東京ゲームショウ2020 オンライン(TGS2020 ONLINE)が2020年9月23~27日の5日間にわたって開催される(23日は商談のみ)。今回は初のオンライン開催だ。そこで長年TGSを取材してきたゲームライターの岡安学氏にeスポーツ関連の見どころを予想してもらった。

東京ゲームショウ2019(TGS2019)e-Sports X RED STAGEで開催された「DRAGON BOOST presents パズドラチャンピオンズカップ TOKYO GAME SHOW 2019」の決勝戦(写真/中村 宏)
東京ゲームショウ2019(TGS2019)e-Sports X RED STAGEで開催された「DRAGON BOOST presents パズドラチャンピオンズカップ TOKYO GAME SHOW 2019」の決勝戦(写真/中村 宏)

eスポーツはオンライン開催でも問題ない?

 新型コロナウイルスの感染拡大により、大型イベントが軒並み中止もしくは延期となり、東京ゲームショウも2020年はご多分に漏れず開催を見合わせた。ただ、千葉・幕張メッセでの開催はなくなったが、初のオンラインイベントとして開催される。各ゲーム会社や関連企業・団体が、ブースを出展する代わりに独自コンテンツの掲載やストリーミング配信を行い、公式チャンネルでも各社の情報を配信する予定だ。

 さて、TGSと言えばここ数年はeスポーツイベント「e-Sports X(イースポーツクロス)」が注目を浴びている。TGS2020 ONLINEもe-Sports Xを開催する予定で、こちらもオンライン対応となる。

 eスポーツはフィジカルスポーツ、音楽ライブ、演劇など、他のライブエンターテインメントに比べ、オンラインに対応しやすいと考えられている。イベントの様子を動画のライブ配信で視聴するのはこれまでと同じ条件なので、観客の有無や、演目によって違いが生じることはないだろう。舞台やコンサートでは、役者や歌手は会場に集まらなくてはならず、そこにコロナ禍での自主規制や制限が入らざるを得ない。しかしeスポーツの場合、選手もオンラインによってリモートで参加できるため、他のライブエンターテインメントにない利点があると言える。

 ただ、eスポーツが「オンラインでもオフラインと同様のことが可能か?」と問われると、それはまた違った話だ。今回、e-Sports Xで開催予定の大会は、「ストリートファイターリーグ:Pro-JP 2020 第1節 開幕戦」「パズドラチャンピオンズカップ TGS2020 ONLINE」「Red Bull Untapped Japan Qualifier by マジック:ザ・ギャザリング アリーナ」の3つ。いずれもプロ選手や予選を勝ち上がったファイナリスト数人など、少数の参加となっている。

 19年までのe-Sports Xは、『ストリートファイターV アーケードエディション』や『DEAD OR ALIVE 6』などは、誰でも参加できるオープントーナメントだった。中でも『ストリートファイターV アーケードエディション』は参加者が1000人を超えた。初心者や中級者も参加できるイベントとして、存在価値が大きかったわけだ。

 オンラインでも同規模の大会ができるかもしれないが、運営側や参加者側にとって、かなり厳しい状態になると思われる。

 例えばオフラインの場合、参加番号に照らし合わせて自分が対戦するテーブルに待機していれば、係員の呼び出しで試合に参加できる。その対戦結果も係員が記録してくれる。しかしオンラインの場合、Discordなどのチャットを使ったやり取りや、大会管理ツールとして使われるSmash.ggのトーナメント表から自分の対戦相手を探し、自ら対戦者とマッチングしなければならない。勝敗結果も口頭で係員に伝えるだけだったものが、Smash.ggの勝敗結果を参加者自ら書き込む必要がある。つまりオフラインでは参加者は当日会場に訪れ、係員の指示で試合をこなすだけだったものが、オンラインになると様々な準備や操作を参加者が自ら行わなくてはならないのだ。

初戦から決勝までハイレベルな試合で見応え十分

 20年7月に『ストリートファイターV チャンピオンエディション』のeスポーツイベント「CAPCOM Pro Tour Online 2020」が開催され、筆者も参加した。これほど大きなオンラインイベントの参加は初めてだったが、かなりハードルが高かったというのが正直なところだ。

