【IIJ鈴木幸一】僕が私財を投じて音楽祭を支えてきた理由
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西洋の音楽に、他の文明の音楽と比べて普遍性があるということはないだろうと思います。18世紀以降、科学という学術体系を構築して、技術的、軍事的、経済的に優位になり、それとセットで文化も世界中に輸出された、ということだけであろうと思います。
それはともかく、クラシック音楽であろうと、能や歌舞伎、陶芸、現代アートであろうと、およそ文化というのは大量に慣れ親しむことによってしか理解できません。つまり、理解する人が増えるかどうかは、慣れ親しむきっかけが社会にどれだけ多くあるかで決まります。クラシック音楽は、インド古典音楽や現代ロシア音楽に比べれば、慣れ親しむ場が多いといえるでしょう。
慣れ親しむ場を増やすのに必要なのは、金です。欧米の場合、歴史上、教会、次いで王侯貴族、そして経済界が、音楽に慣れ親しむ場をつくることに資金を提供してきました。これは、古典的な音楽が、特権階級と不可分であり、古典的な音楽に慣れ親しんでいるのが特権階級の資格であったことと不可分です。
日本では、古典的な文化を維持する特権階級は解体されたし、残っているにしても経済力を持っていないので、そんなに寄付はできないでしょう。
日本人が文化に金を使わないということはなく、マンガやアニメ、ゲームへの支出は、世界的に見ても断トツでトップクラスです。階級社会のあり方が違う以上、欧米と同じようにはどうしてもできません。企業家の方がこうして文化芸術を支援するのはとても素晴らしいことだと思います。取り上げられていませんが、三木谷浩史さんは東京フィルを、孫正義さんは財団で次世代の音楽家(も)育成しています。かつては、大原孫三郎が大原美術館を作ったりしましたが、社会にとって足りないものを生み出すのが起業家精神だとすれば、慈善活動という以上の意味がありますね。
ところで、米国は寄付型、欧州は公的支援によってオーケストラの運営が成り立っていますが、個人的な趣味をこじらせて、以前、米国のオーケストラの運営を調べたことがあります。ある地方の中規模のオーケストラに聞いたところ、一度そこは倒産したけれど、地元の有力者5名が1億円ずつお金を出し合い再建したとのことでした。日本では考えられないことです。
しかし、ポイントは、やはり日頃からのたゆまぬマーケティング活動です。アメリカのコンサートに行くと、いかに満足してもらうかを地方のオケなどは特にちゃんとやっています。音楽教室や街角コンサートなどのアウトリーチ活動も盛んです。こういう地道な積み上げがあって、寄付が集まっているのだと思います。
日本の文化芸術団体はどうでしょうか。お金をかけずとも、もっと出来ることがある気がします。次の小澤征爾が出てくるのではなく、次の小澤征爾を育てていくことが大切に思うのです。ソニー元社長の大賀典雄さんなど、日本の財界には音楽と縁の深い経営者が多数いますが、IIJの鈴木幸一会長の音楽の支え方は非常にスケールが大きいです。控えめにお話しされていましたが、毎年、豪邸が建つほどの私財を音楽祭のために使ってきたとは驚きました。
2021年の東京・春・音楽祭の概要は、12月初旬に公開予定とのことです。