democrats hold unprecedented virtual convention from milwaukee
Handout//Getty Images
ミシェル・オバマ(Michelle Obama)

11月3日に行われるアメリカ大統領選挙。民主党の候補者を正式に指名する民主党全国党大会が現地時間8月17日(月)に始まった。今回は新型コロナウイルス感染症を受けて多くの支援者がビデオなどのバーチャルで登場した。初日の最後、ビデオメッセージで指名候補者のジョー・バイデン氏にエールを送ったのはミシェル・オバマ前大統領夫人。今、アメリカ大統領に必要な資質について語った。

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みなさん、こんばんは。今は非常に苦しい時期で、みなさんはそれをそれぞれ違う形で受け止めているでしょう。それに多くの人が今、政治集会や政治全般に目を向ける気持ちになれないということもわかっています。私にもそれはわかります。でも私はこの国を心の底から愛しているから、そして多くの人が傷ついているのを見るのはとてもつらいから私はこの場に来ています。

私はみなさんの多くと会い、みなさんのストーリーを聞きました。そしてみなさんを通してこの国の希望を目にしてきました。そして私の先人たち、彼らの苦労と血と汗のおかげで私自身もその希望を実現してきたのです。

それがアメリカのストーリーです。もっと豊かになりたい、子どもたちのためにもっといいものが欲しい、そう思って犠牲になり、多くのことを克服してきた人たち。それがアメリカのストーリーなのです。

このストーリーには美があります。痛み、闘い、不正義、そしてやり残した仕事もあります。私たちがこの選挙で大統領として選ぶ人物は、私たちがそれを称えるかどうかに関わりなく、その闘いを終わらせ、不正にコツコツと取り組み、残された仕事をやり遂げるという可能性を繋いでいくのです。

今生きている人間の中で、私は大統領という職業の計り知れない重さと畏怖を起こさせるような力を直接知っている一握りの中の1人です。ですから改めてこう言わせてください。この仕事はとても大変なものです。明晰な頭で判断し、複雑かつ矛盾することに精通し、事実と歴史に目を向けること。道徳的規範と人の話に耳を傾ける能力、この国の3億3000万人の命には意味と価値があるという不変の信念。これらがすべて必要なのです。

大統領の言葉には市場を動かす力があります。戦争を引き起こす力がある一方で、平和をもたらす力もあります。大統領の言葉は私たちの中の善良な天使を呼び集めることもできれば、最悪の衝動を目覚めさせることもできるのです。ごまかしながらこの仕事を乗り切ることはできないのです。

一般投票では300万票の差で負けた人物を大統領執務室に送ることになった

以前にも話したことがあるように、大統領になってもその人の人となりは変わりません。人となりが露わになるのです。ですから、大統領選挙もその人をそのものを露わにするものです。4年前、あまりにも多くの人が自分たちの一票には意味がないと信じる方を選んでしまいました。おそらく彼らはうんざりしていたのでしょう。結果がこんなに接戦だとは思わなかったのかもしれません。また障壁が険しすぎると考えたのかもしれません。原因はなんであれ、その選択が一般投票では300万票の差で負けた人物を大統領執務室に送ることになったのです。

大統領選の結果を左右した州の1つでは、勝敗を決めた得票数の差が1選挙区当たり平均2票でした。2票です。私たちはこの2票がもたらした結果を耐えて生きているのです。私の夫は雇用の創出で記録を作り、ジョー・バイデンと共にホワイトハウスの執務室を去りました。2000万の人の健康保険を持つ権利を守りました。私たちの国は世界から尊敬され、気候変動に立ち向かおうと同盟国をまとめる存在でした。私たちのリーダーは科学者たちと協力して取り組むことによって、エボラ出血熱の発生が世界的なパンデミックになるのを防いだのです。

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ミシェル・オバマ(Michelle Obama)
大統領がこのウイルスをあまりにも長く軽視し続けたことから15万人以上が死んだ

