2021/2/19

【3DAYS】ニホンの「叡智」が集結。サイエンスの未来を知る大型カンファレンス

NewsPicks, inc. BRAND DESIGN SENIOR EDITOR
 世界各地で勃興した破壊的イノベーションによる産業構造の変革のなかで、過去20年間、後塵を拝してきた日本。かつてハイテク産業や材料分野で多くの革新的技術を生み出してきたが、ビジネスの奔流に流され「科学技術」の重要性を見失いかけている。
 しかし科学技術が進展し、マーケット・ビジネス・プロダクトといった情報と連結しなければ、予想もつかないテクノロジーは誰も生み出せない。だからこそ、科学技術のリブート(再起動)が必要だ。
 では、日本が再び世界をリードするために求められることは何か? 科学技術力を取り戻すには何が必要なのか?
 このビッグイシューの解決策を模索するべく、ベストセラー書籍『シン・ニホン』著者の安宅和人氏、ノーベル物理学賞受賞の梶田隆章氏、ソニーコンピュータサイエンス研究所の北野宏明氏、OIST(沖縄科学技術大学院大学)学長のピーター・グルース氏など、総勢12名の“知”が集結。
 3日間にわたり、産官学キーパーソンが語り合うオンラインカンファレンスを開催する。
日本の「科学技術」の領域において、ここ数年で圧倒的な存在感を見せつけるのが、世界トップクラスの研究・教育を掲げるOIST(沖縄科学技術大学院大学)だ。沖縄を科学技術立国再興の震源地として、基礎研究を軸としたイノベーションで、新たな価値創出を目論んでいる。

なぜ、ビジネスにおいて科学技術を理解することが重要なのか。今回、なぜ「OIST FORUM 2021」を行うに至ったのか。NewsPicks副編集長で、全3日間にわたってモデレーターを務める科学ジャーナリストの須田桃子が、OIST学長のピーター・グルース氏に聞いた。

基礎研究とビジネスの関係

須田 私はこの数年間にわたって、日本の研究力の衰退をテーマに取材をしてきました。
 学長もOISTだけでなく、国内の他の大学や研究機関の現状を見聞きする機会も多いかと思いますが、日本の基礎研究への投資は十分といえるのでしょうか。
グルース 2017年に「Nature Index」(科学ジャーナルに発表された研究論文を蓄積する、論文著者所属情報のデータベース)で、日本の科学技術への投資は諸外国と比較して少ないというメッセージが発表されました。
 世界各国が科学技術予算を増大させている中、2001年以来日本では投資不足が続いています。
 予算の規模は2001年に3兆4700億円だったのが、2017年には3兆4900億円。これはインフレ率を含めると日本の科学技術に対する予算が減少していることを示しています。
 実際に、物理、材料工学、エンジニアリング、バイオケミストリー、コンピュータサイエンス、それから免疫学といった分野で、競争力が落ちてきているというデータがあります。どれをとっても未来の経済、ビジネスに不可欠な分野ばかりです。
 基礎科学の研究は、新たなテクノロジー・プロダクト・マーケットを産みだすための基盤となるわけですから、非常に懸念しています。
須田 日本政府の基礎研究の重要性に対する理解度について、どうみておられますか。基礎研究への投資意識が諸外国に比べて低いのは、それがいかに大事かを理解していないからではないでしょうか。
グルース 残念ながら、そう考えています。しかし、新たなアイデアやイノベーションを生み出すためには、ある程度の資金が必要です。
 また発明が産業に結びつくために必要なのは、資金だけではありません。革新的なテクノロジーが生まれ、起業に至ったとしても、それを育てる土壌が日本には足りないのです。
須田 おっしゃるように基礎研究への投資が足りない、さらに基礎研究の領域から仮に起業する人が現れても育てる地盤がないことは、日本の大きな課題です。 
 一方、日本政府は近年、新しい産業を生み出すイノベーションを重視し、有望なテーマやプロジェクトへの「選択と集中」を進めてきました。
 ではその結果、世界に注目されるようなイノベーションが起きているのかというと、決してそうではない……。
 新しい産業を作るという「出口志向」で「選択と集中」による投資をしてきたにも関わらず、それが功を奏していないのは、なぜだと思われますか?
グルース 「選択と集中」や「出口志向」も重要です。しかし、一方で研究者の好奇心に基づいた研究や、ハイリスクを伴う研究にも投資をすることも大事です。
 例えば、インターネットの発明も、分子遺伝学の進展も「出口志向」から生まれたものでありません。
 より多くの領域で研究ができるよう、基礎研究を担う大学や研究機関にもっと投資をしなければならない。そうでなければアイデアやイノベーションは生まれません。

