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クーデター二日目から、キリンビールを含めたミャンマー国軍と関連がある企業のリストがFacebookで急激に拡散し、大きなボイコット運動へと発展していました。また、そのリストにある企業で働く社員が抗議のために退職する、という事例もで始めていました。
この問題はこの数年間ずっと続いてきたもので、国際人権団体などの非難を受けて社内で長らく調査が続けられていました。また、ミャンマー事業の軍との繋がりのために、キリンの北米や欧州など他地域での事業にもネガティブな影響を与えていたことも決断の背景にあるのかもしれません。
キリンの決断は民主制の継続を求める運動しているミャンマー人を勇気付けるニュースではありますが、現地でビジネスをする日本人としては複雑な思いもあります。
コロナ禍によってミャンマーの貧困率は16%から60%へと極度に悪化しています。この上クーデターによって投資が引き上げられ経済が低迷すると、ただでさえ厳しい経済環境の人々の生活がさらに圧迫されることになります。
軍政への圧力をかけ続けることと、日々の暮らしにも困る多くのミャンマー人に寄り添うことの両立という難しい問題に、私自身を含め、国際社会は向き合う必要があるだろうと思います。
合弁事業を始めてから1年も経たないうちにこちらから一方的に「解消させてくれ」と申し入れる、向こうからしたらメチャクチャな話だったので、交渉や着地は最初から難航が予想されました。
「財閥系」とはよく言ったもので、要するに創業社長は軍と浅はかならぬ関係があるかもしれない人(本当のところはよくわかりませんでした)。
こちらから手切れさせてくれという話だったので、違約金を支払って手を打つんですが、難交渉になるのは必至なので事前に金額等の条件をすべて決めてドラフトした同意書に合意してから渡航したんですね。
でも、渡航前に交渉しているときから「私は空港職員ともつながっているので、空港であなたを入国拒否にすることも出国拒否にすることもできる」となかば脅してきます。
いやいや、入国拒否はいいけど出国拒否は困るな、オレ日本に帰りたいしと思うわけです。
ところが、現地で双方テーブルに着いたらサインだけしてとっとと送金手続をする予定だったものの、先方社長が「この解約金額はおかしい」とここぞとばかりゴネ出す始末。
言っていることがあまりに理不尽なので、チャブ台をひっくり返してやろうかなとか、論理的に反論すべきかな、とかあれこれ考えが巡ったんですが、どっちも火に油を注ぐことになるな、と。
「さあ、どうしてくれるんだ」と凄んでくる相手に、もう頭が沸騰するくらいに考えをめぐらせて「あー、もうどうすりゃいいんだ!」と万策尽きたか?出国拒否か??との思いがよぎった瞬間、無意識のうちに咄嗟に飛び出たのが必殺「土下座」。もうこれで勘弁してくれ、と。
人生で土下座をしたのは後にも先にもあれっきり一度だけ。向こうも「日本人がそこまでするなら」と当初合意したとおりの条件で手打ちをしてくれたのでよかったんですが。
ま、そんなこともありまして、ミャンマーはまだまだ多くの問題を抱えていてビジネスも一筋縄には行きません。
合弁事業とは、その2社を指しますが、その2社は、もともと国軍系企業の1部門でもあり、キリンHDが過半を出資する合弁会社として運営されていました。民主政権中も国軍系の財閥がミャンマーの経済の中で一貫して重要な位置をしめており、ビール産業に限らず、ミャンマーで事業をするということは、そのような中で事業をするということは、各社わかっていたはずです。
一般的な視点では、企業の社会的責任としての対応として賞賛すべきところ、また消費者としても応援したいところですが、ミャンマー国内政治の背景が実際にははっきりせず、それに伴い、日本政府ですら、いまだミャンマー政府への方向性を明確に出さない中、このような声明を民間企業がスピーディーに出したことには、驚いたと同時に、少し違和感があります。今後の詳しい情報を分析したいと考えますが、クーデターを機会に(理由に)取ったアクションのように思われます。
キリンのミャンマー子会社ミャンマー・ブルワリーとマンダレー・ブルワリーは、元々ミャンマー軍のフロント企業ミャンマーエコノミックホールディングスから過半数の株式を取得した合弁事業でした。
ミャンマーブルワリーは、2017年頃、ちょうどミャンマー軍がロヒンギャに対する追放作戦展開中に軍やラカイン州政府に多額の寄付を行なっており、昨年国際的な人権団体の告発を受け、国連の調査員がキリンに事実関係を説明するよう求める事態になっていました。
これを受けキリンはデロイトを第三者調査人として調査を依頼、ミャンマーブルワリーが軍に関与した明白な証拠はないと発表し、激しい反発を買っていた矢先に今回のクーデターが起こったわけです。
勿論キリンからすればミャンマーエコノミックホールディングスが軍の子会社であることなど承知の上で進出したのでしょうし、元々ミャンマー経済の多くの部分は軍関係者が握っているので、これは経済活動としては当然のことです。
しかし今回の一件に見られるように、今後欧米の人権団体の批判はさらに強くなることが予想され、伝統的に中国と並び軍との太いパイプがあるとされる日本でも、ミャンマーでのビジネスは困難になっていくかもしれません。
https://www.kirinholdings.co.jp/news/2021/0204_01.html
【キリンホールディングスは5日、ミャンマーで発生した軍事クーデターを「大変遺憾」とした上で、国軍と取引関係のあるMEHPとの合弁事業の提携を解消せざるを得ず、対応を早急に開始すると発表した。
キリンは今回の事態が「自社のビジネス規範や人権方針に根底から反するもの」だとコメントした。】
https://www.kirinholdings.co.jp/news/2021/0204_01.html
当然、そういう通常の法的リスクを超えたところでの経営判断なのだと思いますが。