新型コロナウイルスの感染拡大以降、日本でも制度の緩和を含めオンライン診療への対応が進んだ。電通アイソバーCX(消費者体験)戦略担当バイスプレジデントのカーダー・ジェネッサ氏は、世界の医療DX (デジタルトランスフォーメーション)の最新トレンドとして「AI(人工知能)の活用」「遠隔医療の浸透」「データ活用」の3つを挙げる。各国の先進事例を聞いた。

カーダー・ジェネッサ氏
電通アイソバー CXストラテジー本部付 バイスプレジデント
10年以上にわたり、コンサルティング業務に従事。美容、ハイテク、ヘルスケア、フィットネスなどの業界でキャンペーン、製品、デジタルエクスペリエンス、デジタルトランスフォーメーションなどのプロジェクトに携わる。

新型コロナウイルスの感染拡大以降、医療業界でのデジタル活用はどのように進んでいるか。

AIの活用、遠隔医療の浸透、データ活用という大きく3つのトレンドがある。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で遠隔医療に対する投資が拡大し、薬局や薬販売のオンライン化だけではなく、医療行為そのものの遠隔化がこれまでの常識を超えて進んでいる。

 まず、AIの導入が進んだことは最も大きな変化だ。AI技術を医療に適応することで、医療行為、患者の優先順位付け、調査など、AIが医師をサポートするようになっている。これまで使われていなかった領域にもAIが使われるようになり、医療産業自体が大きく変わろうとしている。

 ナビマイズという米国企業はAIを活用し、患者のスケジュール最適化をサポートするサービスを提供している。医療機関では待ち時間がかかりがちだ。救急患者への対処など、不測の事態が起こりがちな医療現場にいる医師は、スケジュールのマネジメントが難しい。それをAIを使って手助けをする。仮に予定より1時間遅れている場合、AIが自動的に検知し、予約している患者にアプリを通じてそのことを通知できる。新型コロナウイルスの影響で、待合室が混雑している状況を避けたい患者のニーズを満たせる。

 スイスでは音声と音の認識を利用したAIアプリケーションが、咳の音から患者が新型コロナウイルスの保菌者かどうかを診断できるようにした。遠隔診療では診断のために視覚だけでなく、音をAIの学習に使用できる。

 また、医療従事者が新型コロナウイルスに関する正しい情報にアクセスしやすくなる取り組みを進めたのが、米アイ・ビー・エムだ。同社はAI「Watson」を活用し、医師向けに「COVID-19 response automation」という医療調査支援サービスを始めた。医師や医療業界の従事者が正しい情報にアクセスできるように情報を集め、チャットbotと連携して、チャット形式で情報を引き出せるようにした。

 以前から提供されていたサービスを含め、パンデミックによって世界的にそういった医療を支援するAIの受け入れが進んだ。

患者に向けたサービスはどう進化しているのか。

患者側でも大きな変化が起こっている。遠隔診療、デジタル薬局などは新型コロナウイルスの流行以前から投資家にとってはトップトレンドとなっていたが、消費者には浸透していなかった。それが大きく変わりつつある。アプリやIoTを活用した健康状態のモニタリングサービスや、通院回数を減らすサービスの利用が加速した。

 健康状態のモニタリングはヘルスケア領域のプラットフォーマーが果たせる役割の1つだ。米フィットビットは腕時計型デバイスで取得したロケーション情報や健康情報を活用し、ユーザーとのコミュニケーションプログラムを展開している。感染症に関するロケーションデータや自分の健康指標をどう見るべきかなど、新型コロナウイルス非感染者の平均的な健康状態の指標情報などをアプリを通じて発信した。また、中国では糖尿病のマネジメントアプリの利用が急拡大した。従来は多くの患者が病院に行って診断を受けていたが、通院できない状況が続いたため、アプリを通じて自身の健康状態を示す数値などの情報を提供する患者が増加した。

 英国ではバビロンヘルスという企業がモニタリングの仕組みを提供している。同社はもともとチャットbotを利用して患者の症状から適切な診断を行い、AIが代わりにオンライン診療や病院を予約してくれるサービスを提供していた。新型コロナの流行後はそれに加え、体温や現在の気分などをチャットbotを通じて尋ねるAI問診の仕組みを開発した。AIとチャットの活用で定期的に問診をする同社の仕組みも、患者を遠隔でモニタリングする仕組みの1つと言えるだろう。

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