Startup:今、スタートアップに問われる価値

Startup:今、スタートアップに問われる価値

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Monday: Next Startups

次のスタートアップ

Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週月曜日の夕方は、WiLパートナーの久保田雅也氏のナビゲートで、「次なるスタートアップ」の最新動向をお届けしてきました。連載2年目を迎えるにあたり、これまで紹介した数々の“Next Startup”から選りすぐりの5社を振り返ります。

A photo of a man in silhouette with a telescope in front of a starry sky.
Image: Reuters/Fred Thornhill

2019年11月19日にこの連載が始まって以来、さまざまなスタートアップを取り上げながら、日本で広く伝えられる“一歩先”の情報をお伝えしてきました。

お届けしたニュースレターは50通を数えますが、その間に新型コロナウイルスが大流行し社会のデジタルトランスフォーメーションは加速、世界はまさに変化の渦中にあります。

今回は、連載1周年を前にこれまで紹介してきたスタートアップを振り返り、「今、改めて取り上げたい」5社を選びました。いずれのスタートアップも、それぞれ独自の価値をもっているがゆえに、パンデミックの渦中にあってより輝きを増しています。

1️⃣ 誰でも使えるサービス
2️⃣ 資本市場のイノベーション
3️⃣ デジタルガバメントへ
4️⃣ “ソロプレナー”の時代
5️⃣ 権力解体ののろし


the details

変化で発揮される価値

1️⃣ 1password〜誰でも使えるサービス

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Image: 1PASSWORD

・創業:2005年
・創業者:Dave Teare, Roustem Karimov
・調達額:2億ドル(約220億円)
・事業内容:パスワードを集約し管理するアプリの開発・提供
・初出ユニコーンバブルの逆流、そして倹約スタートアップの時代」(1月6日配信)

いわゆる「ユニコーン」の姿は、今や大きく変質しています。Uberに代表されるような大々的なカネのバラマキでユーザーを掻き集める手法は陰を潜め、本質的なプロダクトの価値でユーザーを惹きつける企業への回帰が起きています。

その象徴と言えるのが、1password。初年度から黒字経営を貫き、14年目にして名門VCのAccelから2億ドル(約220億円)の投資を受けるまで、100%自己資本で運営してきました。

倹約から生まれる、プロダクトへのこだわり。報酬の大きさではなく、ミッションへの共感による採用──。そうした「ユニコーン現象の揺り戻し」は、ほかでも見られます。

いわゆる“営業マン”を抱えず全社員がリモートで勤務するZapier(参考:営業ゼロ全社員リモート企業の秘訣)や、創業以来黒字を続けるBasecamp(参考:GAFAに挑む50人の『メール革命』)、Yコン(Y Combinator)に5回連続で落ちながらも初回の資金調達で2億ドル(約210億円)の高評価を受けたRoam Research(参考:熱狂的『信者』を生むノートアプリ)などは、ユーザーに寄り添い、資本効率を意識しながら成長を目指す、まさにその潮目の変化を示唆しています。


2️⃣ Long Term Stock Exchange資本市場のイノベーション

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Image: LTSE

・創業:2015年
・創業者:Eric Ries, John Bautista
・調達額:6,870万ドル(約75億6,000万円)
・事業内容:長期投資を促す仕組みを取り入れた証券取引所の運営
初出上場したくないスタートアップ(1月20日配信)

「未上場のまま、いつでも、いくらでも資金調達できるなら、果たして上場したいと思う起業家がいるだろうか?」

短期業績にばかり目を向けられ、経営は株価に振り回され、挙げ句の果てに、事業に理解も関心もない株主からとやかく言われる。こうした上場にまつわる課題に向き合う“新時代の取引所”が、LTSE(Long Term Stock Exchange、ロングターム証券取引所)です。

株の変動でさや抜きをする短期投資家を排除しつつ、「持続的な事業を計画し、長期的な投資家と関係を構築」するべく、9月に取引を開始しました。

状況は一変し、コロナで死の淵をみたスタートアップが一斉に上場に向かっています。しかし、見られるのは証券会社を介さない「直接上場」や、裏口上場的な「SPAC」など、資本市場のイノベーションを伴ったIPO回帰です。

「上場と未上場の融合」という文脈で、LTSEの登場も同じように理解できます。硬直的な日本の規制に比べ、新たなスキームが次々と開発・実践される米国の先進性に驚かされます。


3️⃣ The Tuesday Company〜デジタルガバメントへ

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Image: THE TUESDAY COMPANY

・創業:2017年
・創業者:Michael Luciani, Shola Farber, Charley Austin
・調達額:400万ドル(約4億8,000万円)
・事業内容:非営利団体が支援者との関係を強化するためのツール開発
初出対トランプの切り札は、ガブテック(5月11日配信)

民主党ジョー・バイデンと、共和党の現職トランプ米大統領の一騎打ちが明日に迫っています。

政権奪還を目指す民主党が白羽の矢を立てたのが、The Tuesday Companyのサービス「Team」でした。有権者を介して支持を広げるプラットフォームで、従来行われていたメールでの勧誘に比べて、30倍ほど高い効果があるそうです。

