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【人事制度シリーズ①】配属ガチャを科学する

皆さん、こんにちは!けんたろと申します!
数学とファイナンスがとても得意で、良く講義などさせていただくのですが、

今回は人事制度や働き方に関係しそうな論点をシリーズでnote化してみようと思います!
この領域の発信を通じて、近い領域に関心ある方と繋がれたらなあと思いますので、
課題感持たれてる方お見えでしたら、是非コメントやTwitterなどで反応いただけると嬉しいです^^

ということで、第一弾のテーマは「配属ガチャ」です!

配属ガチャとは

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特に一斉採用を行う企業で散見される問題で、入社するまで(もしくは入社直前まで)どんな仕事に従事するのか決定されない状況を言い表す造語で、
入社者からするとソシャゲのガチャのように、配属先が決まるため「配属ガチャ」と言われて特に新卒者中心にリスク要因になっている

配属ガチャといえばこんな感じでしょうか。
もちろんガチャ同様に、入社者の期待より上振れること(想定よりもいいポジションに就くこと)もあるでしょうが、特に話題になるのは、入社者の想定/希望しないポジションに就くケースだと思っています。

人は誰かと比べて損をしたときに最も脳へストレスを感じることが実験的に見つけられていて、同期と比べた時に相対的に損したと感じた方のケースを取り上げて
配属ガチャの基になる一括採用ってやっぱダメだよね!という論調が多いのかなと思っています。
(とはいえ、こちらは若干のポジショントークも混ざっていることもあるようにも感じています。)
↓↓ポジショントークが起きる背景についてまとめたnoteです↓↓

企業の人事の観点に立つと、労力を費やして採用した方にとって最大限バリュー/成長をできる部門に配属したいと思うのが戦闘力強化の視点では通常でしょう。適当に配置検討しているわけでなく合理的に判断した結果が現状の結果なんだと思います。
なので、なぜこのような問題が起きるのか、どんな解決方法があるのか分析してみたいと思います。

近年では、配属ガチャ問題のソリューションの一つとして、
「ジョブ型採用」も多々メディアで取り上げられています。そんな論点も含めて整理してみたのでお付き合いいただけると幸いです!

配属ガチャの背景:ケース問題

では、さっそくこのnoteを読んでいただいている皆さんが「企業の人事」だとして、以下問題に向き合う時どんな結論を出すでしょうか?

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3名の入社者(A、B、Cさん)を配属先候補(α、β、γ部)のどの部門に割り当てればよいでしょうか。
今回は3名のそれぞれの部門へのマッチ度を数値化して一覧にまとめております。

この問題への考え方/解き方は整理できましたか?
僕なら以下の方法でこの問題を解いてみます!

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それぞれの組み合わせを考えて、どの組み合わせがもっともよいか検討してみます。今回は例えば、各マッチ度を足した合計が最大になる組み合わせパターンを選んでみましょう!

すると右上の(A、B、C)=(α、γ、β)の組み合わせが合計250点になって最も高いマッチング度になることがわかりますね^^
合格者の特性や経験・志望から各人の部門へのマッチング度合いを分析して、どういう組み合わせにすると全体にとって最適になるのか、を解くのは配置問題に対して1つの合理的なアプローチなんだと思います。

でもこのケースよく見ていただきたいのは、B、Cさんにとってはマッチ度100%で満足いく配属になるでしょうが、Aさんの視点ではどうでしょう...

きっとAさんは「配属ガチャだ!!!!!」って怒り心頭になるんじゃないかなって思うんです。

では同じ問題を今度は評価軸を変えてみていきましょう!
例えばマッチ度を順位に置き換えてみます。

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するとこの問題では、(A、B、C)=(β、α、γ)、(γ、α、β)の2通りの組み合わせが全体のマッチ順位が高くなることが分かります。
今回のケースだとBさんと、AさんorCさんが第二志望になってしまい、自分は第一志望を叶えてもらえなかった!配属ガチャだ!ってなっちゃうんではないかなと思います。

また、組み合わせパターン(黄色の塗りつぶし配置)を見てほしいんですが、最適化になるパターンは、1つ前でみた問題の結果と異なる結果になりましたね。判断軸が変わると合理的だと検討し判断して選んだ組み合わせの結果も変わってくるんです。

