2021/2/6

【実践】迷走気味の私が、瞑想してみた

NewsPicks編集部 記者
ふと我に返ると、スマホをいじっている──。
そんな経験は誰にでもあるだろう。私はしょっちゅうだ。何か理由があってスマホを開いたはずなのに、知らぬ間にSNSをスクロールしている。まさに意識がハックされている感覚だ。
それもそのはず。
「ソーシャルメディアは、ドラッグと同じです」
スタンフォード大学で依存症を専門に研究するアンナ・レンキ教授はこういい切る。
「ドーパミンが短い時間で大量に放出されるため、その瞬間は気分が上がるのですが、効果は持続しません。次第に他の刺激では満足できなくなって、よくないと分かっていてもつい手を伸ばしてしまうのです」
このままではダメだ。特にコロナで、デバイスと向き合う時間が増えすぎている。
そこで、なんとか意識を自分の手に取り戻そうと、今欧米を中心に大きなブームになっているマインドフルネスのアプリを試すことにした。
「そもそもスマホアプリで、スマホ依存を乗り越えられるのか」というツッコミは理解しつつも、何事もまずは実践と、どっぷり浸かってみることにした。
試したアプリ
①Calm
②Headspace
③Insight Timer

①Calm(カーム)

Calm(カーム)

・サービス開始:2012年
・創業者・共同CEO:マイケル・アクトン・スミス、アレックス・テュー
・評価額:20億ドル(2020年12月)7500万ドルのシリーズC資金調達
・有料会員数:400万人(2020年12月)
・売上高:非公開。2016年から黒字化
・料金:年間6500円
・主なコンテンツ:ガイド付き瞑想、スリープストーリー(読み聞かせ)、音楽
まず最初に触ったのはメディテーション界が誇るユニコーン、Calmだ。アメリカではマインドフルネスアプリの代名詞にもなっている。
しかも昨年12月には、日本に上陸したばかりなので、とっつきやすい。
アプリを開いてみると、リラクゼーション用の音楽ライブラリや、ディズニーや洋楽ポップスのピアノアレンジなどの本国での人気コンテンツに加え、日本向けオリジナルとして、日本語でのガイド付き瞑想や、「おねむなナマケモノのネム」「小豆島八十八ヶ所めぐり」といった眠りにつくための読み聞かせがあった。
「なぜ小豆島?」と気になって、まずは「小豆島八十八ヶ所めぐり」を聴いてみた。
優しい声の女性が、日本昔話を読むようなトーンで、ゆったりと小豆島をガイドしてくれる。ただし女性の滑舌がとてもいいので、言葉が頭に入ってきすぎてしまって、個人的には眠るのに苦戦した。
コンテンツのラインナップとしては、英語版の方が豊富だ。例えば「Self-Compassion(自分に対するいたわり・共感)」についてのガイド付き瞑想は、どのように考え方を持っていくと良いかコーチングしてもらっている気分になり、元気が出た。
一通り触ってみて感じたのは、睡眠やストレスマネジメント、自信の付け方といったガイド付き瞑想に加えて、「スリープストーリー」と呼ばれる、寝る時に聴く読み聞かせが充実していることだ。
ネットフリックスをほうふつとさせる、凝ったアートワークも親しみやすい。
とはいえ、なぜこのタイミングでの日本上陸なのか。
日本のウェルネス市場はポテンシャルが大きいので、以前から注目していました。FiNCなど日本市場のトッププレーヤーの動向を観察していましたが、マインドフルネスや睡眠を助けるコンテンツを提供しているアプリはあまりなく、市場を開拓できると考えました
Calmに連絡を取ると、海外担当(Director of International Growth)のマーヴィス・ブレフォが打ち明けてくれた。
本国での人気の秘訣は、色々な試行錯誤から生まれたようだ。
もともと瞑想(メディテーション)のコンテンツを中心に展開していたのですが、利用動向を分析すると、夜10時から11時にかけて多く使われていることが分かりました。『ユーザーは眠りにつくためにCalmを使っているのでは』という仮説を立て、スリープストーリーを開発したところ、大当たりしたのです(ブレフォ氏)
ちなみに、この読み聞かせは、ハリー・スタイルズ(歌手)やケイト・ウィンスレット(女優)といったセレブが実際に読んでくれたり、レブロン・ジェームズ(NBA選手)がメンタルの鍛え方についてレクチャーしてくれたりと、マーケティングも徹底している。
(写真:Calm)
さらに日本語まで提供し始めているとなれば、一番とっつきやすいのは間違いない。が、日本向けコンテンツはまだ「英語の台本を日本語に直訳した」感があり、英語のときのように自然にリラックスはできない。
これからの改善に期待したいところだ。

②Headspace(ヘッドスペース)

Headspace(ヘッドスペース)

