2021/3/29

“満たされた”国ニッポン、課題の発見と解決に5Gができること

NewsPicks, Inc Chief Brand Editor
2020年から商用サービスを開始した5G。5Gエリアはまだ限定されており、私たちの生活やビジネスに与えるインパクトを感じにくいが、「高速・大容量」「低遅延」「多数同時接続」などの利点が「まだ見ぬイノベーション」をもたらすのではないかという期待は大きい。
こうした新技術を活用したイノベーションを生み出すために、どのような取り組みが必要なのか。元ネスレ社長で現在はDX支援や大企業とスタートアップの協業をサポートする高岡浩三氏と、NTTドコモで5G・IoTビジネス部 ビジネスデザイン担当部長を務める有田浩之氏とが、5Gがもたらすイノベーションについて語り合った。
INDEX
  • 「満たされた時代」に求められる力
  • 協創の輪をつくるプログラム
  • 約100社が集結した「docomo 5G DX AWARDS® 2020」
  • 本格的な5G時代を見据えて協創を

「満たされた時代」に求められる力

──“表面的に”満たされた国、日本。この国では新たなビジネス創出のための「イノベーションの起こし方」が至るところでテーマになっています。改めて、高岡さんが定義するイノベーションを教えてください。
高岡 非常にシンプルで、今の時代のイノベーションに必要な力を定義するとすれば、人々がまだ感じていない課題を見つける「課題発見力」だと思います。
 まだモノやサービスに乏しかった頃は、課題はあらゆるところに山積みだったので、課題解決力が必要だった。しかし、今は冒頭にもあったように、想像しやすい課題は解決され、多くの人々が求める物理的な欲求は満たされている。
 そんな今は解決力よりも発見力の時代。企業や消費者がまだ感じていない課題や欲求を見つけ出す力が、何よりも必要だと私は思っています。その課題さえ見つければ、今はさまざまなテクノロジーが登場していますから、解決はそれによって発見よりも比較的容易かと思います。
 日本企業や日本人は、どちらかというと発見力よりも解決力が得意な印象があるので、「問題は何か」「課題はどこにあるのか」を、常識を疑って突き詰める行動を心がけるといいと思います。
──なぜ日本人は発見力が弱いのでしょうか。
高岡 民族の同一性といいますか、多様性の欠如に起因している点はあると思います。新しい気づきは、異なる経験や考えを持っている人同士がディスカッションするほうが得やすい。その点でいえば、日本は均質性を重んじてきた時間が長かったですから、相対的にみて弱いのだと思います。

