カイコの体内で生成 新型コロナのワクチン候補、来年度にも治験へ 九大
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ニュースと言うよりインタビューに近い記事かなと思います。
九州大学と 九大発スタートアップの記事ですが、また新しい論文がでた情報でも、治験の承認を得たなどでもなく、来年度に治験にはいる予定という情報で、ここからだなと思います。
カイコで目的のタンパク質を大量生産するアプローチは以前から存在し、受託生産サービスもある技術です。ただ、九大のチームは多くの種類のカイコを保有しており、長くこの研究に携わってらっしゃるので、うまく今回のスパイクタンパク質が大量に生産できることを確認できた結果は新しい情報であると思います。
専門的にはなりますが、この方法はバキュロウイルスを個体に感染させて、それぞれの中で工場のようにタンパク質を産生させます。(そして最後はすりつぶしてしまいます。。。)
利点としては、1匹1匹がそれぞれ独立して生産をするので大量培養を行おうとした場合に、単純に数を増やせば良いのでスケールアップの検討にかかるコストを省くことが可能な点です。
大腸菌や、酵母、培養細胞を使用したタンパク質産生の場合、培地とのバランスやコントロールをするために高度なバイオリアクターの設計をしなければなりません。
またタンパク質は細胞内で産生された後、さらに糖鎖修飾というものを受けて、存在します。この糖鎖修飾が曲者で、遺伝子配列から産生されたタンパク質は同じだけれども糖鎖の衣が違うだけで、その分子の機能に影響がある例も多くあります。
糖鎖修飾のない大腸菌等と比較して、カイコの糖鎖はヒト型の修飾に近いのでその点は利点でありヒトに感染したウイルスのスパイク蛋白と近い糖鎖修飾を持った製品を作れる可能性があります。
一方で、懸念点は近いと言ってもやはりヒトのそれとは違う修飾という事です。
まだプレプリントの情報ですが、最近SARS-CoV-2 のスパイクタンパク質の糖鎖がワクチンを作るのを難しくしているというデータを示す報告も出てきています。
また、経口で口から投与する形のワクチンを目指しているため、本当にカイコ由来糖鎖付スパイクタンパク質が、ヒトに免疫を獲得させるワクチンとなるかは課題も多いところだと推察しています。
治験の結果を待って見ないとわからないのはそれまでですが、カイコのタンパク生成技術それ自体の優位点は、他にも有り、ワクチンへの一つのアプローチとして期待したいと思います。カイコは実は創薬研究に向いていると言われています。
その理由は、
ヒトと、体の組織の構造の共通点が多く、疾患モデルを作りやすい、
マウスより安価、
養蚕技術によりカイコはたくさん準備できる、
自然回帰能力を失って飼いならされているので扱いやすい、
などです。
ワクチンの実用化自体ももちろん待ち望まれますが、
それが安価であればなおさら素晴らしいです。
今後の成果に期待します。九州大学大学院に2019年に発足したバイオラボも蚕の研究をしていて注目しています。シルクを取り出すには蚕を殺す必要がありましたが、蚕を殺さずに糸を吐き出して不織布を構成するというもの。天然素材のシルクはサステナビルティーな視点からも期待されていますね。
ちなみに蚕を殺さずにシルクを取り出す方法は1991年にインドの織物研究家が開発しピースシルクと言われています。
この記事もそうですが、研究者が研究できる環境は重要だなと今一度認識しました。