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まず前提として、他に同様に行われているトシリズマブでの試験では、死亡率の改善を示すことができていません。
その試験との決定的な違いとして、この試験では偽薬を準備していない点が挙げられます。治療する医師が、トシリズマブを受けているか受けていないかが分かっているので、トシリズマブの有効性を証明したい医師が、より丁寧で熱心な治療を行い、結果を良くしてしまうようなバイアスがかかるリスクを孕んでいます。
また、既存のステロイド薬との併用における効果は定かではありません。ステロイドにも炎症やサイトカインストームを抑える効果があり、役割に重複が見られます。一方、ステロイドと比較して、1人あたりのコストが圧倒的に高くなります。
さらに、まだ大学からのリリースのみで、査読論文の形で研究の詳細が公表されていません。
本当にトシリズマブを追加すべきかについては、まだ慎重であるべきだと考えます。
昨日も現在のエビデンスを少しだけコメントしました。
https://newspicks.com/news/5522968/
少し話が変わりますが、肺炎の経過判定、つまり良くなってるのか悪くなってるのかの判断には酸素の必要量や呼吸数といったものが用いられます。
胸部単純X線、いわゆるレントゲン、これはだいぶ遅れて改善することも多いのでリアルタイムな観察には不向きです。
熱も気にする方が医療者でも多いですが、重症化すると熱すらも出ないことがあり改善したのか悪化したのかわからないこともあって判断しづらいのが実際です。
現場で最もよく経過判定に用いられている1つが、血液検査の炎症タンパクCRPです(これで経過を見るのはちょっと良くないという側面もありますが)。アクテムラを使うと病状は改善してなくともこの値は確実に低下するので、マスクしてしまうことになり判断に使えなくなります。
炎症を強力に抑える薬ですが、諸刃の刃である側面もあるのです。「副作用」という記載される部分だけでなく。
ファビピラビル(アピガン)もそうですし、ほぼ否定されたシクレソニド(オルベスコ)もそうですが、何かに縋りたいのは医師も同様ですが、冷静に判断していかなければいけないのは医学の歴史がずっと同様に示してくれています。
1 予防(ワクチン)
ウィルス侵入を生体に誤認させ、人体にウィルス抗体を作らせる。
2 原因療法(抗ウィルス薬等)
生体内のウィルス量を減らす。
3 対症療法(抗炎症薬等)
NSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬)、ステロイド系抗炎症薬、喘息治療薬、ヒドロキシクロロキン(抗マラリア薬)など、炎症(肺炎等)の症状を抑える効果がある医薬品に開発ターゲットとしての可能性があるが、免疫能を抑制するものも含まれており、ウィルスの増加につながる恐れがある。
4 血漿分画製剤(免疫グロブリン)
感染者の血液には、新コロナウィルスの抗体ができている。これを分離・精製し、医薬品として使う。
5 新しく開発する医薬品(ワクチン以外で)
基礎研究からスタートして、新規のターゲットを探索するもの。
1~4は現時点で開発情報があります、5は把握していません。
アクテムラは、3の抗炎症薬に該当するので、理論的には重症患者に「有効性>安全性」が期待できると思われます。この仮説から研究計画が作られ、既定の方法により実際の患者で効果が確認できた場合、医薬品として認可されます。非科学的な方法・分析や、作為的な介入の存在が排除できない場合には、許認可の場面では、研究成果は有効と認められません。
医薬品開発では、作為的な介入を防ぐ方法として、二重盲検試験(ダブルブラインドテスト)がよく用いられます。これは、被検薬と対照薬(偽薬や既存薬)のどちらが当たっているか、患者・医師とも明かされないまま投与して、評価を行う方法です。試験後に結果が開示されて集計されます。偽薬(プラシーボ)効果を防ぎ、薬でないのに効いていると感じる心理的バイアスを排除するためです。
医薬品産業の立場で、新コロナ・ウィルス(COVID-19)の医薬品開発のターゲット(可能性)を論考した詳細は、こちら
https://www.facebook.com/photo?fbid=3000158913378581&set=a.1209584355769388
(昨年3月に書いた記事ですので、内容は少し古いです)
重篤患者の方が回復されるということであれば、朗報ですね。英国政府は、重症患者に「アクテムラ」などを使うよう推奨する方針をウェブサイトで公表したとも。
【日本発のリウマチ薬、コロナ治療に有効…英政府が発表】
https://newspicks.com/news/5522968
それにしても未だに「日本で開発!」とか言っているところに少しやるせなさを感じます。
一般人には関係無い
重症 COVID-19 肺炎に対してトシリズマブ(アクテムラ)を使用した 9 症例の報告
https://t.co/VM4qJnJwFJ