なぜ、OISTには基礎研究力があるのか

須田 OISTは2019年6月、「Nature Index」の質の高い論文ランキングで東京大学を抑えて世界9位に入り、大きな注目を集めました。OISTの研究力を支える要素を教えてください。
グルース 1つ目は研究員の質の高さです。OISTでは世界中からベストな研究者を選んでいます。日本人に絞り込むと1億2600万人ですが、我々は80億人から選んでいる。
 しかも、昨年は世界トップクラスの1544名から、1%程度の18名しか採用していません。まさに「Best of the Best」です。
 2つ目が安定した研究資金です。研究者には5年ごとに審査を設けており、その間安定した資金を提供します。
 研究者にとって、研究期間が短いと実験が始まる前に資金が枯渇する不安があるわけですよね。そこを、OISTは保証している。
 3つ目が、研究者に対する厳しい評価体制。5年ごとに審査を受けるわけですが、国際的に知られた外部の審査員の方々に参加してもらっています。 
 我々の予算は政府、つまり国民の税金なので、きちんとその結果を開示して、業績まで遡って研究の質の分析を行わなければなりません。
 その結果次第では研究資金を削減したり、退職いただいたりすることも辞さない。そういう厳しい審査を行っています。
須田 なるほど。今後、この研究力をもってOISTはどんな未来を描いているのでしょうか。
グルース カルテック(カリフォルニア工科大学)のような「知の集積地」を沖縄に築き上げるのが目標です。カルテックは教員の数が300名で、OISTの目標としてはちょうど良いサイズなのです。
 OISTの周りに新たな産業に関する企業のサテライト施設を作り、そこで新しいプロダクトやサービスを生み出す。そしてGoogleやFacebookのような変革を起こす企業を周囲に作っていきたい。
 現在、OISTは150件の特許取得があり、15のスタートアップ企業を支援しています。それをより加速させていく。
 今後は、OISTキャンパスのすぐ隣に新たなキャンパスシティーを作っていきます。そこでは革新的な企業を受け入れる「経済イノベーションゾーン」として、新たな産業を沖縄のために興そうと考えています。
 スタンフォード大学がシリコンバレーの発展に寄与したように、投資家の方々にも来て頂き、OISTを投資活動の拠点とし、ハイテク産業も育成したいと考えています。
写真提供:OIST/東郷憲志
須田 壮大な計画ですね。初めて伺ったので驚きました。
 最後になりましたが、3月2日~4日にかけて「OIST FORUM 2021」が開催されます。
 私も全3日間でモデレーターを務めさせていただきますが、このイベントにどのような期待をされていますか。またどのような人、ビジネスパーソンに参加して欲しいでしょうか。
グルース まずは須田さんにモデレーターになっていただくことを承諾いただき、大変感謝しております。
 今回は3日間で3つのトピックを選択しました。1つ目は、日本における科学の環境とその可能性について。2つ目は基礎科学とベンチャーキャピタルの関係性について。そして3つ目は少し幅広く、環境問題や気候変動、SDGsなどを科学の視点で考えるスケールの大きなトピックとなっています。
 アカデミックや科学に携わる人はもちろん、テクノロジーや新興産業に興味のある若いビジネスパーソン、そして大企業の方々にもぜひ参加いただきたいですね。
須田 貴重なお話をいただき、どうもありがとうございました。私自身も大変勉強になりましたし、3月の「OIST FORUM 2021」がますます楽しみになりました。