それから4年後、この国の現状はまるで違います。大統領がこのウイルスをあまりにも長く軽視し続けたことから15万人以上の人が亡くなり、経済は最悪の状態です。何百万もの人が失業したままになっています。あまりにも多くの人が健康保険を失い、食糧や家など生活に必須のものを確保するために苦闘しています。あまりにも多くのコミュニティが学校を再開すべきか、どうすれば安全に再開できるのか自分たちで取り組まなくてはならないという苦境にあり、そのままにされています。世界的に見ると私たちは、夫が築き上げた国際的な合意だけでなくレーガン大統領やアイゼンハワー大統領が押し進めた同盟関係にも背を向けています。

国内ではジョージ・フロイドやブレオナ・テイラーのように罪のない有色人種の人たちが際限なく殺され続けています。そして「黒人の命は大切だ」という単純な事実を口にするだけで、この国の最高職を担う人から嘲りの態度を取られるのです。

私たちが幾ばくかのリーダーシップや慰め、もしくは安定らしきものを今のホワイトハウスに求めても、返ってくるのはいつでも混乱や分断、まったく共感に欠けた態度です。共感。私は最近これについてよく考えます。誰かの立場になって考える能力。どんな人の経験にも価値があるのだという認識。私たちの多くはこれをよく考えなくても実践できます。誰かが傷ついていたり、苦労していたら、立って判断(「上から目線で批評する」の意)したりはしません。「神のご加護がなければ私も不幸な目にあっていた」と思い手を差し伸べるのです。これは理解するのが難しいことではありません。子どもたちにも教えていることです。

多くのみなさんと同じように私とバラクも、自分たちが両親や祖父母たちが教えてくれた価値観を受け継いでいくために、娘に対してしっかりとした道徳的規範を教えようと最善を尽くしてきました。でも今、この国の子どもたちは、私たちがお互いに対する共感をやめてしまったとき何が起きるのかを目にしています。私たち大人がこれまでずっと、私たちがどんな存在なのか、本当に価値あるものは何なのか、嘘を教えていたのだろうかと子どもたちは訝しがりながら、周りを見回しています。

権力が「強欲は善だ」口にするのを見ている

子どもたちは食料品店で大声でわめいている人たち、みんなの安全のためにマスクをつけるのを拒む人たちを見てきました。自分のことをしているだけの人たちを肌の色を理由に警察に通報する人を見てきました。権力が「一部の人だけがここに属している」「強欲は善だ」「自分がトップにいる以上、勝つことがすべてだ。他の人たちに何が起きようと関係ない」と口にするのを見ているのです。そして共感の欠落があからさまな侮蔑へと勢いを増したときに何が起きるのかを見ています。

子どもたちは私たちのリーダーが私たちの仲間である市民に国の敵だとレッテルを貼る一方で、たいまつを持った白人至上主義者を煽っているのを見てきました。子どもたちを家族から引き離し、檻の中に放り込むのを怯えながら見てきたのです。写真を撮るためだけに平和的なデモの参加者がペッパースプレーやゴム弾で攻撃されるのも見ています。悲しいことに、これが次の世代の目の前に示されているアメリカなのです。政策においてだけではなく、品性という点でも標準以下の国。これは嘆かわしいだけではなく、まったく腹立たしいことです。なぜならこの国の家庭、身の回りの近隣社会には善良さと品位があることを知っているから。

人種や年齢、宗教、支持政党に関わらず、騒音や恐怖を締め出し、真に心を開いたとき、この国で今起きていることは正しくないと認識できるのです。これは自分たちのなりたい姿ではないと。では私たちは今何をすればよいのでしょう。私たちの戦略とは何なのでしょう。

ドナルド・トランプは私たちの国に相応しくない大統領

この4年間、私は多くの人から聞かれました。「相手のレベルがこんなにも低俗なとき、それでもまだ高いレベルで立ち向かうのが有効なのか?」と。私の答えはこうです。「高いレベルで立ち向かうことが唯一のやり方です。もし私たちも低いレベルに落ち、相手を貶め非人間的に扱うという同じ戦術を取れば、私たちもすべてのものを消し去る醜い騒音の一部になってしまうから。私たちは自分を、そして私たちが戦っている大義そのものを貶めることになるのです。

