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ただし、時間を要した理由の少なくとも一つは、対象や条件を巡る様々な方面からの要求への対応であり、結果として最小融資額や借り手の雇用者数などの面で、当初の「中堅企業向け」の位置付けから「中小企業向け」へと大きく変質した印象を受けます。
その上で、効果と副作用の双方の面に懸念が残ります。
他の専門家の方が指摘されたようにPPPでは利用企業名がメディアなどに出回って、様々な批判を巻き起こしました。今回もこうした議論になる可能性があり、不正使用でなくても、借り手が風評被害を恐れて利用を逡巡するリスクも残ります。
もう一点はFRBによる信用リスクの負担の問題です。この制度では、銀行が実施した貸出債権の95%相当部分を新設の基金が買い取り、ボストン連銀が買い取り資金を融資します。財務省がこの基金に出資することで、最初の損失はこの自己資本で吸収しますが、それを超えた部分はFRBの負担となります。
リーマンショックの際にもFRBは信用リスクを実質的に負担するスキームを発動しましたが、他の専門家の方が指摘されたように規模が全く違うだけでなく、与信の期間も遥かに長い点で異例の措置です。
不要な政治論争に巻き込まれないためだけでなく、モラルハザードの防止や借り手企業の再生のためにも、状況が落ち着いたら、借り手企業が普通の銀行融資に円滑に移行できるよう、借り手と銀行の双方にインセンティブの生じる仕組みを加えることが望まれます。
MSLPの実施に当たっては、連邦政府が資金の一部を拠出して、その金額までの損失は、FRBの負担にならない枠組みを整えました。また、MSLPで直接的な融資を担う民間銀行が、リスクの5%を負担する形で野放図な融資を抑制する仕組みも入っています。そうした形で政府と中央銀行の役割分担を明確にしたわけですね。
ちなみに日本銀行も民間企業の直接的な支援に乗り出していますけど、政府と日銀との間には損失負担の取り決めがありません。もしも日本銀行が大きな損失を被ると、国民に選ばれたわけでない機関が税金を“勝手に”使う形が起き得ます。
MSLPは「3月に発表された」ものですが、これだけの仕組みを整えて3ヵ月程度でスタートさせ得たことは、早くて立派と見るべきでしょう、たぶん (^^)
なお、今回のスキームは、以下のように民間銀行の融資をFRBが買い取って信用リスクを負担するもの(日経新聞より https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60389620W0A610C2FF8000/)
「直接的な融資は民間銀行が担うが、その95%はFRBが設立するSPV(特別目的事業体)が買い取る。形式的には間接融資だが、損失リスクの大部分はFRBが抱えることになる。融資期間は5年間で、当初の2年間は元金の返済すら不要だ。新型コロナで売り上げが減少した企業は当面の運転資金を確保できる。
FRBは通常、融資などの取引を民間銀行に限っている。ただ、根拠法である連邦準備法では「異常かつ緊急時」に限って、FRBが企業や個人にも資金を出すことが認められている。今回の事業会社への融資は、2008年の金融危機時にも踏み込まなかった極めて異例の措置となる。」
これから更にこの中小企業向け貸出ファシリティで6000億ドル。これらの合計金額は、全銀行のコロナ前時点の企業融資総額の50%程度に相当します。本当に大変革です。
その分企業のバランスシートは膨らみ、一部は政府負担になっていくわけですが、一体どこでどう巻き戻すのか、気になります。
PPPには中堅や有名スポーツチームも申請し、資金を受けていましたが、本来の給与保護プログラムの趣旨に合わないと批判を受け、返金するところも出ていました。MSLPにはそういうところも申し込みができる。
最大6,000億ドル、日本円にして65兆円という大規模な融資制度。中小企業救済策としては、PPPと合わせ手厚いセイフティネットになっています。