・サービス開始:2010年
・創業者:アンディ・プディコム
・評価額:非公表(2020年2月)9300万ドルのシリーズC資金調達
・有料会員数:200万人(2020年2月)、無料会員7000万人(2020年12月)
・売上高:非公開
・料金:年間69.99ドル
・主なコンテンツ:ガイド付き瞑想、睡眠用ガイド、体を動かすビデオ、音楽
次に触ったのが、Headspace。
こちらもCalmと並ぶ超人気アプリだ。アプリを開くと、オレンジを基調とし、かわいいアニメーションに驚かされる。洗練され落ち着いたデザインのCalmとは違い、かなりポップな印象だ。
Calmと同様に瞑想や睡眠ガイド、音楽などが収録されているほか、ストレスを軽減するための運動のチュートリアル動画も充実している。
何よりもの特徴が、創業者自らが瞑想をガイドしていることだろう。
「瞑想というのは、別の新しい自分になることでなければ、よりよい自分になることでさえありません。意識を訓練し、なぜ自分が考え、いかに感じているのかを理解することであり、その過程において健康的な視野感を獲得していくことなのです」
こう話す、創業者のアンディ・プディコムは自身が長年チベットなどで修業を積んだ元仏僧であり、その経験を基に瞑想の本質を説明していく。今年は、ネットフリックスともコラボし番組(1回20分)を公開し、そのガイド役を担ったほどだ。
ちなみに、ヘッドスペースは、ネットフリックスだけでなく、ポッドキャスト、飛行機の機内向けなど、アプリ以外のプラットフォームにも積極的にコンテンツを展開しているのが興味深い。
実際に触ってみた感想としては、アプリの瞑想は3分からでも始められるため、心理的なハードルは低い。
一方で、ネットフリックスの番組は、力がこもっているものの、全編アニメーション付きで画面が常に動いているため、集中することが難しかった。
20分間、まとまった時間を設けるハードルもなかなか高い。
今年の後半にはネットフリックスで「インタラクティブ体験」も配信予定とのことで、期待して待ちたいところだ。

③Insight Timer(インサイト・タイマー)

Insight Timer(インサイト・タイマー)

・サービス開始:2009年
・CEO:クリストファー・プロウマン
・評価額:非公表
・無料会員数:1800万人
・売上高:非公開
・料金:無料。プレミアム機能を使うには年間60ドル
・主なコンテンツ:ガイド付き瞑想、タイマー、睡眠用コンテンツ、ヨガ、音楽
次はInsight Timer。
直訳すると、「洞察タイマー」なので、時間を測るアプリかと勘違いしていたが、瞑想や睡眠用コンテンツなど、8万以上のタイトルが無料で楽しめるれっきとしたマインドフルネスアプリだ。
8000人以上のインストラクターが瞑想などのコンテンツを提供しており、人によって内容やトーンにばらつきはあるが、お気に入りの先生を探すワクワク感がある。
そんなインサイトタイマーのキラーコンテンツの一つは、ライブ配信だ。多様なインストラクターによる瞑想やヨガのクラスが常に提供され、同じ時間にマインドフルネスを実践できる仕組みとなっている。
ビジネス的な特徴としては、ほとんどのコンテンツを無料開放しているところ。年間7000円近くかかる有料アプリが多い中で、これは異色の戦略といえるかもしれない。
「最高の無料メディテーションアプリを作る」
CEOのクリストファー・プロウマンは常にこう強調している。
「広告モデルに走るアプリもあるが、我々はそうしない。コンテンツを一部だけ無料で開放して、有意義なコンテンツは全て有料にするアプリもあるが、このアプローチも好きではない」(自社ブログより)
ちなみに収益源は主に2つ。
一つはサブスクリプションで、700の有料会員限定コースにアクセスできたり、巻き戻し再生ができたりする。収益は、3割がグーグル/アップル、残りをメディテーションの先生とアプリ側で二分している。
もう一つは寄付。先生に対してアプリ上で寄付ができる仕様になっており、こちらは3割がグーグル/アップル、残りの取り分のうち85%が先生、15%がアプリにわたっている。
触ってみた感想としては、CalmやHeadspaceよりもインストラクターのバリエーションが豊富な点が一番良かった。
色々なスタイルの瞑想が試せるため、飽きづらい。
ライブ配信の瞑想クラスにも参加してみたが、ユーザーのコメントに先生がリアルタイムで反応してくれ、一体感があった。
今回3つのアプリでマインドフルネスを試みた。
感想としては、リラックスできて気持ちが安らいだ瞬間もあれば、やはりアプリなので色々触ってしまい、結局は気が散っているなと感じたときも多々あった。そもそも単なるマインドフルネスというより、BGMになってしまっているな、とも。
やはり、煩悩から解き放たれるには、瞑想の真髄に触れるしかない。
ということで、本日6日の夜は、京都・春光院の副住職で、国内外で瞑想を教えている川上全龍さんを講師にお招きして、ライブ配信を試みることにした。
川上さんは、ハーバードやMITなどのビジネススクールの学生やグローバル企業のCEOにも禅の指導を行っているマインドフルネスのプロだ。
マインドフルネスを極めたい人も、単純にコロナで心が落ち着かない人も、スマホに注意を削がれた心を整えたい人も、ぜひ一度体験してもらえれば幸いだ。