InterviewTECH_村田マリ

海外にいるから出来る、執行役員と子育ての両立

村田マリがシンガポールに移住した理由とは?

今年10月、自身が創業した、住まいやインテリアに特化したキュレーションメディアiemoをディー・エヌ・エーに売却。これに伴い、ディー・エヌ・エーの執行役員に就任した村田マリ氏。実は、彼女はシンガポールに住んで2年になる。よって、社長を務めるiemoは基本的にリモートマネジメントすると言う。
しかし、彼女はなぜ、そもそも日本にいることより海外移住を選択したのか? その本音を探る。
第1回 私が、DeNAに「iemo」を売った理由
第2回 今週、一番ホットな起業家が語る「次に来るメディア」

移住の目的は子どもを中国語・英語ネイティブにするため

――村田さんが、シンガポールに移住して2年になります。そもそも、なぜシンガポール移住を決断したのですか?

それは、子どもを中国語・英語ネイティブにしたいからですよ。それで、移住したの。

――日本での教育に不満があるのですか?

それはありますよ。日本の学校では、詰め込み型で、人に自分の考えを伝える方法とか、リーダーシップの取り方を教えないでしょ。

あとは、多様性ですね。日本の学校に子どもを入れても、自分と同じような境遇の似たような人と仲良くなるだけ。

ところが、こちらでは言語も民族も違う人と仲良くせざるを得ないじゃないですか。私は、息子を、肌が何色の人だろうが、おでこに赤いスポットがついている人だろうが当たり前に普通に接し、外見や肩書きで人をジャッジしない人間になって欲しいんです。

――それで、お子さんにはどう成長して欲しいんですか?

起業家になるしかないでしょ(笑)だって、投資家と女性起業家の息子ですよ。酒造業を営む家庭の息子が、「お前は14代目の跡継ぎだ」と言われるのと同じ。断る権利なんてない!

ま、それは冗談にしても、子どもってリアリティがあることを信用して選択していくんで、たぶん、放っておいても起業家になると思うんですよ。だから私は、彼が10歳になったら起業させようと思ってる。

――10歳で、ですか?

全然、出来ると思います。アプリを作る10歳なんて、いっぱいいるし。

シンガポールには待機児童もベビーカー論争も存在しない

――移住した時は、旦那さん(投資家の本間真彦氏)は、日本に置いていかれたのですか?

最初はね。でも、彼はすぐに、日本の仕事を遠隔でもできるように骨を折ってくれて。だから、今は私も彼も日本とシンガポールを行ったり来たりする状態です。

――村田さんと旦那さんが出張の間、お子さんの面倒は誰が見ているのですか?

それがね、最近、住み込みのメイドを雇ったんです。でも、その前までは大変でしたよ。

だって私、息子の世話をして貰うために、日本からしょっちゅう、両親を呼んでいましたから。鬼ですよね? 「航空券取ったから、来て」って言って深夜便で来させて。そうやって、仕事と子育てを両立してきたんです。

大変でしたよ。でも、多分というか絶対、日本にいるよりシンガポールにいるほうが、両立しやすい。

――それは、なぜですか?

まず、日本にいると通勤時間とか無駄な時間をたくさんとられる。その点、シンガポールはコンパクトだし、電話やビデオ会議をすれば、会議室に行く時間も節約できるじゃない。
それに、メイドもナニー(育児係)も調達しやすいし。

――人材が豊富で人件費もかからないということですか?

そう。ある程度のシンガポールの物件には、必ずメイド部屋がついています。それがデフォ(デフォルト)。共働きが当たり前の文化ですからね。

しかも、住み込みメイドのお給料は月々550シンガポールドルくらい。つまり、5万円くらいですね。もっとも、政府に毎月2万円~3万円くらいメイドタックスを払うのと、メイドの医療費と食費は出してあげるのがルールですけど。それを合わせても、せいぜい10万円ほどです。

――日本とは大分、事情が違いますね。

私の知り合いの女性起業家なんて、日本でフルにベビーシッターを頼んだら、月60万円は超えたって言ってましたよ。

それじゃあ、なんのために働いているのか分からないじゃない。
ところが、シンガポールでは、たとえば、どこそこの社長が来るから急遽会食が入ったなんて時でも、すぐに人材が調達できてしまう。