 CAPCOM Pro Tourに参加するには、まず公式ページで申し込む。これはオフラインでも同じ。次に大会用のサーバーにDiscordで参加し、Smash.ggで自分の対戦相手を探さなければならない。さらにDiscordで対戦相手のゲーム内IDを聞き、ラウンジを作成して招待するか、逆に作ってもらって招待を受ける、もしくはIDから対戦相手のラウンジを探して入室しなければならない。この手続きに、思った以上に苦労している人がいた。DiscordのIDと『ストリートファイターV チャンピオンエディション』で使用しているファイターズIDが一致しているわけではないので、しっかりファイターズIDを聞いて探さなくてはならない。試合が終わったら勝敗をSmash.ggに書き込み、勝ち進むたびに同様のことを繰り返すことになる。

 つまり大規模なeスポーツオンラインイベントでは、参加者への負担がオフラインイベントとは比べものにならないくらい大きい。大会参加に関する知識や、リテラシーの高さが必要になってくる。トラブルが起こった場合、運営側もDiscordなどのオンラインによる報告を受けて対処しなくてはならず、その負担は大きいだろう。そもそもオフラインによる大会でもトラブルはつきもので、現場に多くのスタッフを配置して対応しているのが実情だ。TGS2020 ONLINEのe-Sports Xにオープントーナメントがなく、大会参加に関してリテラシーの高いプロ選手や事前に指導ができる大会ファイナリストのみが参加するようになっているのは、恐らくそうした理由からだろう。

 確かに「参加するeスポーツ」という側面がなくなってしまったのは、残念であると言わざるを得ない。ただ、前述のようにオンラインにおいては、大人数で、しかもその多くがオンライン大会初参戦となると、トラブルを防ぐのは極めて困難。オープントーナメントを開催しなかったことに関しては、正解ではないかと思う。

TGS2019のNTTドコモブースで開催された『ストリートファイターV アーケードエディション』のアジア対抗戦「Asia Invitational 2019」。日本代表は写真右から竹内ジョン選手、ときど選手、ウメハラ選手という豪華メンバー(写真/佐野 正弘)
TGS2019のNTTドコモブースで開催された『ストリートファイターV アーケードエディション』のアジア対抗戦「Asia Invitational 2019」。日本代表は写真右から竹内ジョン選手、ときど選手、ウメハラ選手という豪華メンバー(写真/佐野 正弘)

 今回のe-Sports Xは3大会と数が少ないのも残念だが、TGS自体がオンラインでの開催となることで、逆にオンライン視聴の注目度はより一層上がると考えられる。「eスポーツ」という言葉を耳にしたことはあるものの、大会やイベントを一度も見たことがない人の目に留まる可能性は十分ある。

 オープントーナメントでないことがすべてマイナスかというと、もちろんそんなことはない。選ばれしプロ選手が集結する大会は、初戦から決勝までハイレベルな試合の連続だ。『ストリートファイターV チャンピオンエディション』も『パズドラ』も『マジック:ザ・ギャザリング アリーナ』も、プロ選手やプロに準ずる世界レベルのプレーヤーのみが出場するので、その技術力や試合運びの巧みさを垣間見られるのは間違いない。

 今回、採用された3タイトルは、いずれもプレーヤー人口の高いタイトルだ。一度はプレーしたことがあるというレベルから、どっぷりはまっている人までかなりの数が存在する。それだけにプロのハイレベルなプレーがいかにすごいのかが理解しやすい。そうした観点からも、上級者のプレーを見たことがない人にとってTGS2020 ONLINEは絶好の機会だ。

 『ストリートファイターV チャンピオンエディション』の「ストリートファイターリーグ:Pro-JP 2020」はプロ選手のみの出場で、4人一組の6チームで総当たり戦を行う(関連記事「金爆・歌広場さん、格ゲー『ストV』がやっぱり大好き!を再確認【TGS2019】」)。ウメハラ選手率いるウメハラゴールド、ときど選手率いるトキドフレイム、ももち選手率いるモモチスプラッシュ、ネモ選手率いるネモオーロラ、ふ~ど選手率いるフードガイア、マゴ選手率いるマゴスカーレットと、リーダーだけでなく、チームメンバーもスター選手ぞろい。今回でストリートファイターリーグは4回目。これまでは選抜オールスターの印象だったが、今回は所属チームの色の濃さが出ているのが見どころと言えるだろう。

