テレビイノベーション

つまらなくなる構造はネットにある

ノイジーマイノリティがTVと世間をつまらなくする

2014/11/10

川上会長の「ノイジーマイノリティ論」

今回の原稿は、ネット上の反発を強く受けるかもしれないが、最近気にかかっている「ノイジーマイノリティ」について書いてみたい。当然、ノイジーな反応が起きるだろうが、サイレントなマジョリティに届くことを期待する。

きっかけは、放送批評懇談会の機関紙「GALAC 12月号」に掲載された、ドワンゴ会長の川上量生さんのロングインタビュー記事だ。この中で、ネットのノイジーマイノリティについて触れている。その部分を引用してみる。

ニコニコ超会議、町会議などリアルのイベントにこだわる理由を尋ねられた川上さんは、以下のように答えている。

川上:「僕がやりたいのは、ニコ動ユーザーの可視化なんです」

(中略)

「コアなユーザーは、リア充みたいな軟弱な人たちはよそ者だ、ニコ動は俺らのものなんだと思ってた。普通の人がアクセスすることに拒否反応を持ってたんです。僕らはサーバーのアクセス状況から、実は彼らのほうが少数派だと知っていたんですが、彼らは自分たちを少数派だと思ってないんですよ」

(中略)

「超会議なんかやったって誰も来ないって言ってたわけですよ。そんなの絶対失敗するって。ところが大量の人が来たわけで、一部のユーザーにはすごいショックな事件だった(笑)」

──なるほど。たしかにウェブだけを見ていると、どれが多数派なのか…。

川上:「わからないんです。声の大きい人が多数派に見える」

(中略)

「荒らしって本当は少ないんです。しかもノイジーマイノリティって自分自身も騙されていて、自分自身が少数派だっていうことに気づいてないんですよ(笑)」

リア充を憎む「ネット原住民」

ニコニコ動画では時々、罵詈雑言、誹謗中傷のコメントが飛び交う。画面を見て反発が多いと思いがちだが、指定した人の字幕を全て表示しないという設定を行い、数人のコメントを消すと、荒れていた画面がとても平和になる。つまりひどいコメントを書き込む人は、実は少ない。少数の人が悪態の限りを尽くしたコメントを数多く書き込んでいるので、批判が多いと錯覚してしまうのだ。

これは何もニコニコ動画に限ったことではない。巨大掲示板の2ちゃんねるや、Twitterなどで起きる炎上事件も同様だという。川上さんは最近の著書「ネットが生んだ文化」(KADOKAWA刊)で次のように書いている。

川上:「炎上は基本的にヒマなネット原住民がごく少数いれば起こせるのだ。2ちゃんねるの管理人を長く務めていた西村博之氏によると、『2ちゃんねる上でのほとんどの炎上事件の実行犯は5人以内であり、たったひとりしかいない場合も珍しくない』らしい」

川上さんが言う「ネット原住民」とは、簡単に言えば現実社会に居場所がなく、居場所を求めてネットに移住してきた人たちのことだ。

多くの企業が恐れる炎上の正体とは、こういうものだ。特にテレビは、あらゆるメディアで最も強力なリーチ力を持っている。つまり、一度に膨大な数の人が見るため、何か炎上のネタはないかと探している「ネット原住民」のアンテナに引っかかりやすく、ネタが見つかると盛大に騒ぎ立てられる。

さらに川上さんによると、「ネット原住民」はリア充を憎んでいるという。テレビ局員はリア充の典型のようなものなので、なおさら憎悪は強化される。最初は小さなきっかけでも、「ネット原住民」による書き込みのキャッチボールで炎上の炎はどんどん大きくなる。

その典型が、2011年に起きたフジテレビへの抗議デモだ。きっかけは一人の男優のTwitterへの書き込みだった。これを元に炎上騒ぎが起き、局への抗議だけでなく、スポンサー企業に対しても抗議のメールや電話が寄せられ、不買運動が起き、BPOに「通報」された。

炎上を煽るのは、ネット民だけではない。Webメディアや雑誌などの紙媒体も、テレビをディスることに関しては熱心だ。

テレビにとっては、環境は厳しくなるばかりと言える。番組制作者は、抗議を受けそうな表現や演出を避けるようになり、無難な番組作りをするようになる。当然、番組はつまらなくなる。そして、テレビはつまらなくなったと、またディスられる。

笑いが生まれるメカニズム

そもそも「笑い」とは、非日常の中で発生する。普通ではあり得ないようなことをやるから、笑いが発生するのだ。例えば、「8時だョ!全員集合」でのスイカのコント。放り投げられたスイカを受け止め損なって落として割ってしまう。スイカの割れ方が絵的に派手で、あまりの事に呆気にとられ思わず笑ってしまうという、視聴者の意表をついた笑いだ。

今、このコントをやったら即、炎上だ。「食べ物を粗末にするな」、「子どもが真似をしたらどう責任をとるんですか」、「スイカを作っている農家の人に謝ってください」などの抗議が殺到するだろう。

フジテレビの「めちゃ²イケてるッ!」では、アイドルの女の子の足を抱えてブンブン振り回して投げ飛ばしたり、格好いい男性アイドルが罰ゲームのおしくらまんじゅうでつぶされたり、激しく突き飛ばされたりする。いつも可愛らしく、格好よくみせているアイドルが、格好悪い状況に陥ることの落差が、笑いにつながるのだ。これらもネットで炎上し、BPOに「通報」され、つぶれてしまった。

間違ってはいけないのは、いじめられている(ように見える)ことから笑いが発生するのではなく、日常や常識から思いっきりかけ離れた、「非」日常的、「非」常識的な状況から笑いが発生するのだ。だからこそ、そこには危険が潜む。文句をつけようと思えば、いくらでもできるからだ。「子どもが真似していじめにつながったらどう責任をとるんですか」という抗議は必ずくる。昔から面白い番組はPTAから「子どもに見せたくない番組」にランクインしていた。

では、昔はクレームが来ても大丈夫だったのに、なぜ今はダメになったのか。それは、インターネットの影響が極めて大きいと言わざるを得ない。

次回の原稿では、「どうすればノイジーマイノリティの影響から自由になり、テレビを面白くできるか」について考えてみたい。

※次回の原稿は、11月13日(木)に掲載する予定です。

※本連載は、毎週月曜日に掲載する予定です(変則的に、月曜日・木曜日の週2回掲載する週もあります)