もっとも、私みたいに住み込みのメイドを雇ってしまえば、たとえ新生児がいる家庭でも、夜中のミルクやりは全部ナニーの担当ですからね。お母さんは何もしなくていい。こういうインフラが、シンガポールでは当たり前のようにあるんです。

今日だって、私は旦那と息子とメイドをシンガポールに置いてきていますが、さっき「大丈夫?」って連絡したら、フィリピン人のメイドが今日は「肉じゃが」を作って息子と食べましたって言ってましたし。英語のレシピも渡してないのに、凄く優秀でしょ?

それにね、シンガポールでは、子どもと外食もしやすいの。どんな高級レストランだって、子連れで入れます。

――8歳以下の子どもお断りなんて、ありえないと。

そうです。むしろ、高級店で子どもがぐずりだすと、お店のスタッフが飛んできて、水槽とかに連れて行ってあやしてくれますからね。片や日本では、未だに「ベビーカー論争」なんてあるんでしょう。

――ええ。ベビーカーは邪魔だと平気で発言する人もザラにいますよね。

海外でそんな国はありませんよ。だって、私がベビーカーで外に出て、2段くらいしかない階段を前に、どうしようかな、もうガンガンって下しちゃおうかなって立っているだけで、男の子が5人くらい走ってきますからね。 Do you need a hand? ってね。

アジア人もインド人もヨーロッパ人も飛んできます。「いえ、大丈夫です」って言ったとしても、「いや、これはオレたちの仕事だから」って言ってベビーカーを抱えておろしてくれます。たった、2段しかないのに(笑)。それが普通の感覚だし、子どもがグズつくとみんなであやすのが当たり前なの。

――待機児童問題などの行政側の問題もない?

待機なんてありえませんよ。しかも、朝7時から夜7時まで子どもの面倒を見てくれます。頼めば、昼ご飯も、晩ご飯も食べさせてくれるし、お風呂も入れてくれます。ウチの息子も、毎日、お昼にシャワー浴びているので、いい匂いをして帰ってきますよ。

――母親が仕事がしやすい環境が完璧に整っているのですね。

日本では、両立は無理でした。実はそれも、私が最初に起業したコントロールプラスのソーシャルゲーム事業をgumiに売った理由の一つですから。

起業1社目を売った理由は両立できなかったから

――日本では仕事と子育ての両立が出来ずに、事業を手放すしかなかったと。

無理ですよ。日本ではいつも走ってました。子どもの保育園のお迎えに間に合わない、社内ソーシャルゲームのイベントにでられない、って。そして、みんなにゴメンね、ゴメンねって。

バスに飛び乗っても、また子どもがフエフエ泣き始めて、周囲に「チッ」とか舌打ちされて。仕方がないから、3つ前の停留所でおりて、寒空の下、子どもをあやしながら帰るなんてしょっちゅう。こっちにきて、そういうストレスからは開放されましたね。

――それが、シンガポールに移住してからは、両立がしやすくなり、事業のアイディアも次々に浮かぶというわけですか?

ええ。私はゼロイチ(ゼロから事業を立ち上げること)をずっとやってきた人間。正直私、あと何回でもゼロイチなら出来ると思う。前々回のインタビューでも話しましたが、私は7〜8人の従業員が食べていける状況はテクニカルに作れるんですよ。私は泥水を飲んできた女。PCの横で布団敷いて寝た女ですからね。

でも、今、私がディー・エヌ・エーの執行役員になったのは、もっと世の中に大きなインパクトを与える事業がやりたいという私の気持ちと、今やエリート集団となったディー・エヌ・エーに刺激を与える意義があるから。つまり、私は「雑草要員」。“泥水パート”を期待されている。そんなお互いの利害が一致したから、今回の人事があったのだと思う。

そして、今は、シンガポールからのリモートマネジメントで、いかにiemoとディー・エヌ・エーを成長させていくかしか考えていません。この新たな挑戦と新しい働き方へのトライに、ワクワクですね。