経営者は自分たちのことを思ってくれている」と従業員が感じることで頑張る力が湧いてくると思う。

NewsPicksのコメント欄にもかつて、「経営権を持つ投資をする人は投資先を愛し、投資先の従業員を愛することが重要」と書いたが、それはこれまで紆余曲折、歩んできたことから学んだ結論である。私はメーカーの製造現場からスタートし、M&Aの世界に飛び込んだが、将来どうなりたいというビジョンがあったわけではなく、ただ、面白そうだと思ったことに突っ込んできただけだ。その途中経過が今である。

――そうした考えの延長に、今回のスカイマークへの取り組み姿勢がある、と。

佐山:繰り返しになるが、もうかるかどうかで判断するなら、今回は突っ込んでいない。2月1日、神戸にスカイマークで行ったが、我々がスポンサーとして手を挙げていなかったら会社がなくなっていたかも知れないんですよ。

しかし、たくさんのお客さんが搭乗され、何事もなかったかのように仕事をされていたのが感慨深かった。神戸の皆さんからも「頑張ってや」と応援の声をいただき、社会的意義の大きさを実感した。

野球にたとえると、今はまだグラウンドに立てた状況。ホームプレートに並んでやっとプレーボールと審判から告げられた状況です。このグラウンドに入るのが大変だった。

私とパートナーの山本礼二郎のどっちが欠けてもここまで来ていないし、ご協力いただいたスカイマークの皆さん、弁護士団や会計士の皆さんの頑張り、何日も羽田で徹夜したインテグラルのメンバーがいなければ絶対ここまで来ることはなかった。その意味でも、何とかスカイマークを社員の皆さんが喜ばれる形に持っていきたい。

行き着くところは、いくらもうかるかではなく、スカイマークの皆さんが良かったという結果を出すこと。良かったというのは社員の皆さんが良いと思うということは、その時点で利益も出ているはずだし、利益が出るということはお客さんもたくさん乗っていただいているということ。

お客さんにとっても良いということは、最終的には会社の価値が上がっていることになる。結果として、我々の投資家である皆さんにもお返しができるということです。もうけたいが一番に来るのではなく、「みんなと一緒になっていい会社をつくりたい」というのが最初にありき、です。
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エアバスとの交渉はどうする?

――今後はエアバスとのA380購入契約見直しに伴う違約金交渉がうまくいかなければ、再建の見通しも厳しいとの見方も少なくない。

佐山:交渉は弁護団中心にやっていて、その内容次第でだいぶ状況は変わってくる。仮に交渉決裂して再生計画ができなければ破産となる。そうなると債権者の分配額はゼロになる。その事態は避けたい。

私も山本礼二郎も法的処理案件をたくさんやってきているので今後の動きはイメージできる。それに航空関係の債権者の皆とは今後も一緒に仕事に携わる関係があり、そこは何とかしたいと思っている。

――5月ぐらいから黒字になるとの見通しだが、楽観的すぎるとの声もある。

佐山:なぜかというと、搭乗率の低いA330も飛ばしていたが、当面それをやめてボーイング737にしているので、それだけでも全然違う。

――飛ばさなくても、A330は維持するだけでお金がかかる。

佐山:民事再生なので過去の債務とは一線を引いている。これからいろいろ提案し誠意を持って交渉したい。

――地方空港のある自治体は、廃止になるのではないかと不安になっている。

佐山:例えば、電気や水道は、それがないと生活できない。もうかるかもうからないに関係なく整備すべき。ただ、エアラインとなると、ある程度利益が出ないと運航できない。

結局は乗る人がおられるかどうかだ。乗る人が少なくて、赤字続きなら維持は難しい。一般論として、もしも、残して欲しいという地域があるなら、乗ってもらうことを一緒に考えてほしい。エアラインはインフラの一部とはいえ、赤字では存続が難しい。存続には、今以上に乗っていただくことが重要だと思う。

――1月29日のスカイマーク側の会見では、井手会長が引き続きJAL、ANAに対抗する「第3極」として再生を図りたいとの旨を強調していた。

佐山:第3極には第3極の良いところがあるが、組み方によっては、スカイマークの人たちやお客さんにとって良いこともあるかもしれないので、「第3極しかやりません」というのは現段階ではない。

スカイマーク自体、スカイマークで働く皆さんが幸せになれるように全力投球したいと思っている。皆さんの応援よろしくお願いします。

(聞き手:佐藤留美、構成:乾健一)