入社される方の成果/成長が最大になるのはどういう変数で決まるのか、
想像するだけでもたくさんの軸があることがわかります。合理的に最適だと思っても判断軸を変えると最適が変わってくることも配属最適化問題を解く上で難しさを生む要素なんだと思うんです。

更に今回はマッチ度といういかにもっぽい指標を使って数字で表しましたが、実際には候補者自身も合格を得るために少しばかり化粧をした面接受け答えをするはずなので、候補者の本質を見抜きマッチング度数を数字化するのも大変困難なんだと思います。
配属ガチャ問題を解決しようとするとこれらの根本にあるディスクロージャー(企業も個人もすべての情報を開示すること)が最も重要と思ってはいますが、それはまた別のお話ですので今回は割愛します。

ただ一点言えるのは、
「企業にとっての全体視点」と「合格者にとっての個人視点」の差分がある中、企業側の一方的な全体視点での最適化(企業は合理的だと判断している)こそが、配属ガチャと言われる問題を起こす一つのポイントなのかもしれないですし、

また個人にとっても、入社する「会社内の部門」を相対的に比較するため、自身の配属先結果が同期等と比べ、相対的に損をした等という感情を有することも”配属ガチャ”問題が起き起こす背景じゃないかなと思います。

またこれら表層部分だけではなく、今回の例題の前提を疑ってみることも大事だと考えてます。
今回の例題ではA,B,Cさんありきで、最適配置を考えましたが、事前にポジションに合わない可能性がある方を合格させないという考え方も重要かもしれないと思います。
Cさんではなく、α部にマッチする別のDさんを採用できていたら、皆が第一希望のポジションに就けたかもしれないですよね。

つまり、「合格した人材をどこの部門に配属させるか」という問題ではなく、「部門にマッチする人材に合格させ配属させる」という問題に変えれば、配属ガチャという問題は起きないんじゃないか、ということです。

これこそが、現在「ジョブ型採用」などとして近年日本でも注目されつつある採用形態です。ジョブ型の対義語はポテンシャル採用になり、今回のケースと対比するのは少し齟齬も生みそうなので補足だけしておくと、
「優秀な人材を一括で採用した後、それぞれにとって全体最適となる配置を考える」従来型の採用から、
「各配置先にとって最適となる人材を採用する」型に変えていくとき、”最適となる人材”を定義づける一つの基準としてジョブ型が注目されているというのが正しい文脈なのかなと思っています。

中締め:例題に関する要点

さて、一旦中締めです。ここまでの主張のポイントは、

・配属ガチャとは、会社の全体最適視点で個人の配置を割り当てるために、個別視点では不合理な結果が生じる現象のメタファー
・企業が全体最適視点における合理判断をしたとしても、判断軸が変わると最適解は変化する。また、すべての情報が得られにくい採用活動で最適解を求めるための情報を正しく得るのは困難
・配属ガチャ問題解消に向けて、「合格した人材をどこの部門に配属させるか」という問題ではなく、「配属先にとって最適となる人材を合格させる」という採用方法に変える動向が加速しており、最適となる人材の判断方法の一つとしてジョブ型採用が注目されてきている

以上、最後にフォーカスした「配属先にとって最適となる人材」の採用方法に向けた動向について次の章で取り扱っていこうと思います。

適所適材型の採用

「優秀な人材を一括で採用した後、それぞれにとって全体最適となる配置を考える」従来型
「各配置先にとって最適となる人材を採用する」型

って毎回書くの長いので、それぞれ以下言い換えていきます。
前者は「適材適所型採用」で、後者は「適所適材型採用」になります。

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まず「適所適材型」について説明します。まずはポテンシャルの高い人材を採用し、その後合格者が最もバリューを発揮できるポジションはどこか、を考える採用方式です。先ほどの例題のケースはこちらですね^^
(補足すると、合格を出す際に、一定のポジションの想定はしつつも確定はさせず、最終決定を入社前後に行うケースが多くの企業が採用している実質的な方式だと思いますので、そちらもこちらの適所適材型採用と位置付けてます)

