「元の世界」戻るか コロワくん生みの親が期すコロナ後

山田悠史
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 新型コロナウイルスによるパンデミックから早くも1年が過ぎました。世界ではワクチンが行き渡りはじめ、感染者が減る傾向も見られます。一方で、変異ウイルスの広がりも懸念されています。昨年から米ニューヨークのマウントサイナイ医科大で老年医学・緩和医療科の医師をしている山田悠史さん(38)が、米国の現状を伝えます。

1日300万回の接種が可能に

 ニューヨークを含め、米国では、ワクチン接種がとてつもない勢いで進んでいます。当初はワクチン接種スケジュールの遅れも指摘されていたものの、現在では1日に平均300万回の接種が行える状況まで整ってきました。1月中旬には80万回ほどだったので3倍にも4倍にもスピードが加速しています。

 平均300万回というのは単純計算で、1カ月で1億回カバーできるほどのスピードということです。これほどの接種スピードを実現している国は他にありません。

 ニューヨークでは3月30日から接種対象者が30歳以上までに拡大され、いよいよ4月6日からは16歳以上の全ての人が接種を受けられる段階にうつりました。

 私の医療機関でも連日ワクチンブースの前には長蛇の列ができ、最近では若い方の姿も見られるようになってきました。

 そのせいか、今年1月のピーク時と比べると、感染者、入院患者数ともに急速に減ってきています。

 私が担当する患者さんも、1月ごろには大半が新型コロナウイルス感染症の方で一時は病院全体もコロナ一色になっていました。しかし今では患者さんの数も1人や2人に減り、以前の病院の風景に戻りつつあります。

 外来診療や手術もほぼ平時通りに行われており、この1カ月ほどで、あっという間に多くのコロナ病棟が一般病棟に切り替わりました。

 街でも変化が見られ始めています。長い間禁止されていた店内飲食が再開し、ワクチン接種を受けた人の国内旅行が可能となったことで、街に少しずつにぎやかさが戻ってきています。

 パンデミックの影響で閉店してしまった空のテナントには新しい飲食店が入りはじめ、街の明るさも少しずつ回復してきている印象があります。

 ニューヨークではとても親しまれているブロードウェー・ミュージカル再開のニュースなど明るい話題も目にするようになり、いよいよ昔の生活が戻ってくるのかという期待を感じています。

変異ウイルスは増加傾向

 しかしながら明るいニュースばかりではありません。

 ここ2週間は感染者数が下げ止まってきており、全米の感染者数は再び増加傾向にあることが報告されています。ここに変異ウイルスの存在が寄与していることは十分考えなくてはいけません。

 現在流行している変異ウイルスは、感染伝播(でんぱ)の力が強い可能性や、場合によっては感染した人が重症化するリスクが高い可能性も報告されています。

 にもかかわらず、州によってはマスクやソーシャルディスタンスなどの感染対策を取り下げてしまうなど、少し早く感染対策を緩めすぎてしまっているところもあります。忘れてはならないのは、まだワクチン接種の広がりは道半ばだということです。

 幸いにもニューヨーク市内では、様々な交通機関や食料品店がマスク着用を義務化していることもあり、街中で出会う方は大半がマスクを装着しています。でもそれが緩むのも、時間の問題かもしれません。

 感染が広がれば広がるほど、南ア変異株のように、新たな変異ウイルスが生まれる可能性は高まります。ワクチンの普及と新たな変異株とのいたちごっこになってしまう懸念もあります。

安全な着陸できるか

 世界中でワクチン接種の動きを加速させる中、日本でも今月から高齢者の方へのワクチン接種が始まろうとしています。そうなると日本でも、いよいよ2019年以前の「元の世界」に戻るべく、着陸態勢に入っていくことになります。

 このコロナ禍を飛ぶ飛行機は、乱気流が多く揺れも大きかったと思いますが、無事に着陸するには、安全な着陸を確保しなければなりません。

 安全な着陸に、パイロットの操縦が重要なのはもちろんですが、それと同じぐらい、乗客一人一人がしっかりとシートベルトを締め、安全確認をすることがとても大切です。

 シートベルトというのはすなわち、マスクの着用や、ワクチンのスムーズな普及に一人一人が協力することを意味するのだと思います。

 とても大変な空の旅だったと思いますが、有効なワクチンを手にした今、私たちには着陸という目標が少し見えてきました。しかし、しっかりと着陸できるかはこれからの私たち一人一人にかかっているのだと思います。(山田悠史)

 日米内科専門医慶応義塾大学医学部を卒業後、東京医科歯科大学医学部付属病院で研修。その後、日本全国各地の病院の総合内科、総合診療科で勤務。2015年からは米国ニューヨークのマウントサイナイ医科大学ベスイスラエル病院の内科で勤務し、米国内科専門医を取得。現在マウントサイナイ医科大学病院老年医学・緩和医療科に所属。新型コロナワクチンの不安に寄り添う「コロワくんサポーターズ(https://corowakun-supporters.studio.site/別ウインドウで開きます)」代表。Twitterは@YujiY0402。

 日米内科専門医。慶応義塾大学医学部を卒業後、東京医科歯科大学医学部付属病院で研修。その後、日本全国各地の病院の総合内科、総合診療科で勤務。2015年からは米国ニューヨークのマウントサイナイ医科大学ベスイスラエル病院の内科で勤務し、米国内科専門医を取得。現在マウントサイナイ医科大学病院老年医学・緩和医療科に所属。新型コロナワクチンの不安に寄り添う「コロワくんサポーターズ」代表。Twitterは@YujiY0402。

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