日本の「うつ」 コロナ後は8年前の2倍以上に
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この記事は「うつ病」の有病率を指しているように誤解を与える恐れがありますが、こころとからだの質問票(PHQ-9)のスコアが10点以上であった人の割合を指しています。
この質問票のスコアが高いほど「うつ症状」が強いと回答したことを意味しますが、PHQ-9はプライマリーケア領域でのうつ症状のスクリーニングには有効である一方、うつ病の診断には有効ではありません。PHQ-9スコア10点以上によるうつ病有病率は過大評価されていると報告する論文もあります。
「うつ症状」はうつ病だけなく、それ以外の様々な原因・背景で生じます。時にはストレスに対する正常範囲内の反応であることもあるので、「うつ症状=うつ病」と早合点しないことが重要です。一方で、うつ症状を自覚した場合は治療・介入の必要があるかどうか気軽にメンタルヘルスの専門家に相談できるような環境・制度の整備が重要と思います。
記事のデータの元となった原著を調べてみると、2013年と2020年ではサンプル数もサンプル抽出方法も異なるため、両者を一概に比較することはできませんが、コロナ禍のような未曾有の事態では多くの人が強いストレスを感じ、うつ症状を自覚する人が増えるのは当然のことです。
引用されたOECDの報告:https://www.oecd.org/coronavirus/policy-responses/tackling-the-mental-health-impact-of-the-covid-19-crisis-an-integrated-whole-of-society-response-0ccafa0b/
日本のデータの原著はこちら
2013年:https://bmcpublichealth.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12889-018-6327-3
2020年
https://www.researchgate.net/publication/340966793_Mental_Health_Status_of_the_General_Population_during_the_COVID-19_Pandemic_A_Cross-_Sectional_National_Survey_in_Japanうつには、いろいろな影響が考えられます。二つ大きそうに思うのは、このコロナによる経済や失業などの状況が影響を与える部分と、リモートワークなどによって、対面コミュニケーションが制約されたことです。
我々は、職場でのコミュニケーションと幸せ/不幸せ(→うつにつながる)との関係を大量のデータで調べてきました(詳しくは、最近の拙著『予測不能の時代』に書きました)。
その結果、コミュニケーションの量は、不幸せ(=うつ)とは関係ないことがわかりました。
一方で、コミュニケーションの形態や質が大きな影響を持つことが明確になりました。職場のつながりの構造が特定に人に偏らないこと(F=Flat)、5分や10分の短い会話が頻度よく行われていること(I=Improvised)、うなずきなどの非言語の表現が豊かなこと(N=Non-verbal)、会議での発言権が平等なこと(E=Equal)、合わせてFINEが、幸せ/不幸せに直結することを明らかにしました。
これらFINEなコミュニケーションは、意識しないとリモートワークでいずれも低下する要因ばかりです。従って、よほど意識しないと、うつ傾向が強まると想定していました。
この記事で紹介されているデータの前提は、よくわかりません。しかし、この状況変化の中で、注意すべきことは、このFINEなコミュニケーションができているかです。
実は、FINEのいずれの要素も、意識して高めようとすれば高められるものばかりです。我々の工夫にかかっているのです。うつ症状の増加や自殺に関して、端的に外出自粛要請との関連を指摘する声をよく目にしますが、実際にはうつ症状は複合的な要素に起因するのが普通だと思います。
コロナウイルス関連の要因ひとつとっても、政策の影響だけでなく、感染流行自体がもたらす不安やストレス、感染者への偏見などがもたらす心理的ストレス、感染自体に起因した症状ないし後遺症としてのうつなどの側面も考えられます。