一方、後者の「適材適所型」の採用は、職種などを確約して採用するジョブ型採用で、職務にマッチする人材のみに合格する方法をイメージしてます。

ミスマッチを減らすことは、新しく入社される方にとっても、企業にとってもメリットが多く、後者を行う方がよさそうだと思いますよね。
ではなぜ素直に切り替わらず、「適所適材採用」を行うこと自体が議論になるのか、掘っていこうと思います。

なぜ「適所適材採用」をしないのか

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大きく3つの論点があるんではないかなと思います。

一つは、スケジュールです。
例えば大学新卒採用のケースを考えると、国内では大学生は卒業後4月になると一斉に社会人になります。21年度だと約40万の学生が卒業されるようです。学生一人あたり100社を超える選考を受ける方もいると聞きます。
更に経団連加盟企業では決められた期間内で選考を完了させて、合否判断する必要があります。
日本では大量の学生を短期間で見極めることが必要な社会構造ができあがっており、細かな目配せが届きずらいのが1点目の課題ではないでしょうか。

二つ目は、適所適材を見極めることための情報量です。
面談時間の長短あれど、多くの企業では30min×3-4回の面談であることが多いのではないかなと思っています。そんな短時間で、候補者がどんな性格で、どんなことが得意なのか、またそれらを踏まえてどんな職場で最も活躍/成長できるのか、を面接官が見極めることができるのか、という視点です。
また、採用活動における抑えるべき論点の一つにアカロフのレモン市場問題が生じます。

アカロフのレモン市場・・・中古車(アメリカでは中古車をレモンと俗語で表現する)のように、実際に購入しなければ真の品質を知ることができない財が取引される市場は、悪質な財(レモン)ばかりが流通するためレモン市場と呼ばれている。
悪質なものも良質とうそをつき販売する中古車販売業者が利益をあげるため、事業を存続でき、正直者の中古車業者は利益をあげられず倒産することからこのような学術研究が取り上げられ、2001年ノーベル経済学賞を受賞している。

候補者の中には、自分が上げた業績でないことも、合格をするため嘘をつく人が紛れ込むため、正直者か嘘つき者かも面接で見極める必要があることも、マッチングを妨げる要因になっている。
この論点はまた今度別の事例取り上げてnote書いていきます^^

そして、3つ目が辞退者が出ることと、採用計画は充足必達という視点です。
募集条件にマッチする人材が見つかったとして、合格を候補者に出したとしても、候補者にとって第一志望の会社なのか不明です。
また辞退の判断をされるのも色々なタイミングで発生します。中には入社間際の3月にも...。企業としては伸ばしたい事業に採用計画を立てているのでそこに人員が充足できないと推進力が片手落ちになってしまいます。
期を逃すと、適所適材になる人材も採用市場から少なくなるのでそのリスクが残ることも採用での課題になるのかと思います。

以上、3点の課題をクリアしながら、
募集職務にマッチする方を採用する手段をつくり上げていくことが今後の国内採用におけるメジャーなプロセスになってくるんじゃないかなと思っています。

また適所適材はメリットばかりではないこともご紹介しておきます。

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VUCAと呼ばれる変化の大きな時代、採用時点では確かに適所適材で募集にマッチしていた人材を採用できたとしても、
明日は大きな事業変革が必要になり、求める人物像としてせっかく採用した人材のスキル等が非マッチングになる
ことも多々起きるんじゃないかなと思います。
米国では、このように事業変革に伴い適所適材でなくなった人材をレイオフすることもあるでしょうが、国内の労働法はよっぽどの理由がない限りレイオフ/解雇ということはされません。
そうすると、適所適材を突き詰めすぎると、事業変革に耐えられない可能性もでてくるんじゃないかなと思うんです。

最後に

「ジョブ型」とか「適材適所から適所適材へ」など多々ホットワードの多い、採用市場ですが、
大局的にはメリット/デメリットある施策であり、かつ社会構造として現採用方法が組み込まれていているので本当に合理的な採用方法へ変えるには抜本的なゲームチェンジが必要になると思っています。

データやテクノロジーの活用や選考プロセスのあり方自体の変更など
これから各企業がどのような変革を起こしていくのか、キャッチアップをしていかなきゃなと思います。
いい事例をご存知でしたら、コメント欄やTwitterで教えてください!

最後までお付き合いいただいた皆さまありがとうございます。

けんたろ

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けんたろ|コミュニティ運営&採用人事 @murajuku

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