設立8年で顧客数世界一に。南米発デジタル銀行が起こした「革命」
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「ブラジルの銀行はクソだ。これまでもそうだったし、これからもそうだ」。
銀行員としては耳の痛い言葉ですが、FinTech、ネオバンクの走りとしてアメリカで2012年にスタートした “Simple”も、創業者が預金を預けていた銀行で “ムカついた”体験をしたことから作られた“ムカつかない銀行サービス”というコンセプトが売りでした。
寡占市場では、競争関係が働きにくいのでサービスの質(様々な手数料や人の接客を含め)が低下 or 均一になりがちなところを突くこうしたアプローチが有効だという一つの結果ですが、先のSimpleはスペインのBBVAに買収された後、今年になってサービス閉鎖の発表も。スタートアップを中心に広がったFinTechブームも、いつしか既存の銀行がその流れを自らが吸収して進化するフェーズに移りつつあるという動きも出てきています。
世のユーザーに支持されるかどうかは、既存銀行の変革のスピードにかかっていますね。今や世界的に名が知れ渡ったNubankをはじめ、ここブラジルではBanco Inter, Neon, C6 Bank, Original, BS2, PagBankなど相当数のネットバンクがここ数年で開業しました。ユーザー数はNubankが3500万人と抜き出ていますが、合計で4400万人に達していると言われています。
本文にもあるように、まさにクソだったブラジルの銀行業界に風穴を開けてくれたのがNubankであることに間違いありません。今までクレジットカードや口座を開けなかった人々にとっても、それまでメガバンクをメインバンクとしていたけれど対応の悪さや手続きの遅さで不満だらけだった人々にとってまさに救いの星でした。Nubankは鮮やかな紫色の銀行カードが目印なのですが、私の周りでも8割はあの紫色のカードを持っています。
今までふんぞり返って大したイノベーションを起こしてこなかった大手銀行も、さすがに近年のネットバンクの台頭でサービスを増やしたり、手続きの簡素化を図るなど、既存顧客の囲い込みに走っている感じがしますが、どこまで違いを見せられるか注視したいところです。
それにしても「そんな銀行をつくれば殺される、子どもが誘拐されると警告された」という文章がありますが、こういう比喩表現はブラジルではよく言われることで、私も言われたことありますし、特別なことではありません。なのでここの部分だけフィーチャーして「ブラジル=危険」というステレオタイプで判断して頂かないようにお願いします。こういう「革命」が世界の中進国のあちこちでみられますよね。今後、それら国がこうした革命を推進したいのか、それとも既得権益者に配慮してハードルを高くしたいのかによってスタートアップの出現の数や質に違いが出てくるかと思います。
ブラジルの場合、この記事に書いてあるような危険なイメージと真逆で、スタートアップのボトルネック解消のために、政府に加え、保険庁や中銀なども含めて規制緩和に非常に積極的です。
規制緩和を進めるためのサンドボックス制度も導入されているし、来る8月31日施行予定のスタートアップ法により、これまで出資者が債権者に対し無限責任を負う場合もあった(注)などのリスクも解消され、エンジェル投資家が出資しやすくなります。
(注)法人格の種類により責任の範囲が異なる。
大銀行は法人向け、デジタルバンクは低所得者から中間層向けという感じのデマケが出てくるのか分かりませんが、法人向けに出資できるスタートアップも誕生済み( https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/07/4153b9e91d913435.html ) で今後、どういう企業が出てくるのだろうと楽しみです。
ちなみに記事にあるようにブラジルの大銀行がほんとうに「胡坐をかいていた」のは1990年代中ごろまで。何もしなくても高インフレで儲かりましたから・・・。その後は政府が銀行間の競争を促進すべく、合併促進のための施策を次々に打ち出したりしています。
(記事に書いてある外資規制もミスリードしやすいのでコメントしておきます。外資規制は東南アジアなどより緩いと思います。外国居住者が金融機関作ることもできます。ただし認可は必要です)
すでに海外金融機関によるブラジルの国内銀行の買収は2000年前半位まで続き、その後は体力をつけたブラジルの銀行が海外銀行のブラジル拠点を買収し返すような動きも出るなど、ブラジルの金融業界は、日本でみるよりはるかにダイナミックな変化を遂げてきています。