導入の議論スタート SPACは日本に必要か
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SPACの上場を許容することと、SPAC上場後に未上場のターゲット企業を買収(合併)することで事実上未上場会社が上場会社となること、この2点は切り分けて考えるべきで、この2点が混同された議論が多い気がしています。
SPACの上場について個人的に違和感しかないものの
1つだけ論点を加えさせていただくとすると売上高0円のバイオベンチャーの上場との比較についてです。
何を言っているかというと、売上高0円のバイオベンチャーが上場する事例はUSはもちろん日本でも複数あるのですが、
事業活動を実施しているもののその活動を通じてこれまでお客さんから対価を得ていないバイオベンチャーと事業活動を行っていないSPACでは、「事業活動を通じて顧客価値を提供した実績がない」という点と、
将来にわたっては事業活動を通じてお客さんに価値を届けて企業価値を高めて行こうという計画がある点においてはバイオベンチャーもSPACも共通しているため、
この点の整合性は議論を深めるべきかと思います。
「バイオベンチャーは実態があり、SPACは実態がないので、比較の対象として成立しない」とご批判はありそうですが、
その実態が経済価値に転換されたのかどうか、経済価値に転換しようと計画をもって取り組んでいる(取り組もうとしている)という点を踏まえると、
あくまでも投資家の「利益」保護という点に立った時に実態の有無は違いを生まないのではないかというのが個人的な意見です。
以上より、よく耳にする「特殊な金融スキームでの上場はけしからん」という感情論や「日本における株主保護の基礎的な前提は米国とは違う」という抽象論で日本におけるSPACを退けるのは少し浅い議論な気がします。
他方で、このSPACの議論の前提にあるのは、期限がある資金を運用しているベンチャーキャピタルの投資の回収を図るという側面があるのも否めないと思います。
それであれば、投資事業有限責任組合法に基づくファンドの期限の延長を正面から議論するべきで、出口のスキームを未上場投資家の利益のためにこねくり回すというのは本質的には違うとも思っています。
注目のコメント
SPACについて、米国の状況をメリデメ両面で記載して、また上場環境の違い踏まえて日本も記載している。
トップ画像の「ディープテック」と併せて、記事でも取材されているWiL久保田さんの『SPAC上場は、宇宙やバイオなどディープテックが多い傾向。通常のIPOだと厳しく規制されるforward lookingな事象も、SPACなら自由に伝えられるから、と推察。CFは出にくいが、世界観を語ることで時価総額を作れる』というTweetが、SPAC関連では印象に残っている。本記事で久保田さんが述べられている民主化の側面もあれば、それは民主化された結果責任を発行体も投資家も負うこと。
https://twitter.com/kubotamas/status/1367641901113827328?s=20
そのなかで下記はCrunchbaseの「なんでSPACの買収対象はEVが多いの」という記事で、上記の文脈だと思う。
https://newspicks.com/news/5754469
記事にあるように技術のお墨付きとして、SPAC側に専門家がいることも多い。また大企業が投資していることもあるが、投資時点ではSPAC上場するか決まっていない中で、信頼できまっせと利用されていると思うケースもある。トラックレコードが良い方が経営陣にいる一方で、上場資料を見ると微妙で、残念に思うことも多い。
少なくともこれまではSPAC側は上場するとかなりのリターンが出る構造で、一方でそこから1年保有するとマイナスリターンというのが下記記事にあった(ちょっと訳に自信はないが…下記でのコメントを見ていただきたい)。それが焼き畑農法的なインセンティブを増強している。
https://newspicks.com/news/5751917
<追記>Mizuuchiさんのコメントが考えさせられる(有難うございます!)。Grabのように実態があり投資家が3年コミットする場合もあれば、既に詐欺問題になっている企業もある。一緒くたに議論はできないが、売上がなかったりほぼゼロでも未来はバラ色と主張する企業とバイオベンチャーの違いは、パイプラインだと思う。
バイオベンチャーは経済価値転換はまだでも、大手とのパイプライン契約など成功すれば転換する契約が存在する場合が多いと思い、それも見て投資家が判断する。<追記終>コメントさせていただきました!伝えたかった点は
- 「SPACは悪である」という先入観あるが、米国では業界専門家やプロ経営者など成長を加速できるSPACも多い
- スキームには良き点も多く、ロングオンリーの優良投資家がPIPEに参加してきており、発行体主導で株主層を構築できる
- 課題は将来業績見通しの開示が許されており、楽観的な数字が示されがちなこと。EV企業4社のSPACはどれも売上ゼロだが、巨大な市場規模と未来の成長期待で、株価がついた。ここは規制の手当てがされると思う
- 日本導入の成否はこのプロ人材層の厚みが一つのポイント。むしろPEファンドのバイアウトの代替として、高成長スタートアップではなく事業カーブアウトなどにフィットするかもしれない
- 日本でスタートアップの場合は、ただでさえゆるい上場基準を迂回したとして悪いイメージがつくリスクあり。今やZoomで世界中の投資家と会えるため、「日本にリスクキャピタルが少ない」は通用しない時代に
- 米国ではSPACの質もスキームも急速に進化しており、今後も手段としては残り続ける(と思う)スタートアップにとっても選択肢が多い方が良い昨年以降、米国IPOで大きなブームになっているSPAC上場。
最近では各国市場で急ピッチの導入検討が進んでおり、それに遅れて日本でも検討がされはじめているようです。
改めて、SPAC上場のフロー、既に顕在化している課題などについてまとめました。
T.Rowe Priceシガネールさん、WiL久保田さん、Plug and Play小林さん、グロース・キャピタル嶺井さんにもコメントをいただきました。
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個人的に思うことは以下
マザーズ市場ではエクイティファイナンスでの希薄化や赤字ということが嫌われることで、成長投資をすることが難しく、目先の黒字化が求められています。
また、M&Aをした場合の減損なども嫌われる上、一回のM&Aの失敗でも大きく叩かれます。現時点で海外企業の上場を取り込めていない上、そのような状況を解決する以前にSPAC上場の是非について「答えを出そうとする」ことは少しズレている印象です。
成長戦略会議の主要テーマがSPACになっていますが、ぜひ上場後の成長に何が必要かということにフォーカスを当てて欲しい。
FYI. 今週開催された成長戦略会議の資料です。
スタートアップの育成の在り方に関するワーキンググループ(第2回)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/seicho/wgkaisai/startup_dai2/index.html