でもここで明らかにしておきましょう。高いレベルで立ち向かうということは悪意や残酷さに直面したとき、笑顔を浮かべて親切な言葉を口にすることではありません。高いレベルで立ち向かうというのはより困難な道を行くことです。山の頂上まで必死に、何とかして進んでいくこと。私たちが神の下の一つの国であることを心に留めながら憎悪に断固として立ち向かうこと。生き延びたいのであれば私たちは共に生き抜く道を見つけ出し、違いを越えて一緒に働いていかなくてはなりません。

高いレベルで行くということは、私たちを真の意味で自由にしてくれるもの、つまり冷徹な事実によって嘘と不信という足かせを外すことなのです。

ここで正直に、そしてはっきりと言わせてください。ドナルド・トランプは私たちの国に相応しくない大統領です。これまで、彼には大統領という仕事ができるということを証明するのに十分すぎる時間がありました。でも明らかにこれは彼の能力ではできない仕事です。彼はこの瞬間に対応できていません。私たちが求める人物にはなれないのです。

これがありのままの事実なのです(※)。

私は自分が政治を嫌っていることも知っている

私のメッセージがある一部の人たちには届かないことはわかっています。私たちは今、深く分断された国に住んでいますし、私は民主党党大会でスピーチをしている黒人女性ですから。でもこれまでにもうたくさんの人たちが私のことをわかってくれています。私が今自分の思いをそのまま言っているということ、私が政治を嫌っていることも知っています。でも同時に私がこの国をとても大切にしていること、私がこの国の子どもたちをどれほど大事に思っているのかも知っています。

だからもし今晩、あなたが私の言葉の中から1つを受け止めるなら、それは今から言うことです。「もし事態がこれ以上悪くなることはないと思っているなら、私の言うことを信じて。もっと悪くなることはあり得る。この選挙で変化を起こさなければもっと悪くなる。この混乱を終わらせたいという希望を持っているのなら、私たちの命がかかっているんだと思ってジョー・バイデンに投票しなくてはいけない」。

president obama and first lady host st patrick's day at the white house
Pool//Getty Images
ミシェル・オバマ(Michelle Obama)、ジョー・バイデン(Joe Biden)

私はジョーのことを知っています。彼は心から慎み深くて真っ当で、信念に導かれて行動する人です。素晴らしい副大統領でした。経済を救い、このパンデミックを食い止め、国を率いて行くのには何が必要なのか知っています。人の話を聞き、真実を伝え、科学を信じる人物です。賢明な計画を立て、いいチームをマネージメントしていくでしょう。私たちみんなが理解できるような生き方をしている人物として、国を統治していくでしょう。

ジョーが子どもの頃、彼の父親が失業しました。まだ若い議員だったときには妻と赤ちゃんだった娘を失いました。副大統領だったとき、愛する息子を失いました。彼は座るべき人がいない席のあるテーブルにつく苦しみを知っています。だから彼は嘆き悲しんでいる親たちに会う時間をとるのです。彼は苦労を知っています。だから彼は吃音を克服した子どもたちに自分個人の電話番号を教えるのです。

人は立ち上がることができるということの証、それが彼の人生です。彼は同じ気概と情熱を、私たちを元気づけ、傷を癒すのを助け、前へと導くことに注ぎこむでしょう。ジョーは完璧な人間ではありません。そう告げる最初の候補者になるでしょう。でも完璧な候補者も、完璧な大統領もいません。彼には学び、成長する力があります。それは今、私たちの多くが熱望している謙虚さと成熟の中に見出すことができます。ジョーはこれまでのずっと、自分を見失うことなくこの国に尽くしてきました。でもそれ以上に彼は私たちが何者なのかを見失うことがありませんでした。

ジョーはこの国の子どもたちがみんないい学校に通い、病気のときには医師にかかり、健やかな地球に住むことを望んでいます。彼にはそれを実現するための計画があります。ジョーはこの国の子どもたちがどんな外見であっても、嫌がらせを受けたり逮捕されたり殺されたりするのではないかと不安に思うことなく、外を歩いてほしいと思っています。銃撃されることなく映画を見に行ったり、数学の授業を受けたりできることを望んでいます。自分やお金持ちの仲間のために働くだけのリーダーではなく、困難に直面している人にセイフティネットを用意するリーダーのもとで成長してほしいと願っているのです。

