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『ポスト・マハティール政権のマレーシア――政治と経済はどう変わったか――』(2018年、アジア経済研究所)所収の「第8章 マレーシア企業の多国籍化――途上国のサービス産業の海外展開――」
https://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Books/Jpn_Books/Sousho/634.html
本来は先進国が強いはずのサービス産業において、マレーシア企業が多国籍化に成功した事例を取り上げました。途上国企業でも多国籍化は起こっていましたが、ブラジルのペトロブラスのような「資源探索型」ばかりでした(マレーシアのペトロナスおよび関連会社も同様)。
しかし、医療という、いかにも先進国が強いはずの分野でマレーシアのIHHヘルスケアは病院経営分野の公開企業では時価総額トップ3クラスに入っています。その一端を三井物産による投資が担いました。トルコ(周辺国からの患者も来る)やインドといった新興国への水平投資をした事例です。他には、本来、規制産業で新興企業が横展開をしにくい航空サービス分野でのエアアジアをとりあげました。本論文は一部機関の方を除き、まだ無料ダウンロードがでず高価な本ですが、大学図書館や大きめの公共図書館などには書籍が入っていますので、ぜひ、ご覧ください。
先進国を念頭に置いた多国籍企業論の専門書や論文のフレームワークを新興国向けに修正し、アジア経済研究所の厳しい査読をクリアするのは非常に骨が折れましたが、過去に書いた論文では一番の力作です。専門論文ですが、できるだけ一般のビジネスパーソンにも読んでもらえるよう、丁寧に書いたつもりです。
また、NewsPicksではそのダイジェスト的な感じですが、下記の記事を出しています。
「三井物産も出資するマレーシア生まれの巨大病院ビジネス」
https://newspicks.com/news/1405036
また、スポンサード記事ですが事業概要が分かるものとして下記。
「2200億円の大型投資。ヘルスケアに賭ける三井物産の本気度」
https://newspicks.com/news/3966945
商社が日本の病院に投資した場合、開設が認められなくなる恐れがあり、実質的に投資が行えない状態にあります。日本の医療法では、「医療施設を開設しようとするときは、開設地の都道府県知事の許可を得なければならならず、営利目的の場合は許可を与えない」との定めがあることが根拠です。また、「開設できるのは営利を目的としない法人または医師個人」と決められています。福利厚生施設としての病院の開設などの特殊な事例を除いては、営利企業が病院に参入できる可能性はまずありません。
海外には、営利企業が病院を出資・開設できる国が多くあります。この領域は、将来の市場の拡大が見込め、景気の動向にも左右されにくいため、日本の総合商社などの企業が注目しています。
日本の医療技術は、国際的に高く評価されています。これを認識している外国の病院が日本の病院と提携し、患者を日本に送り自由診療の機会をつくる方法で、日本への「医療ツーリズム」が実施されているケースがあります。この動きに対して、国民皆保険を基本とする診療(格差のない医療)を支持する医師会は反対していますが、このケースでは、日本でも例外的に営利事業としての「診療」が行われています。商社としては、海外の病院に投資し、富裕層の送り出し側の機能を担うことも計画しているのではないでしょうか。
日本は、公的医療制度「国民皆保険」の恩恵により、外国で普通の「自由診療」が発展していません。営利企業の医療参入により、所得格差を医療に持ち込む弊害が指摘される一方で、富裕層に対する高度なサービスの実現には効果的で、日本の現状は、この点において、東南アジア主要国と比べて大きく出遅れていることが指摘されています。
英文記事によるとまだ初期段階で実現に至るかどうかはわからないようです。
「Discussions are still in the early stages and there is no certainty that Mitsui would proceed with an offer, said the people 」
「Mitsui Weighs Buyout of $11 Billion IHH Healthcare」(Bloomberg)
https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-05-06/mitsui-is-said-to-weigh-buyout-of-11-billion-ihh-healthcare