太陽光で「30分で海水を真水にする」技術。水不足解決のカギとなるか
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注目のコメント
もともと水資源は偏在しているうえ、気候変動によって水リスクは世界中で高まっています。日本は日ごろの水利用に困ることは少ないですが、食料やエネルギーの輸入を通して、大量の「他国の水」を消費しています。
よって、「輸入相手国の水問題は日本の水問題」と認識しておく必要があります。
淡水化施設(脱塩プラント)は水不足が深刻な地域を中心に急拡大し、世界では1万4千~5千基くらいあると思います。アメリカではすべての州にありますし、日本でも工業用・生活用で各地に建設されています。
淡水化の主な技術としては、①熱を用いる蒸留法と、②膜を用いる逆浸透膜法があります。
淡水化技術の主な問題点として指摘されてきたのは
・大量の電力・熱エネルギーの消費:特に①の蒸留法は莫大なエネルギー必要
・化学物質の使用:特に②では膜の洗浄や脱塩過程で様々な化学物質を使用
・排塩水:脱塩によって生じた高濃度の塩水が海に排出されることで、生態系をかく乱
などです。
「淡水化施設は水不足には貢献するが、地球温暖化対策や水質保護には逆行する」と言われてきたゆえんです。
太陽光とMOFによる淡水化技術は、エネルギーや化学物質の問題をクリアするものとして界隈で関心が強まっています。
ただ、サウジやアラブなど中東の「淡水化大国」では、①の熱処理施設のネットワークがすでに高度に確立しています。そうした中で、低負荷型に移行していくのか、いかないのか。今後に注目ですね。この記事だと全くどんな技術か分からんので原論文読みました。
光照射で有機化合物の分子構造を変えて光学異性体を作る反応を利用した技術で、ある意味生物が得意とする領域とも言えます。
この研究で使われているのは、スピロピランと呼ばれる有機化合物を用いたもので、可視光等を当てることで2つの環状構造の結合部分の隣であるC -スピロ-O結合が切れて環状構造が開き、メロシアニンと呼ばれる構造に変化します。この時に化合物の色が変わるので、この反応をフォトクロミズムとも呼びます。
メロシアニン構造でできた陽性のインドリウム基と陰性のフェノラート基が、それぞれNaCl等の陰イオンと陽イオンを吸着するのではという所に発想があったようです。
しかし、スピロピラン単体では、メロシアニンに変化した後に自らの極性で凝集し分解が進んでしまうため、うまく物理的に分離して保持する必要があります。
そこで、高い表面積と均一な細孔を持つ有機金属フレームワーク(MOF)を用いるというアイディアが出てきます。研究では、一般的に流通するアルミニウムイオンを金属中心にもち、テレフタレートベースの構造体であるMIL-53(Al)を用い、そこにポリスピロピランアクリレートを閉じ込めることで、効率的に海水中の塩分を吸着し(2.88mmolg-1)、かつ太陽光でそれを放出するPSP-MIL-53という吸着剤を開発したということです。合成方法に関してはサプリメントデータで公開されています。
https://static-content.springer.com/esm/art%3A10.1038%2Fs41893-020-0590-x/MediaObjects/41893_2020_590_MOESM1_ESM.pdf
1gあたり2.88ミリモル(NaCl=58として約0.17g)。海水の塩分濃度を3.4%とすると、1トンの海水に34kgの塩が含まれるので、それを吸着するには200kgのPSP-MIL-53が必要というスケールになりますね。
この物質の価格がいか程か、サイクル寿命はどうなのか、ということがわからないのと、太陽光の利用は面積できいて来るので、設備としての効率も考慮した上で、他の手法との比較ということになりそうです。
ただ、この技術でも千葉先生がコメントされている排塩水の問題は残りそうですね。中東などの国では化石燃料を使う淡水化発電所が多く建設されてきましたがこの様に太陽光と有機金属構造体(MOF)で大規模な淡水化が可能になるとゲームチェンジャーになりうるでしょう。
中東や太平洋の島国などの日照量が多く水不足の国にとっては特にメリットが大きいと思われます。