InterviewTECH_村田マリ

ポスト「キュレーション、バイラル」は?

今週、一番ホットな起業家が語る「次に来るメディア」

2014/10/3
ディー・エヌ・エーは10月1日、住まいやインテリアに特化したキュレーションメディア「iemo」を運営するiemoと、女性向けのファッション・キュレーションメディア「MERY」を展開するペロリを買収。両社の株式を総額約50億円で100%取得し、完全子会社化すると発表した。
これに伴い、iemo代表取締役の村田マリ氏はディー・エヌ・エーの執行役員に就任、引き続きiemoの運営を続ける。さらに、ディー・エヌ・エーは村田氏らのリードにより、新たなキュレーション・プラットフォーム事業を運営していく計画もあると言う。なぜ、今、キュレーションやバイラルメディアは買収で高値が付くほど評価が高いのか?渦中の村田マリ氏を直撃した。
前編:私が、DeNAに「iemo」を売った理由

1年前から読んでいた、バイラルメディアの行方

村田:ちょっと怖い話なんですけど、実は私、iemoの社員に去年の年末に創業したばかりの時期から、「来年の9月に、ウチの会社は買収されます」って言い切っていたんです。だから、社員は言っていますよ。「マリさん怖い!占い師みたい」だって。

――その確信は一体どこから? 根拠はあったんですか?

そもそも私は1年半前から、今後はバイラル、キュレーションメディアが台頭する、時代を席巻すると確信していたんです。それで、社員にこう言っていたんです。「2014年の夏頃、 バイラル、キュレーションは人気化して、レッドオーシャンになります。だから、その分野でトップを取っていないメディアは死にます」って。本当に、その通りになったと思いません?で、私は、今年の冬以降に、またちょっとコンテンツのトレンドが変わると思うんですよ。

――それは、どういう風にですか?

それは言えませんよ。絶対に言えない! だって、みんな真似するもん(笑)。でも、iemoを見てもらえれば、その“傾向”に気づくと思いますよ。そこに向かったコンテンツを用意していくので。

――では、他のキュレーションメディアも、村田さんが言う“変化”を見据えていると思いますか?

思いません。たぶん、誰も分かってない。この1年で、「この人たち分かってるわ〜」と思ったメディアは「MERY」だけですもん。他のバイラル、キュレーションは、現状、読み物に留まっちゃっているので、“表面”しかない。“背骨”が存在しない。

たぶん、今後残るキュレーション、バイラルメディアは2つか3つじゃないかな。皆が我々みたいにメディアに背骨を通さなきゃダメだなと学習して、ちゃんと作れば別ですけど。今のままなら、あらかた消滅すると思う。だって、魂を感じないですもん。

――村田さんが言う、メディアに必要な“背骨”とは何ですか? ユーザーが共感を感じやすい仕組みや構造といった意味ですか?

そこはポイントです。絶対。ですから、ウチはコンテンツに対して、この記事はユーザーの共感を得ているかを判断するKPIも持っています。それに、データを解析すれば、どのコンテンツがユーザーの心を捉え、滞留時間が伸びたかなんて、すぐに分かりますしね。

――逆に、ユーザーの共感を呼ばないバイラル、キュレーションは……

何度も言うように、死にます(笑)。で、共感を呼べない人たちはどうするかというと、他で当たっているバイラルをコピーするんですよ。なので、クローンが無茶苦茶できる。

今後は、ユーザーの共感を呼ぶオリジナルなコンテンツが作れるキュレーションがスケールする一方で、ユーザーが感じる“心地いい状態”をサイエンスできないメディアは、単なる掲示板のまとめサイトみたくなっていくでしょうね。でもね、そんな掲示板のまとめ状態のバイラルサイトも、そこそこは儲かると思いますよ。

――儲かる? なぜですか?

だって、他のメディアからのパクりでも、そこそこトラフィックを張っとけば、人がたくさんそこに来るから。それで、中身が面白ければ、シェアされるし。それにこうしたメディアって、ユーザーが継続的にそこに来る常連ではないじゃないですか。

従業員2人でブチブチ回して面白い?

