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イノベーションが「成功者」から生まれない理由として、イノベーションのジレンマが知られています。過去の成功体験が邪魔をするというもので、戦略的な理由と人的な理由が組み合わさったものだと思います。
「戦略的な理由」とは、例えば過去の成功者である「ガソリン自動車産業の成功者」は、市場が小さいうちは電気自動車を否定します。肯定した場合は、自社のガソリン自動車を否定することになるためです。この結果、新規参入への躊躇が生まれ、電気自動車がガソリン車の市場を脅かすようになってから参入しますが、電気自動車産業各社はすでに、事業基盤を作り上げてしまっているというパターンです。
「人的な理由」は、元記事で詳しく説明されていますが、補わせていただきます。日本企業では、終身・年功序列型の雇用であり、過去の成功者が企業の重要な職責についていることが多く、イノベーションの名であっても、「過去の成功者」を否定することは簡単ではありません。下手に楯突こうものなら、飛ばされてしまい何事も実現しない。だから楯突かないので、結局実現しない。というパターンです。
アスクルは、元記事にかかれているほかに、重要なイノベーションに成功しています。事業開始の頃、アマゾンなどで文具を購入することは、まだ日本では一般的ではありませんでした。地元の文房具屋からの購入が普通でした。電子商取引は、地元の文具店のビジネスを破壊しますので、文具小売、文具卸業界から「プラス製品」が総スカンを食らう可能性があるため、プラス(アスクル)は、まずは事業者向けにのみ電子商取引事業を開始、表面上は電子商取引であっても、紐づけられた小売店には売り上げのマージンをバックするという方法から始めました。その後、文具小売の衰退のタイミングでYahooと提携し、本格的に個人向け電子商取引に参入しています。そのタイミングで、売り上げを大きく伸ばしています。
迅速にイノベーションを行うなら、最初から個人向け電子商取引に力を注ぐという考え方もありましたが、ここでは、日本的な「しきたり」との両道をかけて事業をスタートしています。
ユーザーニーズがあるものは何でも仕入れて取り揃えること、更に踏み込めばユーザーに必要なものを提案できること
経済学的に言えば如何に「範囲の経済」を追求するか
その代表例としてアスクルとミスミは古典的な事例として引き合いに出すことが多いです
過去の連載では、この記事が出色です。ぜひあわせてどうぞ。
スマホ全盛のいま、なぜ「インスタントカメラ」が年1000万台も売れているのか 「チェキ」が採ったグローバル戦略 #POL https://president.jp/articles/-/38774
他社は当然に、1社だけでなく、どこの会社の製品も扱っていました。
そこを覆したのは、#ロジスティクス と#エージェント の力です。
他社と比べて、進んだ物流を、岩田元社長の、かつての競合の花王のロジスティクスの知恵を借り、徹夜でプラスの食堂で会議を重ね、作り上げました。
#物流革命 の2019年度版の巻頭インタビューの際に、確かめた逸話です。
アスクルのこれからの進化も、ロジスティクスがベース。楽しみにしています。
しかし、大手企業のイノベーションの現場を見て思うことは、最後のページで挙げられていることを実行すること以前と以後のところに課題があるということです。
例えば、ここで書かれているような文化の醸成や提案ルート作りはややリスキーに感じます。実際のところ、それらは短期的に成果が出ませんので、これに対しては何らかの戦略的な位置づけをしっかりと描けなければなりません。実はそれをトップがやることは結構難しく、誰かがそれを描きつつ進むことが肝心です。(なぜトップが難しいのかを書き始めると長くなるので割愛します。)
加えて、社長直結をするにしても、社長が新規事業の細々したところまでは目を届かせることは不可能です。実際に起きることは、新規事業開発部門に対する総論賛成各論反対への対処です。
つまり、言うは易し行うは難しであり、この問題への対処が今の大手企業のイノベーション推進では問われていると私は思います。