将来にわたる電源不足の回避を目的に政府が強力に導入を進めてきた容量市場の初回オークションがいよいよ始まる。結果次第で小売り競争や将来の電源投資が変わる。今後の電気事業に大きな影響を及ぼしかねない入札の動向を占う。

(出所:Adobe Stock)
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 「当社はゼロ円で入札しますよ」

 政府が導入を主導してきた新市場の目玉である容量市場の初入札がいよいよ7月1日に始まり、7日まで実施される。

 発言は自前電源を持つ大手新電力の幹部だ。容量市場で必ず落札し、自社電源に対する「容量拠出金」を確実に手にする狙いからだ。

 電源を持つ新電力の場合も販売電力の全てを自社の電源で賄えるわけではない。販売電力の多くを市場や外部の発電事業者に頼る新電力は、トータルでは容量拠出金を負担する立場になる。「その負担をいくぶんかでも軽減するには、自社で所有する電源については容量拠出金の獲得が必須」(前出の大手新電力幹部)。別の新電力幹部も「電源を持つ新電力の場合、確実に落札するため最低入札価格で入札するケースがほとんどではないか」と見る。

きちんと監視しないと大変なことになる

 今回の入札は4年後の2024年度に全国で必要とされる発電能力(kW)の量と価格を決める。全ての小売電気事業者は前年の需要実績に応じてkW対価を、市場管理者である電力広域的運営推進機関を通して、落札した発電事業者やDR(需要応答)などのアグリゲーターに支払う仕組みだ。

 容量市場を導入する背景には「自由化の進展」がある。小売市場における新電力のシェアが高まる中、取引所を介した卸電力取引の比重が増した。日々変動するスポット市場の価格だけが指標では、「電源の投資回収の予見性が低下し、投資が滞るおそれがある」というのがた政府の言い分だ。卸電力市場とは別に電源の固定費相当の一部を回収する仕組みとして立ち上げたのが容量市場である。要は、将来にわたる電源不足を回避するのが目的だ。

 はたして、この新たな仕組みは電力小売りや発電事業にどのような影響を及ぼすことになるのだろうか。

 容量市場は発電事業者などの入札で決まる供給曲線と、広域機関が4年後の需要予測を基に人為的に作成した需要曲線の交点から約定価格と量が1つだけ決まるシングルプライスオークション方式を採用する。冒頭の大手新電力のようにゼロ円で入札しても、落札すれば一律の約定価格に基づく容量拠出金を受け取れる。約定価格がいくらになるかは、全国の電源の大半を握っている大手電力の入札が決め手になる。

 「(数千億円と)動く金額が大きいだけに、きちんと監視しないと大変なことになる」

 5月29日、容量市場の詰めの議論をした資源エネルギー庁の有識者会議(第40回制度検討作業部会)の場で、複数の委員が市場監視の重要性を指摘した。

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