公正な手段では勝つことができないとわかっている人たちが、私たちに投票させまいとしている

これらのゴールはきちんと機能している社会にとっては基本的で必須のものですが、もしこれを実現させるチャンスが欲しいと思ったら、なかったことにできないくらい多くの人がジョーに投票しなくてはなりません。なぜなら今、公正でごまかしのない手段では勝つことができないとわかっている人たちが、できる限りの手段を講じて私たちを投票させまいとしているからです。彼らはマイノリティの人々が住む地域で投票所を閉鎖しています。有権者名簿を処分しています。有権者たちを威圧するための人を送り出し、投票のセキュリティに関して嘘をついています。こういった戦術は今に始まったものではありません。

でも今は抗議のために棄権したり、勝つ見込みのない候補者たちと遊んだりしているときではありません。2008年や2012年の大統領選のように投票しなくてはならないのです。ジョーに対して同じような情熱や希望を持って選挙に参加しなくてはなりません。もし可能であれば早く、直接に投票してください。今すぐ、今晩、郵便投票を請求し、記入してすぐに送りかえしてきちんと受理されたか確認しなくてはなりません。そして友達や家族も同じようにしたか確認しなくてはならないのです。

歩きやすい靴を選び、マスクをし、夕食を、もしかしたら朝食も紙袋に入れて持って投票所に出かけなくてはなりません。なぜなら、私たちは必要なら一晩中並ぶこともいとわないからです。

私たちは、今年に入ってからすでにたくさんのものを犠牲にしました。多くのみなさんがすでにこれまで以上の努力をしているでしょう。疲れ果てているときでも、想像できないくらいの勇気をかき集めて手術着を身につけ、私たちの愛する人に闘うチャンスを与えてくれる人がいます。不安出会っても荷物を配達し、棚に品物を補充し、私たちみんなが生活を続けられるように必要不可欠な仕事をしてくれる人がいます。

すべてに圧倒されそうなときでも、働く親たちはチャイルドケアなしにどうにかやりくりしています。先生たちは子どもたちが学習し、成長できるように創意工夫を重ねています。若い人たちは自分たちの夢を求めて必死に闘っています。

真の姿がリーダーたちに映し出されるべき時期はとっくに来ている

制度的な人種差別の恐怖が私たちの国と良心を揺るがしたとき、あらゆる年齢、あらゆる背景を持つ何百万ものアメリカ人が、お互いのために行進し、正義と進歩を求めて強い抗議の声を上げました。

これが私たちなのです。思いやりと立ち直る強さを持ち、寛大で、互いに運命を共有し合う人間なのです。私たちの真の姿がリーダーたちに映し出されるべき時期はとっくに来ています。

ジョン・ルイスのような英雄たちに共鳴し、歴史の中で声と票を集結させることが私たちの責務なのです。ジョン・ルイスはこう言っています。「正しくないものを目にしたときは声を上げなくてはならない。何か行動をしなくてはならない」。これが共感の真の姿です。感じるだけではなく、行動すること。自分たちや自分の子どもたちのためだけではなく、みんなのため、みんなの子どものために。

もしこの時代に進歩する可能性を残したいと望むなら、この選挙のあとも子どもたちの目を見つめたいと思うなら、アメリカの歴史において私たちがまだ力を持っているということを主張しなくてはなりません。

そして私の友人であるジョーを次のアメリカ大統領に当選させるためにできることをすべてやらなくてはならないのです。ありがとうございました。神の御加護を。

【注】※「It is what it is(それがありのままの事実です)」は、今月(8月)初め、トランプ大統領がCOVID-19感染拡大により全米で15万人以上が命を落としたことを問われ、「死んでるよね。それは事実。それがありのままだ」と答えたセリフを引いて批判していると思われる

【訂正】(正)「一般投票では300万票の差で負けた人物を大統領執務室に送ることになった」 (誤)「一般投票では30万票の差で負けた人物を大統領執務室に送ることになった」 お詫びして訂正いたします(2020.08.31)

Translation:Yoko Nagasaka