ちなみに、社名の“Tuesday”は、米国大統領選挙が11月の第一火曜に行われる事に因んでいます。「Fortnite」内でも活動が繰り広げられたようですが、候補者の名前を連呼するだけの選挙は、テックによって終わりを告げようとしています。

日本では菅新政権の誕生とともに、デジタルガバメントが脚光を浴びています。コロナでリモートワークが常態化し、ローカル化が加速する社会に、新たな行政のかたちを指し示す「ガブテック」に注目が集まっています。


4️⃣ Dumpling〜“ソロプレナー”の時代

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Image: DUMPLING

・創業:2017年
・創業者:Joel Shapiro, Nate D’Anna, Tom Schoelhammer
・事業内容:ギグワーカー自立支援
・初出:立ち上がる『ソロ起業家』たち (6月29日配信)

日本でも議論になることが増えてきたギグワーカー。働き方改革の波と宅配ニーズの急増を受けて、配達員が増加する一方、危険運転が多発するなど問題も見逃せません。

米・カリフォルニア州の「ギグワーカー法」では、UberやLyftのドライバーをはじめとするギグワーカーを請負業者ではなく従業員とすることが義務付けられていますが、これを回避する法案の可否を問う住民投票が明日11月3日に行われます。

否決されれば、雇い主となるUberにとって莫大なコストがかかり、最終的には25%から100%以上の値上げというかたちでユーザーにしわ寄せがいくと考えられます。アナリストの中には同社倒産の可能性を指摘する人もいます。

一斉を風靡した、ライドシェアの凋落。Dumplingはギグワーカーの健全で柔軟な稼ぎ方をサポートし、テクノロジー武装された個人の「真の自立」を支援します。ギグワーカーのその先にあるのは、独立した個人としての起業、「ソロプレナー」(solopreneur)の姿です。


5️⃣ HEY〜権力解体ののろし

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Image: HEY

・リリース:2020年6月15日
・提供元:Basecamp
・概要:プライバシー重視の革新的メールサービス
・初出:GAFAに挑む50人の「メール革命」(7月6日配信)

30%の「Apple」税を巡り、Fortniteを運営するEpic GamesがAppleを訴えたのが8月13日。実はその前に、巨人Appleの「ぼったくり構造」に声を上げたのが、有料メールアプリHEYを運営するBasecampでした。

11月20日には米司法省がGoogleを反トラスト法違反で提訴するなど、ビックテックへの不満が噴出しています。コロナ禍でも業績は最高益で株価は最高値と、勢いを増すGAFA。ユーザーの時間と関心を独占し、個人情報を吸い上げながら利益を搾取する構造に、幹部が飛び出して対抗サービスをつくる例としてNeeva(参考:Google大成長の立役者がGoogleを倒す日)、Humane(参考:iPhone生みの親の「スマホ奴隷」解放運動、始動)も取り上げました。

ネットの覇者、GAFAが淘汰される日は訪れるのか。状況は読めませんが、中央集権的なプラットフォーム解体に匙が投げられた今、大局の変化の兆しを感じています。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。日本証券アナリスト協会検定会員。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)。


This week’s top stories

今週の注目ニュース4選

  1. あたらしい日課:スマホに向けて咳をして感染確認。MIT(マサチューセッツ工科大学)の研究チームの報告によると、無症状の新型コロナウイルス感染者と、感染していない人では「咳の仕方」に違いがあるといいます。人間の耳では判別できないレベルの差異ですが、AIを使えば98.5%の精度で検知できると報告しています。今後はアプリでの展開を視野に、FDA(米国食品医薬品局)認証の取得を進めたい考えが示されています。
  2. まちまちなGAFAの四半期決算。10月29日に発表されたテック大手の7~9月期決算では、Googleは上場以来初の減収だった前四半期から回復し、売上高は前年同期比14%増の462億ドル、純利益は59%増の112億ドル。Appleは売上高が前年同期比1%増の647億ドル、純利益は7%減の126億ドルと、2四半期ぶりの減益。Facebookは売上高22%増の215億ドル、純利益は29%伸びて78億ドルで四半期ベースで過去最高。Amazonの売上高は前年同期比37%増の961億ドル、純利益は前年同期から約3倍の63億ドルと、過去最高益となりました。
  3. TikTokは来週も普通に使える。米政府が11月12日に発動を求めていた、BiteDance(字节跳动、バイトダンス)の人気アプリ「TikTok」の米国での利用禁止措置は見送られます。TikTokの米国事業は、売却が成立しない場合には11月12日にも閉鎖されるはずでしたが、TikTokで生計を立てているインフルエンサーらが差し止めを求め、米商務省を提訴していました。
  4. 「いずれ起業したい人」向け。2017年にスタートしたYコン(YCombinator)のオンラインコース「Startup School」は、従来、すでにプロダクト開発や事業に取り組んでいる創業者を対象にしていました。が、その枠を広げ、将来的に起業を考えている人を対象にした6週間のコース「Startup School for Future Founders」を導入することに。既存のスタートアップ・エコシステムから外れた人材に門戸を開くのが目的です。

(翻訳・編集:鳥山愛恵)


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