インフルエンザ 1週間で全国57人 例年より大幅に少ない状況
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北半球のインフルエンザシーズンはまだ終わりを迎えたわけではないので、この時点で少ないと締めくくるのは時期尚早だと思います。インフルエンザの感染流行はスタートから2週間ですぐにピークを迎えることが可能ですので、これから始まっても遅くはありません。
ここまで報告された数が少ないからといって軽視せず、ワクチン未接種の方は接種していただくことを強く推奨します。
また、仮にシーズンを通して真に感染者が少なかった場合には、それが何に起因したのか、しっかりと分析する必要があります。全ての仮説は仮説に過ぎません。
何か今年の動向から得られる知見が、将来の対策にも活かせるかもしれません。もしかすると受診を控えた結果見つからなかっただけなのかもしれません。あるいは、COVIDが広がり続ける中で同じ飛沫感染をするインフルエンザだけが広がらないのには、インフルエンザワクチンの接種率の向上など、2つのウイルス間で異なる点が要因として見出されるのかもしれません。今年は、インフルエンザだけでなく、RSウイルスなどの流行もきわめて少ないことは確かで、前線での実感もあります。
新型コロナ抗原と同時にインフルエンザ抗原を測定しても、今年は陽性となったことがありませんし、たしかにインフルエンザが少ないという実感もまた、あります。
あるウイルスが流行した際には、他の感染症の流行を抑える効果があることは報告されています。たとえばライノウイルスとインフルエンザウイルスの関係などです。
▷Lancet Microbe 1.6 (2020): e254-e262.
しかし、インフルエンザの流行期にRSV感染症が多くみられることも例年の状況ですし、ウイルス干渉だけで今の状況を説明することはできないでしょう。
新型コロナウイルス感染に対する行動変容が、インフルエンザウイルスの流行を抑える可能性はすでに昨シーズンの状況から報告されています。
▷Jama 323.19 (2020): 1969-1971.
感染症の広がりやすさを示す基本再生産数は、季節性インフルエンザでは1.28、新型コロナウイルス感染症の基本再生産数は平均3.28という報告があります。
▷BMC Infect Dis 2014; 14:480.
▷J Travel Med 2020; 27.
個人的には、この流行しやすさの差から、公衆衛生的な行動のためにインフルエンザの流行がなんとか抑え込まれているのだろうと思ってはいます。
しかし、例年、大きな流行のあるインフルエンザが『流行しない』と確定したわけでもありません。
初期症状から区別がつきにくいこれらの感染症が同時に広がり始めた場合は、極めて困難な状況になることは想像に難くありません。
公衆衛生的な行動と、ワクチンが有用であることは間違いないでしょう。去年のこの時期の救急外来はインフルエンザの患者であふれかえっていましたが、今年はまだ1人も診ていません。年によって流行の時期には差があるのでまだ油断はできませんが、ソーシャルディスタンス、マスク、手洗いがインフルの予防にも重要であることを実感しています。
インフルとコロナは症状では見分けがつきません。インフルエンザの鼻咽頭の迅速検査はエアロゾルが発生する手技であるため、検査自体がコロナの感染を広げるリスクになりえます。今年は防護服や陰圧室などの設備が整っていない環境では検査を控える傾向になっており、検査数自体が減っているのも報告数が少ない要因の1つではないでしょうか。