iPS細胞で骨格筋幹細胞、筋ジスの再生医療に光 京大iPS研が移植手法を開発
コメント
注目のコメント
筋ジストロフィーは筋力低下や筋肉の萎縮が進行していく、まれな病気です。デュシェンヌ型筋ジストロフィーはその中では最も頻度が高く、X染色体の遺伝子の異常によっておこるもので、新生児の男の子の3000人に1人程度の罹患頻度とされます。3歳頃に発症、10歳頃に歩行が不可能になり、20~30歳で呼吸不全や心筋障害で死にいたるという経過をたどる病気で、十分に有効な治療法がないため家族にとってもつらい病気です。
記事の内容によるとマウスの実験の段階のようですが、今後臨床への応用が進んでいけば治療法の希望になると思います。幹細胞移植では移植後に「定着するかどうか問題」がいつもつきまといます。いわゆる"Trophic Effect"と言って「移植直後の元気な移植細胞が出す成長因子や各種ホルモン、エクソソーム等によってその環境が活性化されて治療効果をもたらす」という現象があり、いわゆる「再生医療に成功した!」という場合は実はこのケースのほうが多いです。iPSC等の多能性幹細胞の場合には目的としない細胞への分化や異常増殖に懸念を払拭する必要がありますが、Trophic Effectを狙う場合にはむしろ定着しないほうが都合がいいという事情があったわけです。
今回の対象となる筋ジストロフィーでは移植されるホストとなる患者さんの細胞をいくら元気にしようとしても元々の遺伝子変異の課題が残るので、1)遺伝子治療、2)細胞/組織移植、しか方法がありません。つまりTrophic Effectでは治る可能性は極めて低いわけです。そもそも心筋を始め筋繊維への幹細胞の定着は20年近く研究されていますが、未だに非常にハードルが高い状況でした。これまで筋ジスについては神戸大学を始め遺伝子治療が盛んに行われてきていますが、今回は細胞そのものが定着し、患者さんの筋肉となってはたらく可能性があるという研究であり、遺伝子治療と保管しうる治療方法が期待されます。
この先実用化に向けては「製品」としての多くのハードルがあるわけですが、筋組織の定着というのはかなり大きな技術的な進捗なので、今後のご研究成果が非常に楽しみです!