協創の輪をつくるプログラム

──有田さんはNTTドコモで5Gを活用したイノベーション創出がミッションだと思いますが、高岡さんのお話を聞いていかがですか。
有田 新しい気づきを生むための多様性、異なる才能を組み合わせる重要性を私も肌で感じています。
私は今、5Gを活用した新たな価値創出にチャレンジしていますが、高岡さんがおっしゃった多様性を意識したプロジェクトを進めています。
 5Gはあくまでテクノロジーで、重要なのはこの技術を活用して企業や消費者が見えていない課題の発見と解決にどう生かすか、です。そのためには、NTTドコモが自社だけで思考するのは不十分。
 BtoBでもBtoCビジネスでも、エンドユーザーの傍で日々活動している企業と共同で取り組むのが最適。そう5Gの商用化サービスが始まる前から思っていました。
 そこで「協創」のために約3年前に立ち上げたのが、複数企業と共同で5Gを活用したビジネス創出に挑む「ドコモ5Gオープンパートナープログラム®」です。
 今だから言いますけど、スタート当初、私は100社ほどに参画してもらえればいいなと少し消極的だったのです。みなさん、まだ5Gなんて近未来の話だと思っていましたからね。
 けれど、いざ始めてみたら、みなさんの関心が非常に高くて、瞬く間に1000社を超え、今では約3800社、携わってくれている人数でいえば、1万7000人を超えています。手前味噌で恐縮ですが、5Gにおけるプログラムでこの規模は世界でみても類をみない大きさのコミュニティだと思っています。
──業種・業界を問わず、大企業発のオープンイノベーションプログラムは多いですが、確かにこの規模はすごい。参画する企業はどこにメリットを感じているんですか。
有田 いくつかありますが、期待が大きいのはビジネスマッチングです。みなさん、新しいテクノロジーを活用して新しい価値を生み出したいと思ってはいますが、どこかきっかけを掴み切れていない。
 自社単独展開の限界、協創の必要性を感じている中で、ともに5Gで何かを生み出そうという企業が集まったコミュニティに入り、多様な知識と経験を得ることで糸口を探ろうと思ってくれています。そうしたご要望に応えられるよう、ドコモ5Gオープンパートナープログラムは設計されています。
 注目していただきたいのは、参加者の職種です。1万7000人の内訳を見てみると、約2割がR&Dや技術企画系、技術開発系の方々です。
 NTTドコモはこうしたパートナープログラムをいくつも展開してきましたが、技術系の方々にこんなに集まっていただいたことはあまりありません。ビジネスとテクノロジーを語れるメンバーが揃っているのです。
 先程お話にあった通り、多様性のある集団であればあるほど、新たなアイデアは生まれやすいと思っていますし、ビジネスサイド、テクノロジーサイドの人が協創することで事業化も早い。非常に大きなアドバンテージだと思っています。
高岡 大企業のオープンイノベーションプログラムは一種の流行りのようなもので、すごく増えていますけど、うまくいくケースが少なくて結果を出せずにフェードアウトすることが多い。その中で、すでに3年も続き、何よりメンバーも多くさまざまなスキルを持っている人が集まっている。いいですね。稀有な存在だと思います。
有田 ありがとうございます。いろんな立場の方々が集まることで、新しいソリューションが生まれやすい。私はそれをこのプログラムを通じて肌で感じています。参加するメンバーのみなさんのアイデアをもとに、すでに300種類以上の実証実験を行い、ビジネスの芽がいくつも出ています。
──300種類は確かに多いですね。どんな内容なのか気になりますが、改めて5Gにはどのような可能性があるのでしょうか。
有田 改めて、5Gのメリットを3つ挙げるとすれば「高速・大容量」「低遅延」「多数端末接続」。
 さまざまな用途での利用シーンが進んでいますが、一例を話すと、遠隔支援はホットなテーマです。例えば、製造業の機械整備では通常、若手はベテランの先輩社員と行動を共にして覚えていきます。
 ところがARグラスと5Gで映像と音声を共有しながら遠隔支援できれば、現場には若手の作業員しかいないのにメンテナンスできてしまう。ちょうどコロナ禍で、密空間で一緒に作業がしにくくなってきたことが後押しとなり、ニーズは高まっています。
高岡 私は5Gの専門家ではないのですが、応用範囲は広いですよね。ジャストアイデアですが、たとえば家具ってどんなに立派なショールームへ行っても、自分の部屋に置いた瞬間に失敗したなと思うことってありませんか。
 これは、5GとARやVRの技術を使って、自分の部屋に置くことができれば、店頭よりよっぽど正しい選択ができる。今あるものを掛け合わせることでソリューションになるケースはたくさんあると思います。
 有田さんが言っていた遠隔支援も可能性を感じます。例えば今、建築現場では高齢化にともなって現場監督が圧倒的に足りないと聞いています。5Gを使えば高精細な映像をどこからでも送受信できるので、現場に行かずに1人で何件も見ることができるようになるかもしれない。
 少し想像しただけでも、この問題を解決できないかとワクワクする。先程常識を疑えと話しましたが、今は当たり前のようにやっているアナログやリアルなものをデジタル化するとどうだろうと思考すると、5Gの活用領域が見えてくるかもしれません。

約100社が集結した「docomo 5G DX AWARDS® 2020」

──なるほど。プログラムの1つとして開催されているピッチイベントも多様なソリューションが披露されましたね。
有田 はい、参加企業の方々のソリューションを披露する場として昨年に「docomo 5G DX AWARDS 2020」を開催しました。5Gとシナジーの高い技術やソリューションを発掘・活用し、各企業とともに新たな協創を促す目的もあります。ご指摘のとおり、多様でユニークなものが揃っています。
有田 スタートアップを中心に約100社の応募をいただきましたが、1次選考で10社に絞るのが大変でした。さらにそのあと入賞企業を4社に絞ったわけですが、この選考は良い意味で揉めました。これも面白いし、これはポテンシャルがある。選べないよね、と。
 アワードだけではなくて、いろんなところで新しいスタートアップとも出会いたいし、学びたい。スタートアップ側としては、ブランド力や水平展開力、販売力、保守メンテナンス力などに課題がある。
 3800社の輪に入ってもらうことで、当社が窓口となって補える企業をご紹介できる。Win-Winになる営みを推進し、結果的にイノベーション創出につなげられると思っています。

本格的な5G時代を見据えて協創を

──高岡さんはこのプログラム全体についてどのようにお感じですか。
高岡 オープンイノベーションが起こりそうな組織が作られたと思いますし、大いに期待できると思っています。
 顧客が諦めている問題が発見できていないから、お金も回らないしミスマッチングになっている。それを解消できるような場になっていくと素晴らしいなと思いますね。
有田 ありがとうございます。 5Gのエリアはどんどん広がっていて、2022年3月末になると人口カバー率が55%、2年後の2023年3月末には70%の計画です。
 そうした本格的な5G時代を見据えて、「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」での活動を通じて、具体的なソリューションをどんどん出していければと思っています。
 また、昨年の11月からドコモ社内では「5Gマスター™」という制度を設けて、5Gを熟知した人材の層を厚くし、お客さまとスクラムを組んで5Gの社会実装を推進していきます。オープンパートナープログラムとあわせて、みなさんと話し合いながら新しい価値を創造していきたいと考えています。
 5Gを活用したイノベーションをNTTドコモ単独で起こせるとは思っていません。大企業、中小企業、スタートアップを問わず、業種・業界も問わず、多くの企業との協創を通じて世界に誇れる大きなムーブメントを起こしたいと思っています。
【5G協創基盤】テックの未来と現在はどこで交わるのか