――いちげんさんばっかり訪れる、と。

そう。そういう場合、かえってアドセンスが儲かりやすい。同じ人ではなく、新しい人が次々にくるから。月々、200万円〜300万円は儲かると思いますよ。だから、従業員2人とか3人でブチブチ回すことはできると思います(笑)。

でも私は、「そんな会社意味あんの?」「なんか、社会に還元してんの?」って思っちゃう。だって、アフィリエイトサイトみたいなものじゃないですか。

――では、今後、キュレーションメディアは、どういう方向を目指せばいいですか?

一つあるのが、「編集長を置くべきか」っていう議論ですよね。私は、「置くべき派」。NewsPicksに、東洋経済オンラインから佐々木紀彦編集長が入ったように。「旅ラボ」がジャーナリストの佐々木俊尚さんを呼んできたように。ユーザーが「ああ、このメディアはこれから、こういうものを発信するんだな」というイメージが持てるコアとなる人がいるかどうかが、まず大事だと思う。

――村田さんが運営するiemoにも、編集長がいるのですよね。

はい。元オールアバウトの徳島久輝という編集長がいます。彼の存在はiemoには欠かせないドライブですね。

逆に編集長がいなくて、部署内でなんとなくキュレーションしているメディアはね…テイストがバラバラの記事が混在するだけで、意味がない。ユーザーは、見えちゃうんですよ。記事を見ただけで、感じ取れちゃうの。書いている人の温度感とかね。やっぱり、私は、メディアはその方向性を決める核となる編集長やキュレーターがいないとダメだと思う。

――村田さんが、バイラル、キュレーションメディアの次に注目するサービスとは何でしょうか?

バーティカルメディア(※特定の領域に専門特化したメディア)が来るのは、一つ間違いないと思います。それは、確信に近いですね。

なぜって、専門に特化した情報って、やっぱり深くって、ちゃんと面白いんですよ。だからこそ、今まで業界新聞とか業界誌があったわけで。しかも、今、いろんな産業のパラダイムシフトが起きている最中ですし。UIとUXを解決できれば、人がたくさんそこに来るのは間違いないですね。

ビジネスとして成立する決め手は、広告のあり方と、プラットフォーム内での成約マージンの取り方かな。

――ところで、村田さんは、2年前にシンガポールに移住しましたが、「外側から見た日本のネットサービス」は村田さんの目にどう移りますか?

日本のマーケットは、旨味がありすぎですね(笑)。日本のネットサービスのガラパゴスな状況は、無茶苦茶ビジネスしやすい。

まず、客単価が高い。みんな無茶苦茶、金払う。だから、ARPU(ユーザー当たりの月間平均収入)が滅法高い。東南アジアに行けば分かりますよ、みんな、そんなにお金を払えないって。

その上、スマホ人口が多いし、日本人は無茶苦茶スマホを使います。特に大都市の人はね。なぜなら、移動時間が長いから。

さらに言うと、日本のマーケットには、あまり外資が入ってこない。日本語の壁があるのもその理由だけど、彼らは日本のガラパゴス加減に付いてこられないんですね。だから、日本をスキップして中国に行く。

そう考えると、日本市場は強敵がいない中で、プレーヤー数も限られている。適切なサービスをきちんと出せば、事業になりえるところだなと、外に出て改めて分かりましたね。

――では、iemoの黒字化なんて楽勝という感じですか?

私ね、黒字出すのは、得意なの。実際、iemoも買収される直前は単月黒が出てたし。黒字化はね、やろうと思えば従業員8人くらいの規模の会社なら力技でどうにかなるの。だって、起業も2度目だしね。1回目は、運転するたびにいちいち蛇行してたけど、2度目は楽勝。片手で運転できますって感じ。でも、従業員20人以上とか、社会的にインパクトを与える事業をやるとなると話は別。だから、これからが私の初挑戦領域。正念場ですね。