 モモチスプラッシュの藤村選手、ハイタニ選手、ジョニィ選手の3選手は、リーダーのももち選手がオーナーを務める忍ism Gaming所属。マゴスカーレットのマゴ選手、もけ選手、水派選手の3人はeスポーツチーム魚群のメンバーだ。個人戦の色濃い対戦格闘ゲームにおいて、あまり目立っていなかった所属チームのカラーや実力が試されるのは、ファンにとっては楽しみだろう。

TGSで配信する意味を持たせてほしい

 『パズル&ドラゴンズ』の「パズドラチャンピオンズカップ TGS2020 ONLINE」は、e-Sports Xで毎年開催されているまさにe-Sports Xの看板タイトルの1つ。19年は中学生プロのゆわ選手が優勝したが、そのゆわ選手よりも年下の最年少プロの海斗☆選手の活躍が期待される(関連記事「『パズドラ』最強決定戦 中学生の優勝が1つの波紋を呼んだ【TGS2019】」)。海斗☆選手は、20年1月に開催された「東京eスポーツフェスタ presents パズドラチャレンジカップ2020」で優勝し、13人目の『パズドラ』プロ選手となったばかりの最年少プロ。中学生プロが活躍する中、中堅、ベテラン(といっても20代前半)がどのように巻き返すかも見どころだ。

「DRAGON BOOST presents パズドラチャンピオンズカップ TOKYO GAME SHOW 2019」の表彰式。ガンホー・オンライン・エンターテイメントの森下一喜社長(写真左)から優勝トロフィーを渡される優勝したゆわ選手(写真/中村 宏)
「DRAGON BOOST presents パズドラチャンピオンズカップ TOKYO GAME SHOW 2019」の表彰式。ガンホー・オンライン・エンターテイメントの森下一喜社長(写真左)から優勝トロフィーを渡される優勝したゆわ選手(写真/中村 宏)

 『マジック:ザ・ギャザリング アリーナ』の「Red Bull Untapped Japan Qualifier by マジック:ザ・ギャザリング アリーナ」は、e-Sports Xとしては初のイベント開催となる。『マジック:ザ・ギャザリング アリーナ』は、トレーディングカードゲームの元祖と言えるタイトルのデジタル版。正式ローンチからまだ1年もたっていないが、カードゲーム自体の歴史は古いため、かなり熟練度の高い戦いが繰り広げられるだろう。20年6月にオンラインで開催された「2020プレイヤーズツアー・オンライン」では、4つの国際大会のうち、2つの大会で日本人選手が優勝するという快挙を成し遂げている。世界レベルの日本人プレーヤーの熱戦を目の当たりにできるチャンスだ。

 最後に今回のe-Sports Xで期待することを述べよう。20年はいろいろなイベントがオフラインからオンラインに切り替わった。しかし、その多くはコロナ禍以前にオフラインと同時に配信していた内容を、そのまま無観客状態で配信するものだ。これではオフラインでの開催のみが中止になり、配信自体は以前のオンラインと変わらない状態と言える。

 現在、新たなイベントの視聴方法として、ゲーム内やアプリ内での視聴が登場している。『Fortnite』のパーティーロイヤルでは、米国人ラッパーのトラビス・スコットや、日本人アーティストの米津玄師がライブイベントを開催し、バーチャルSNSの「cluster」では、eスポーツイベント「RAGE」のVR版である「V-RAGE」を行っている。ゲーム内やバーチャル空間内に視聴者がアバターで参加することで、あたかもライブ会場などの現場で視聴している感覚を得られるようになっている(関連記事「米津玄師が『FORTNITE』内でイベント 実際に参加してみた」)。

 せっかくTGSというフォーマットの中でeスポーツイベントを行うのであれば、そうした話題性のある施策を期待したい。現時点で特別な告知がないため、通常配信になるかもしれないが、ぜひTGSやe-Sports X枠で配信する意味を持たせてほしい。

 配信されるコンテンツは前述の通り、どの大会も各タイトルの最高峰の試合を見せてくれるに違いない。TGS2020 ONLINEに出展する様々な企業の番組をオンラインでじっくり楽しみつつ、e-Sports Xも一緒に楽しめるだろう。特に一度もeスポーツの試合を見たことがない人は、この機会を逃さず、楽しんでもらいたい。

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